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254 『ワーストカイザー』

 杖を持った青年。

 彼は当然、マルチャーノの操るアンデッドである。


 ――杖。この特徴だけではわからないが、衣装からしてこの人も古代マノーラ人か。もしかしたら、医者か錬金術師……?


 この世界における当時の医者も錬金術師も知らないが、連想される姿はそのあたりだった。智者らしき聡明さが双眸に浮かぶ。


 ――どんな魔法を使うのか、それにも気をつけないと。


 どのような学問の徒であろうと、もっとも重要なのは魔法だ。

 ミナトが相手取っている魔法戦士とは違って、今度の青年は戦闘が得意には見えないが、魔法次第で展開はいかようにも変わる。

 急ぐことなく、歩いてこの場へとやってきたアンデッド。

 こちらへと歩いてくる厳かな佇まいから医者や錬金術師の可能性を考えたが、近づくと彼の肉体が引き締まっていることがわかる。

 顔立ちの精悍さ。

 強靱な肉体。

 そして、よく観察すれば腰には短剣もあった。

 サツキはあるポストが思い浮かぶ。


「まさか、皇帝や政務官などか」

「よく気づいたな。貴様のような晴和人がこの国の歴史など知らんと思ったが、かつての皇帝くらいはわかるか」


 マルチャーノはそう思ったようだが、サツキは知っていたわけではない。

 そもそもこの世界の人間でもないし、まして晴和王国の人間でもない。歴史も知らない。

 医者や錬金術師のような知性を感じたあとで、鋼のような肉体を見て、その高貴な顔と強い身体から想像できたのが、皇帝という名前だった。

 無反応のサツキにもマルチャーノは滔々と語る。


「やつは強さゆえに独裁者だった。力だけで国家を束ねるほどの器を持っていたのだ。知勇兼ね備えた最悪の皇帝。それが今は我が手足同然というわけだが……貴様はどこまで情報を持っている? 名前だけか? 魔法も知っているのか? それとも、性格まで知識として有しているのか?」


 クク、とマルチャーノは笑いを堪えるように必要以上にあごを引いた格好でサツキを楽しげにねめつける。


 ――情報? そんなものはないさ。


 苦戦は必至らしい。

 そう直感した。

 しかしそれでも、マルチャーノが複数人を同時に操る中の一人でしかなく、だれかに操られる独裁者など、その本領をどれだけ引き出せるものか。

 いくら知勇兼ね備えた最悪であろうと、その頭脳をマルチャーノが超えていなければそれ以上にはなりようもない。

 サツキは杖に注意を払いつつ、手の中に刀を出現させた。


「頬の血も止まった。ここから気兼ねなく戦えるな」

「フ」


 と、マルチャーノは鼻を鳴らすように笑って、


「会話など無意味だったな。貴様がなにを知っていようとなかろうと、オレの手でこいつはもっともっと強くなるのだから」


 そう言い切り、サツキを舐め回すように見て笑いを収める。


 ――城那皐、貴様がどこまでの器か見せてもらおうじゃないか。オレを興奮させてくれよ? 期待を裏切るなよ? そうしたら、貴様を誘神湊といっしょに育てて殺して永久にしてやるから。最高の玩具に仕上げてやるから。


 マルチャーノは興奮を抑えるように深く呼吸して、髑髏の魔力を高めてゆく。

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