236 『プラクティカルユーズ』
「ヒヨクさんとツキヒさん、行っちゃったね」
階段脇を三段跳びするように通り過ぎ、二人はあっという間に参番隊の後ろを駆け抜けていった。
「《中つ大地》」
と。
リラはつぶやく。
ナズナは聞いた。
「それで、《空中散歩》が、できるんだっけ?」
「うん。応用技だね」
「すごいなあ。わたし以外に、空を飛べる人って、オウシさんしか見たことなかったのに、ああやって空中を歩けるなんて……」
それというのも――
《中つ大地》。
これは、重力が発生するポイントを生み出すことができる。
そのとき、《中つ大地》は小さな球体状となる。
つまりは小さな星なのである。
「あれはヒヨクさんの使い方のうまさがすごいんだよ。《中つ大地》は、小さな地球みたいなものと言えるからね。引力を持ったそれを足場にして、空中を歩くことができるの」
空中を歩く魔法《空中散歩》は、そんな原理に従っている。
それをさらに応用して、階段の脇にいくつかのポイントに《中つ大地》を設置し、まるで空中を三段跳びするように渡っていったのである。
ナズナのように空を飛べる魔法を使える人間などそうそういない。
しかしそれをなんらかの方法で実現する人間がいるのもまた、魔法の妙であり、その人の想像力が生み出すおもしろさでもある。
一方で。
ツキヒの魔法はヒヨクとはまた違った種類のものだった。
《シグナルチャック》。
信号の開閉。
電気信号を送り、信号を開いたり閉ざしたりできる。
たとえば、運動神経に働きかけて、歩くための信号を閉ざせば、その相手は歩けなくなってしまう。目を閉じさせることや心臓を止めることなど、あらゆる神経回路に干渉して信号を開閉してしまう。
――ツキヒさんの《シグナルチャック》も複雑多岐な使い方ができる。しかも、電気信号なんて目で見えない。気づけない。なにが起こったのかさえわからず、機能を奪われてしまう。
それは圧倒的な力といえる。
――脅威的な魔法だわ。よくサツキ様とミナトさんはあれに勝てたって、今更ながらに思ってしまう。しかも、サツキ様は《シグナルチャック》の原理まですべて見抜いてしまった。本当にすごい。
リラはワンピース型の防弾チョッキを描き終えて、
――そんなサツキ様を、天才剣士のミナトさんと、ヒヨクさんとツキヒさんが助けてくれる。油断はできないけど、心配はいらないよね。
まずは自分で頭からかぶって着用した。
手袋とマフラーもして着心地をチェック。
「うん、いいかも」
「リラちゃん、かわいい」
「ありがとう。はい、これはナズナちゃんの分だよ」
「わ。ありがとう」
ナズナが「うんしょ」と着て、嬉しそうにリラを見返した。
「どう、かな?」
「似合ってる。かわいいよ」
「ふふ」
準備ができて、リラはナズナに言った。
「さあ。リラたちも戦おう。て言っても、リラは弓も使えないし、今はテディボーイのぬいぐるみにも入れないから、見守るしかできないけど」
「なにか、危険があったら教えて。わたしが、がんばるよ」
かくして。
リラとナズナも隠れるばかりじゃなく、戦闘に参加するのだった。
ただ、チナミがすでに片づけている部分も多く、ナズナはフォローに入るだけで、積極策には出ない。
足止めもじきに完了するだろう。
あとは、参番隊がいつここを引き上げて二階に向かうかだ。
二階では。
苦戦中だった。
未だ足踏みしており。
三階に行けずにいる。
突破口を探していた。




