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232 『マスコットアーマー』

 参番隊の目的は、主に二つある。

 第一に、ヴィアケルサス大聖堂一階にいる敵が二階より上に行けないようにすること。

 敵が二階に押し寄せれば、サツキたちは二階の敵と一階から迫り来る敵との挟み撃ちにあってしまう。

 サツキたちはさらに上の三階に行かなければならないから、この一階の抑えは重要なのだ。

 第二に、参番隊の連携強化をはかること。

 これまで参番隊が三人だけで強敵と戦うことはほとんどなかったといってよい。

 しかしこれからはどんな任務が振られるかわからない。

 サツキにも「三人の連携を試すにはいい演習になる」と言われたが、三人のコンビネーションは大事な課題となってくる。

 三人そろって同じ目標に向かって動くことは、決して簡単ではない。

 まして、その指揮をする隊長・リラには初めて向き合う課題もたくさんある。

 したがって。

 今回のここでの戦いは、ちょうどよく参番隊に与えられた演習チャンスでもあるのだ。

 目的の第一と第二、いずれもクリアしたいとチナミは思っていた。


「ねえ、リラ。試したいことがある」


 そう言ったのは、特に目的の第二、参番隊の連携強化にとって効果を見込んでのことだ。


「なんでしょう?」

「おそらく、このお城と私とナズナの遠距離攻撃だけで要塞は完成する。敵は先へ行けない。でも、完璧ではない」

「そうだね。完璧はどんなことにもないものね」


 チナミはやや遠くを指差す。


「銃を持ってる人もいる。あれらはずっと私たちから離れて、影から狙ってた。でも、さっきまでは敵の中を駆けていたから、同士討ちを避けるために発砲はしないでくれていた。砂嵐の煙幕も狙いをつけづらくした」

「そっか。ここからは、天守閣にいるリラたちを撃ち放題になるのね」

「そういうこと」


 彼らは移動を開始し、こちらに迫ってきている。

 適度な距離を保ち、自分たちが有利に戦える間合いで発砲するつもりだろう。

 ナズナは光の矢を手に取り、


「あの人たちと、弓で、戦えるかな?」

「たぶん、スピードで勝てない。分が悪い」


 弓矢と銃では、速度の違いが大きい。

 同じタイミングで打とうとしたら、当然勝つのは銃だ。


「じゃあ、どうする?」

「チナミちゃんには作戦があるってこと?」


 二人に聞かれて、チナミはこくりとうなずいた。


「ボディーアーマー」

「ぼでぃ?」


 ナズナにはピンときていない。

 リラはやや首をかしげる。


「防弾の鎧ってこと、かな?」

「そう。鎧ほど大げさな見た目じゃなく、防弾チョッキ。サツキさんの世界にはあったみたい。材質にも種類はあるけど、化学繊維でつくれる」

「それを創ればいいのね?」


 胸の前で拳を握りやる気を見せるリラ。


 ――やっぱり、頼られると嬉しいんだ。隊長向きな気質ではないけど、助言はしやすいかな。


 助言も喜んで聞いてくれるのは、チナミとしてもやりやすい。ワンマンも悪くはないが、そんなリラのほうが支えたくなるというものだった。

 だが、チナミはうなずかない。


「創るのはチョッキじゃない。リラには《真実ノ絵(リアルアーツ)》のほかに、《着ぐるみチャック》がある。だから、全身がそんな素材でできた人形を創って、私がその中に入って戦ってくる」

「じゃあ、リラが戦うよ」

「リラは指揮官。広い視野を持って、様子を見て、なにかあったら声をかけて。ナズナと二人、丈夫な盾でも創ってその影に待機していればいい」


 リラは少し考えて、


「うん。わかった。よろしくね」

「任せて」


 了承してくれた。

 しかし、もどかしそうでもあった。

 頼られたのに、自分が前線で戦えないのが辛いのだ。

 チナミはそこまでは気づかなかったが、いつリラも戦うことになるかわからない。機会はくるだろう。


「ちょっと待ってて。すぐに描くから」


 リラは空中に筆を走らせる。

 スラスラと描いたのは、チナミのお気に入りのキャラクターであるぺんぎんぼうやの着ぐるみだった。

 ただし、特殊な生地でできている。


「いいね」


 チナミはお気に召したらしい。

 ナズナは思わず笑顔になる。


「かわいい」

「気に入ってくれてよかったよ」


 リラも生地を触って確かめる。


「大丈夫、かな」

「きっと平気。《真実ノ絵(リアルアーツ)》は無限の可能性を持った力。リラの想像力は戦術を描く上では不可欠になってくる。よく見て、次の糧にして」

「うん」


 とリラがうなずくと。

 チナミはこくりとうなずき返し、リラの取りつけた《着ぐるみチャック》で着ぐるみの中に入り、ぺんぎんぼうやの姿で準備運動する。可動域も許容範囲内。そして、天守閣から飛び降りた。

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