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197 『カムインサイト』

 ヒナはうさぎ耳をピクリと動かした。


「なるほど。あれが来て、そのだれかさんが現れると」


 次の瞬間――。

 再び、空間の入れ替えが起こった。

《兎ノ耳》を持つヒナは敏感にそれを察知したが、今度はそばにリラもいるしリョウメイもいるから、すぐに動くことはしない。はぐれる心配もない。

 逆に。

 相手のほうから現れてくれるらしい。


「待ってるのではなく、現れる。その通りね」


 道の先には、鷹不二氏の一人がいた。

 距離にして三十メートルちょっと。

 音で確認しなくとも、見ればわかる。

 着物を優雅に着こなす飄々とした佇まい。

 あれは、ヒナも知っているくせ者だった。


「でも、よりによってあいつだったなんて。どういう悪縁なのかしら」


 (たか)()()氏の『鷹不二の御意見番』にして『便利屋』、鷹不二水軍一軍艦にも名を連ねる文化人。

『茶聖』(つじ)(もと)(ひさし)

 ついさっきまで、ヒナが行動を共にしていた相手だ。

 なんの企みがあるのか、そのときには最後ヒサシに逃げられてしまったのである。

 だが、こうしてまた会えたのはどんな悪縁だろうか。

 ヒサシはニヤニヤとおかしそうに歩いてくる。


「つくづく縁があるよねえ。ねえ、ヒナくん? で、なにか言わなかった? 聞こえなかったから教えてくれる?」

「どういう悪縁なのかしらって。そう言っただけよ」

「ああ、そう。同じこと思ってたわけだ。いや、ボクは悪い縁だとは思ってないけどさあ」

「へえ。さっきは逃げたくせに?」

「やめてよー。それじゃあボクが悪いことしてるみたいじゃない」

「違うの?」

「あはは。違う違う。いいことしかしてない。ボクたちにとっても、キミたちにとってもね」

「けど」


 と、リョウメイが口を挟む。


「うちら碓氷にとってはそうでもない、やろ? ライバルやねんからなあ。しかも、士衛組にとっても先の先まで考えればいいとも言い切れない。なんせ、恩着せがましく助けられて、あとから(せい)()(おう)(こく)の戦で味方しろとせっつかれたりする訳やし。まだここは士衛組の運命を決める時やあらへん。うちはそう思います。士衛組のためにもなあ」

「自分だけ良い人みたいなこと言うなんて、ズルいなあ。お宅も士衛組を味方に引きずり込みたいって思ってるくせに、よくもまあそんな二枚舌が使えたもんだよ。キミみたいに面倒なくせ者はうちでは普段トウリくんが相手してくれるんだけど、今回はここにいるのはボクだけなんだよねえ。だから、今回の戦いでどっちが士衛組を助ける役目を担うか。ボクとキミとで勝負しようよ? あくまでボクたち二人だけで、どっちが今回身を引くかって勝負をさ?」


 リョウメイはニヤリと笑った。

 それから、ヒサシを見据えながらリラにささやく。


「一旦ここで、護衛は仕舞いや。あとは、この戦いの中心地――ヴィアケルサス大聖堂へ行けばええ」

「ヴィアケルサス大聖堂」


 その名前は、ロマンスジーノ城にほど近い場所にある大聖堂である。

 ヒナにもその名前は聞こえていた。


「行くわよ、リラ」

「はい」


 返事をして、リラはリョウメイにお辞儀をする。


「リョウメイさん。ここまでありがとうございました。ご恩はきっとお返しいたします。またお会いしましょう」

「またな。リラはん」


 リラとヒナは動き出す。

 残ったのは、リョウメイとヒサシ。

 くせ者同士の二人だった。

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