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194 『ビフォーサウンド』

 (うき)(はし)()()はひとりマノーラの街を歩いていた。

 さっきまで同行していたヒサシには逃げられ、ひとりきりになると、ヒナは仲間との合流を第一目的に、情報収集を第二目的に動いている。

 ピンと立ったうさぎ耳をピクピク動かして、周囲を探知する。

 このうさぎ耳はカチューシャで、うさぎ耳のカチューシャはヒナが《(うさぎ)(みみ)》を使うための必需品である。常人の百倍くらい小さな音や遠くの音が聞こえるこの耳の魔法で、周囲の音を敏感に探っていた。


「だれかいないかしら。敵でも鷹不二氏でもなくて、だれか味方が……」


 足を止め。

 ピクリと。

 うさぎ耳を動かす。


「いた」


 しかし、すぐには足を動かさない。


「だれ?」


 考える。

 仲間の声が聞こえた。

 だが、もう一人。

 知らない相手がいっしょにいる。

 いや、知らないわけではないかもしれない。


「聞き覚えがあるような……そうじゃないような……」


 そのとき、ヒナはとある音の発生を察知する。


 ――来た! まずい……!


 とある音。

 それは、


「空間の入れ替えが起こる!」


 今のこのマノーラ特有の現象、空間の入れ替えが発生する際に聞こえる音だった。

《兎ノ耳》は音になる前の音を聞くことができる。

 正確に言えば、たとえば声ならその言葉になる前の息の感じで読み取れるし、足音なら足が地面に接触する直前の空気の流れる音まで聞こえるのである。

 そんな具合に音を聞き分ける能力に著しく長けたヒナだから、何度か空間の入れ替えに遭遇すれば、その音を覚えるくらい造作もなく、さらには聞き分けることまでできるようになったのだった。


 ――せっかく聞こえた声! 追いつく!


 足に集めたパワーで。

 びょーん、と飛ぶ。

 ヒナの持つ魔法には、《兎ノ耳》のほかにもう一つある。

 全身をバネのように扱える、《()(つき)》。

 玄内にもらった魔法で、元々はソクラナ共和国の首都バミアドで戦った盗賊団の一人が持っていたものだったが、これを玄内が《魔法管理者(マジックキーパー)》で没収して改良し、そうしてヒナがもらい受けた。

 バネのように大ジャンプして。

 空間の入れ替えが起こるであろうポイントを飛び越える。


 ――やった! 越えた。空間の入れ替えはおそらくこの辺から……。


 そう思って空中で振り返ると。

 やはり空間はヒナの少し後ろで切り離され、別の空間が現れた。ヒナはこの空間の入れ替えによる転移を回避できた。


「よし。よかった。あとは着地ね。……ふう、飛び過ぎちゃったわ」


 前方に見える家の壁を今度の足場とし、T字になった道を右折すれば、ヒナの目指す二人がいるはず。


「次はこっち」


《跳ね月》でのジャンプを繰り返そうと、家の壁に足を着け、次のジャンプをした。

 予定通り右へと曲がって飛び。

 空中で、二秒。

 ふと気づく。


 ――あれ? さっきの声が聞こえない! 空間の入れ替えに意識をもってかれちゃってたから、あっちの声を拾うの忘れてた!


 ヒナは慌てて声を上げる。


「ちょっと待って! 確か、曲がって割とすぐのところに……!」

「すぐのところに、なんやろなあ」


 声がしたほうへ、ヒナは目を向ける。視線だけ右に切った。

 そこには、士衛組の仲間がひとりと、もうひとり。


「えっと……?」


 なじみのない顔に一瞬ぽかんとして、ハッとして叫んだ。


「あーっ!」

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