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193 『リアジャストメントロード』

 ナズナは空を飛べる。

 空からなら、この街を広く見渡すことができ。

 必要な区画を《(ふく)()(きょう)》に映しきることもできるはずだ。

 鏡に映したら、あとは福笑いの要領で入れ替えてしまえばいい。


「動かす本人は鏡の中を見られないが、このマノーラの街並みを知っている私とエルメーテくんが教えればいい。そういうことだね」

「はい」


 オリンピオ騎士団長が要約して、ナズナの意図をエルメーテにも伝える。


「そっか! すごいよ、ナズナちゃん」

「い、いえ。それほど、では……」


 褒められて少し恥ずかしそうにするナズナだが、すぐにまたオリンピオ騎士団長を見上げて、


「やって、みます」

「頼んだ」


 ふわっと、ナズナが空に飛び上がる。

 高く高く飛び、鏡を街に向けた。

 位置関係から、ナズナは鏡を真下に向けるような格好になる。この場所からだと、必要な全体像を映すにはより高い位置から真下方向がよかった。

 しっかりと鏡に映し出し、1番のボタンを押してキャプチャーする。鏡には街が景色が保存された。

 ナズナは地面に舞い戻る。


「さっそくやってみよう」

「は、はい」


 それから、ナズナは目を隠して、オリンピオ騎士団長とエルメーテの指示に従い街の区画を整理していった。

 整理ができると。


「まだ決定はしないでいいね。また空間の入れ替えが起こったらその都度直せるように、このままで行こう」


 と、オリンピオ騎士団長が言った。

 決定してしまうと、次のキャプチャー待機状態に移り、画面が切り替わるから区画整理ができなくなる。

 あくまで配置の変更を施しただけであって、そこからまた他者が魔法で干渉することもできるのだ。

 準備ができたので、ナズナたちは出発する。


「ロレッタちゃん、大丈夫、だからね」

「うん!」


 ぎゅっと、ロレッタはナズナの手を握った。

 オリンピオ騎士団長は鏡を片手に先導する。


「まずはロレッタくんの家に行こう」




 ナズナたちは《(ふく)()(きょう)》を手に入れた。

 それは常時、街の動きに合わせて変動してくれる地図を手に入れたようなものだった。

 特に、このあとの変化が重要なのである。

 どんな変化に着目したのか。

 それらも含めて、リディオはサツキに教えてくれた。


『サツキ兄ちゃん。またナズナ姉ちゃんが大事な情報をくれたぞ。アキさんとエミさんが小槌で魔法道具を出してくれたんだけどな、それが――』


 と。

 リディオは《(ふく)()(きょう)》について話してくれた。

 ナズナが気づいた《(ふく)()(きょう)》の使い方と、それによってわかった街の変化と街の修正箇所を教えてもらう。

 そして。

 オリンピオ騎士団長が経過観察してわかったことを伝えてくれた。


『あと、オリンピオ騎士団長は一カ所、動かない区画を見つけた。他の区画が入れ替わっても、そこだけはずっと動かなかったらしい』

「なるほど」

『そういうことだ。そこが、やつら――サヴェッリ・ファミリーの拠点になる』

「だな」


 ラファエルが続けて。


『観測者が自ら動くことはしないはずとの見立てですね。条件が自身からの半径距離で効果を求めるとすれば納得です。逆に、範囲を先に決めているのであれば、その限りではありませんが』


 たとえば、自分から半径十メートルという条件であれば、やはりオリンピオ騎士団長の見立ては正しい。

 もし半径距離ではなく、範囲が円形にならないのであれば、範囲はもっと複雑に決められることを意味するから、動かない地点に意味がなくなる。

 とはいえ、動かないポイントは明らかに怪しく、なによりサツキにはそこがサヴェッリ・ファミリーの拠点と裏づける理由がある。


「リディオ、ラファエル。実は、たった今、俺たちはクコと合流した」

『やったな! サツキ兄ちゃん!』

「鷹不二氏のスモモさんもいっしょだ。そして、スモモさんからはボスの居場所も教えてもらった。オウシさんが探し当てたらしい」

『そうきたか! じゃあ、ありがとうって伝えておいてくれ! とにかく裏づけもできたしナイスタイミングだな!』

「そうだな。俺たちはスモモさんの案内でそちらに向かって動き出したところだ。またなにかあれば連絡してくれ」

『おう! わかった! またな!』


 通信が切れた。

 サツキはスモモに、今聞いた情報を話しておく。もちろん、クコやミナトにも伝える意味もある。


「ということです。ちょうどそっちからも同じタイミングで情報があって、裏づけが取れたことになります」

「あとはボスを叩くだけか! 了解、それじゃあ急ごっか」


 スモモは平素のように朗らかで、ミナトと雑談しながら先導してゆく。

 ここでの計算も感情の変化もない。

 だが、本来ならばホッと胸をなで下ろすところだった。

 あと少し、サツキたちがボスの居場所を先に知っていれば。

 オウシの与えた情報の価値が下がり、思惑が外れるところだったのだ。しかし、オリンピオ騎士団長たちの検証に時間がかかったことが幸いした。そして、スモモがちょうど居合わせ、案内できることが最大の幸運だった。鷹不二氏から士衛組に売れた恩は大きい。

 突き詰めて言えば、ナズナ引いては士衛組が『トリックスター』アキとエミからもらった幸運をオウシの頭脳と行動が上回った、と評価できる。

 ただし、そのオウシの描いた予想図は、アキとエミの介入で少しだけ歪み、情報の価値が少しだけ下がった。とはいえ、それだけのことである。

 サツキもスモモもその裏に気づかぬまま、最終局面へと向かってゆく。

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