188 『クーリエサービス』
スモモに、サヴェッリ・ファミリーのボス・マルチャーノの居場所が判明した、と告げられサツキは驚嘆した。つい「なんだって!」と声にまで出してしまったほどだ。
「本当ですか!?」
「すごい!」
クコ、アシュリーもびっくりして大きなリアクションをした。
それは喉から手が出るほど欲しい情報だからである。
情報の価値はわかっているはずなのに、三人に比べミナトはのんきに微笑を浮かべて、
「僕はヒサシさんって方をあんまり知らないから過小評価するつもりもないが。そいつを突き止めたのは、やっぱりオウシさんですかい?」
「そ。さすがミナトくん。わかってるー!」
「いやあ、オウシさんとは友だちですから」
友だち。
それも、旧友。
しかし古いなじみというにはミナトにとってそれほど昔のことではなく、いつまでも鮮やかに親しいままの記憶でつながっている。つい先日会ったときも、あまりに変わらない姿にうれしくなったくらいだ。
それだけミナトにはオウシのことが今なおわかる気がしていた。
――やっぱり、急所を突くように、そこまで重大な情報を狙って、そいつを手に入れる嗅覚と能力。それをしたのは、オウシさん以外の人物じゃァ普通できない。
普通じゃできないことをする人は、オウシ以外に考えられない。
――まあ、嗅覚って意味じゃァ、スサノオさんはオウシさん以上。だけど、あの人の鋭さはもっと鋭利で、その切れ味はあの人自身で斬ってこそのものになる。きっと、ボスの情報を知っても身体が先に動いて、倒してやったって事後報告をされるだけだろうしねえ。
スモモはミナトとオウシの仲の良さを知っているから、
「お兄ちゃん、絶対ミナトくんのためなら頑張るって思ってたし、有益な情報をあげられてわたしもうれしいよ!」
あはは、と楽しげに笑う。
「やったね、サツキ」
ミナトは柔和な微笑を向ける。
サツキは「うむ」とだけ答えた。サツキにとって、これほど重要な情報を得られたことは非常にありがたかった。手を叩いて喜びたいくらいだ。しかし同時に怖くもあった。手柄が大きすぎる。鷹不二氏が士衛組にしてくれたことの価値が大きすぎるのだ。
だから素直に喜べなかった。
――今日のこの戦いが始まって、鷹不二氏も参加してきたと知って。俺は、なんとなく鷹不二氏に借りをつくりたくなかった。恩を売られるのは嫌だった。あとでどう返せばいいのかと思うと、いい気がしない。でも、鷹不二氏が心情的にも士衛組と友好関係を築こうとしているのはたぶんそう。ただ、すべて鷹不二氏の意のままになるのは避けておかないと。そうしないと、あとで大変なことになる。そんな気がする。
その心配は当分の間はただの杞憂に違いなく、なにかあってもずっとずっと先のことだろう。それでも、スモモからもたらされたこの情報はうれしいばかりじゃなく、サツキに不思議な警戒心を持たせた。
だが、もちろん、今はそんなちっぽけな警戒心ばかりに気を取られることもなく、目の前の大きな敵との戦いに意識があった。
――まあ、サヴェッリ・ファミリーのボスを倒したって報告じゃないだけマシか。裁判を控えた今、せっかく士衛組の宣伝に使える材料だったのに、『ASTRA』と手を組んだ士衛組がただ助けられたんじゃ、悪い印象にはならないまでもみすみすチャンスを逃したようなものだからな。
しかし。
その手柄をサツキに立てさせるための最高のアシストをする、というのがオウシの狙いだった。だからあえて自ら手を下さない。あとでオウシから何気ない素振りでそれを指摘され、初めて気づかされる計略。そんな可能性を今のサツキは微塵も考えなかった。
ともあれ、それは後の話。
「その場所には、行く方法があるんですか?」
サツキの質問にスモモは即答する。
「あるよ。わたしが連れて行ってあげる。ついてきて」




