185 『リカバーセンス』
ジェラルド騎士団長はミナトに向き直り、穏やかに言葉をかけた。
「いろいろあったようだ。それでも、あなたは彼を仲間だと言った。その絆は本物だったのだな」
ミナトは少しハッとしたように目を上げ、わずかに口を開くが、なにも言えなかった。言葉が見つからなかった。
「士衛組が戦う理由は、王女姉妹やアルブレア王国のため。それはそうなのだろう。だが、ほかにもきっといくつもの絆や想いを背負ってのことなのだろう」
「はい」
と、今度は力強く答えるミナト。
「だから、あなたたち二人はあれほどに強い煌めきを放つのだな。聞かせてくれてありがとう。感謝する」
「あれは……」
不意に、アシュリーが通りに目を向けた。
そちらには、数名のマノーラ騎士団がいた。
「おーい」
ミナトが大きく右手を振って、アシュリーも両手をあげてその手を振る。
二人に気づいて、マノーラ騎士団が駆けつけた。
「こ、これは……!」
驚くマノーラ騎士団に、サツキは言った。
「アルブレア王国騎士団、『独裁官』ジェラルド騎士団長です」
「この通り、我は士衛組に降伏した」
ジェラルド騎士団長もそう言うと、マノーラ騎士団はまた驚き合っていた。
そのあと、サツキたちはジェラルド騎士団長の治療をマノーラ騎士団に頼み、自分たちは出発することにした。
まだ、サヴェッリ・ファミリーとの戦いは終わっていない。
ボスが待っている。
どこかで、息を潜め、待ち受けている。
動き出す直前、ジェラルド騎士団長は呼び止めた。
「二人共。我が常子澄から聞き知っていることは一つ。ボス・マルチャーノが特殊な魔法を使いこの街を動かしている。あらゆる者を利用する非道な男らしい。気をつけろ」
サツキとミナトとアシュリーがジェラルド騎士団長にお礼を言って立ち去ってからわずか数分後……。
道の先で、角から人が飛び出した。
陽気な足取りで弾むように歩いていた。
よく見知った顔に、サツキは表情が和らぐ。
「あはは。ようやくだね、サツキ」
「なんだか様子はちょっと違うけど、あれって……」
ミナトとアシュリーも気づき、向こうもサツキに気づいた。
「あー!」
とても嬉しそうに、キラキラと輝く瞳でサツキを見る。
「しゃちゅきしゃまー! きゃー!」
大興奮で駆けてくるのは、赤ん坊みたいにきゃっきゃと大喜びするクコだった。
「こらこら。また勝手にどっか……て、サツキくん?」
すぐ後ろから追いかけるのはスモモである。スモモはサツキたちを発見し、ホッとしたように表情を緩めた。
「やっと解放される」
「うぅー!」
笑顔を咲かせてどんどん近づいてきて、クコは飛びつくようにサツキに抱きついた。
「しゃちゅきしゃまー!」
「お疲れ」
サツキはクコに抱きしめられながら、背中に回した手で肩に触れる。
触れることで魔法効果を解除するグローブ《打ち消す手套》で、クコにかかっていた幼児化の魔法《人格ツボ押し》が解除された。
クコは正気に戻って、ちょっと照れたように笑った。
「ただいま戻りました。サツキ様」