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176 『パトリオティズム』

 ジェラルド騎士団長は堂々と、信念を持つ者の顔で、


「真に国を想う心は我にあり」


 と言い切った。

 自分以外に、ブロッキニオ大臣も士衛組もだれも、真に国を想う心がないと断定する口ぶりだった。

 すると、ミナトは戦いの最中であることを忘れたように、剣にかけていた手を下げて、


「じゃあ、なんで……泣く人がいるんですか」


 その声には強さもなく感情も見えにくいが、悔しさや悲しさ、痛みや無念さ、様々なものがない交ぜになったように思える。

 サツキにはそう見えた。

 そして、その人がだれであるかを察した。


「泣く? なんの話だ」

「ある人は泣いたんですよ。国のために泣いた。王女たち王家のために泣いた」

「それがどうした」

「あなたが考える以上に、国を想っている人はほかにもいるものです。あなたが考える以上に、あなたは国のことを考えられない人のようです」

「なんだと!?」

「こんな事態になってもなおなにも知らず、知ろうと動かず、今になってブロッキニオ大臣などの命令をただ聞くだけでは、ただのブロッキニオ大臣の操り人形だ」

「貴様ッ……!」


 ジェラルド騎士団長は怒りを滲ませるが、ミナトは構わず続ける。


「その人もすれ違いがあるかもしれないと考えてみたり、いろいろと調べて動き回って、苦労が絶えなかったようでした。板挟みってやつでしょうか。でも、自分で考え抜いて泣いたんですよ」


 ――そして、僕に託したんですよ。


 と。

 それは口にしなかった。

 国を託して死んだその人を、ミナトは友として見送り、託された約束を果たそうと決意した。

 サツキにはそれが(れん)(どう)(けい)()のことだとわかった。ある程度のことはミナトから報告を受けている。

 だが、サツキにはその「泣いた」という言葉に、クコの顔が浮かんだ。


 ――そうだ……クコも国を想い、ケイトさんのことも想い、そして俺のことを想い、この苦しい状況と哀しい世界を想い、泣いたことがあった。いや、あれは特に俺のために泣いてくれたのだろう。あれだけ苦しむ人がいて、涙を流す人を見て、ブロッキニオ大臣を信じることなどできようはずもない。ミナトの言うとおりだ。


 それほどに、ジェラルド騎士団長の言葉は軽く聞こえる。国を想う心など本当にあるのだろうか。

 ミナトはまた口を開き、


「僕は自分の目で見たものを信じて言います。僕は心からクコさんが国を想って戦っていると確信しております。ブロッキニオ大臣がどうしようもなく敵でしかなく、クコさんたち王家を中心とした国を守るためになら、戦う運命にある。そう思っています。だから、なにも知ろうとせず、知る努力もしていないくせに僕たちに刃を向けたあなたはどこまでも敵でしかない」


 そう言って、ミナトは剣を抜いて先をジェラルド騎士団長に向けた。


「勝負がつくまで、この剣は収められません」


 ジェラルド騎士団長は胸を反らし、小さく息を吐いた。


「よい宣戦布告であった。(いざな)()(みなと)、確かに貴様の指摘はすべて正しい。やつのことも正しく知らねばならん。こんな事態になったことの責任はアルブレアの地を離れてしまっていた我にもあり、あの地を守るグランフォードにもある。あいつにも問いただす必要もある。我は自ら判断する機会を作らず呆けていたようだ。これからやるべき仕事は多い。だが、我の答えは変わらぬ。勝たねば、我は自らが納得した上で決断することはできんのだ。ゆえに、貴様の相手もそろそろ終わらせようか」

「僕たちもね、やるべきことは多いんですよ。わかりました、そろそろ、決着をつけましょう」


 ミナトがサツキを振り返る。


「さあ。サツキ、やれるかい?」

「うむ。やれそうだ」

「そうか」


 手を差し伸べられ、サツキはミナトの手を握って立ち上がった。

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