第八話
「うわぁぁぁぁ!!」
私は二日の馬車の旅を経て王都にいた。そこはいたるところに人、人、人で埋め尽くされていた。
「ここが王都。アラネージュだ。ここには全てにおいて人が集まっているのは、見てわかるね」
静音の目は行き交う群衆にくぎ付けになっていた。
「シズネ。観光もよいとは思うが。人を待たせているのでね」
「誰かと待ち合わせをしているのですか?」
「王様だよ」
「ひゅっ!?」
突然の衝撃だった。
「いいいいつの間にそんな約束を?」
「立ち寄った宿場町で連絡をね。聖剣の話をしたら快く受け入れてくれるとね」
「聖剣についてはまだお役に立てるのかわかりませんのに・・・」
「いや、異邦の技術があれば大丈夫さ」
そう言われてウィリアムに案内されて人ごみの中を歩いて行った。しかし人込みに飲まれることは無く、人ごみは海を割るようにして開かれていった。
「剣聖様じゃー」
「あれがドラゴンから切り出したと言われる・・・」
そう言えばウィリアムさんは出会った時と同じように大きな大剣を背負っていた。
「あれがアスカロンか・・・」
アスカロン。ウィリアムさんが過去に討伐したというドラゴンの骨から切り出したという大剣。王国の何人もの腕利きの鍛冶師が丹精を込めて作ったとされる剣であると聞いた。見ているだけでそのオーラというべきものが伝わってくる。また、それに勝る剣を作ってみたいとい思いも生まれていた。そして街並みを抜けて開けた場所に着いた。そこには絵本でみたことがあるような形の城が建っていた。
「ここが王城。王様がいるところだ。名前はヴィルヘルム四世。長くこのスペリア王国を治め、繁栄させてきた名君だ。まぁ、話せばすぐにわかると思うさ」
「これはウィリアム様。ようこそおいでくださいました。王もお待ちしておりました」
王城を守護していたであろう門番の騎士に呼びかけられ、すぐに案内の人が呼ばれてきた。すぐに王宮の中心である玉座の間に通された。
「拝謁せよ。王の御前である」
護衛の騎士がそう言い、誰かが入ってくる、静音は頭を下げた状態なのでわからなかった、だが周囲の雰囲気で王が来たのだと思った。
「ウィリアム。面を上げよ。久しいな。わしが催した宴以来か。また旅をしてきたのであろう。レオもお主の話を聞きたいと申しておった。後で会ってくれ」
「はっ。では後ほど」
「それで、そこな小娘は?」
「先日旅で見つけた者にございます。この者を不肖ながら我が弟子とすることに決めましてございます」
「ほう・・・あれほど弟子を取らなかったお主がとった弟子とは。それほどに強き者か?」
「いいえ、未だ闘気すら出せぬ者ではございますが、磨けば金銀珠玉に劣らない輝きを見せてくれるでしょう」
「そうか。お主が言うのであればその通りになるのやもしれぬな。するとその小娘が秘伝の鍛冶技術を持つと言う者か?」
「はい。私もまだ見たことはありませぬが、持っている剣からして間違いは無いかと思います」
「ではその剣を見せてもらっても構わないか?」
「シズネ、頼めるか?」
「はい」
私少々雫を手放すのを渋ったが、登録者を一時的に解除して近くにいた人に雫を渡した。その人が王様に雫を手渡した。
「ほう・・・見たこともない意匠であるな。して身は・・・うむ?抜けぬぞ?どうなっておる」
「あ、発言をお許しください。それは柄を握って抜くのではなくて丸いところを押して抜くのでございます」
「ふむ?おぉ、抜けた・・・おぉ・・・なんということじゃ。これほどの輝きを発する物なのか・・・。これは素晴らしい。見事な業物じゃ。かような物を作る技術があろうとは」
王様は雫を私に返すと顔つきを変えて私に向き直った。
「さて、まだ名前を聞いておらぬ。名を申せ」
「イシカワ・シズネと申します。シズネとお呼びください」
「ではシズネ。お主に見てもらい物がある」
王様が何かを指図すると私の前に一つの剣を持ってきた。
「これは?」
「とあるいわくつきの剣でな、具合を診てもらいたいのだ。おぉ、大丈夫じゃ触ってもよい」
私は言われるままにその剣を手に取った。私は鍛冶スキルを動員してその剣を調べた。
(見た目は綺麗だけど中身は暗く、淀んでいる。これは・・・呪いかな?ならこの剣がウィリアムさんが言っていた聖剣・・・。呪いを消すには・・・浄化しないと・・・)
「謹んで申し上げます。この剣には呪いが宿っております。これは浄化を試されましたか?」
「うむ。王都の鍛冶師がそう申して協会の者を呼んで何度も浄化を試したが誰も呪いを祓うことはできなんだ」
「この呪いは剣自体に宿っている物。これは剣を破壊しなければ祓うことは叶いますまい」
「むぅ・・・その剣は壊すには惜しい剣でな・・・」
「恐れながら、実は私の鍛冶技術は剣を鋼に変えねば剣を打つことはできません。いわば剣を壊し作りかえとなります」
「そうなのか?してもし剣を壊し作り直したら元に戻るというのか?」
「この剣の真価はわかりませんが、呪いは祓うことができましょう」
「ふむ・・・流石に会って早々の素性のわからぬ者にこの剣を任せるのは心配じゃのう・・・。よし、一つ試させてもらおう。必要な材料はこちらで用意する故、一つ剣を打ってもおう。監督役に数人の鍛冶師をつける。そこで判断してもらうとしよう。後は文官たちと話を詰めるが良い」
その言葉を最後に静音の初めての謁見は終わった。大仕事を申しつけられてね。
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