第六話
朝、ボロ宿のベッドで起きた私は顔を洗って外に出る支度をして外に出た。昨日ゴブリンを何体も倒したおかげで数日は動かなくとも大丈夫なほど資金の余裕はあった。だけど大事なのはお金の量ではなく使いかた。私はちゃんと自制して安くて量のある朝食を食べた。そして時間ができたので町の広場に行ってみることにした。そこは露天が多く、人で溢れるほどではなかったがそれなりに多かった。その中で私は少し離れたところに座り、自分のステータスを見ることにした。
≪石川静音 Lv2≫
・斬撃Lv1
・慧眼
あれ?慧眼ってなんだろう?そう思って私はヘルプを見てみた。ヘルプには『相手の実力を測り、相手の動きを先読みする』と書かれていた。
「何それチートじゃん・・・」
そんなのがLv2で会得できるならこの世界の人間は先読みができるという訳だ。そう思うと私はスキルを試したくなり冒険者ギルドに向かった、するとギルドは外にまであふれるほど人が集まっていた。
「ど、どうなってんの・・・?」
「なんだ嬢ちゃん。知らないのか?中に剣聖が来てるんだよ
「剣聖・・・?」」
「なんだ、知らないのか?よっぽどの田舎から来たのか?剣聖ってのは王国の一番の剣士。ドラゴンを退治したといわれる人類最強の剣士様だ」
なるほど・・・人類最高の剣士、か、すると人の波が割れるようにして人が左右に散らばりだした。その中を一人の男性が歩く。
「うわぁ・・・あれが剣聖様か・・・」
「かっこいいぜ」
そんな羨望の声がちらほらと聞こえ、ようやく剣聖と言われる人が見えた。しかしその人物はおよそ人とは言えなかった。耳が人よりも長く先が尖っていて肌は黄色と白が混ざったようなきれいな色だった。エルフ、そんな言葉が私の頭に浮かんだ。そして私は≪慧眼≫で能力を見てみた。
≪剣聖 Lv995≫
それしか見えなかった。名前は多分本名を知らないからだろう。そして他に情報を見れないということはレベル差というやつなのかもしれない。そしてエルフの男性は左右を見渡しながらゆっくりと歩いていた。
「ふむ」
すると一瞬目があった気がした。そんな気がしただけなのにエルフの男性は私がいる方向へ先ほどの迷っているような歩き方とは違ってまっすぐに向かってきた。そしてとうとう私の真正面に来てしまった。
「娘。名前は何という?」
「イシカワ・シズネと言います。シズネとお呼びください」
「シズネ・・・私と手合わせをする気は無いか?」
男性の発言に周囲がうるさくなる。ほとんどが羨望と野次にまみれた声だった。
「なぜ、私なのですか?私より強い方ならたくさんいると思いますが・・・?」
私は思ったことを口にした。
「それは剣を交えればわかること。どうだ?」
「わ、私でよければ・・・」
「では準備がありますのでこちらへ・・・」
「ちょっとまったぁ!!」
私とエルフの男性がギルドの方に案内されようとした中で呼び止めるような声が上がった。
「剣聖様。そんな奴と戦っても意味がありません。そいつはたまたま運が良くてゴブリンウォーリアーを倒しただけのこと。冒険者ランクもF。それに代わって私はCランク。ぜひ私と手合わせをお願いします」
一人の少年が頭を下げた。それに続いて自分もと頼み込む人が続出した。
「ふむ。諸君らの言いたいことは分かった。されど私はこの娘を選んだのだ。冒険者ランクなど関係ない。私の目がこの娘を見つけたのだからな」
そういうと群衆は静かになった。
「あの・・・剣聖様の目って何かあるんですか?」
「知らないんですか?剣聖様の目は≪心眼≫を発眼なされていてそれはレアスキルの≪慧眼≫を上回るのだとか」
≪慧眼≫は私が会得したスキルだ。それの上位だとすれば・・・私の素性でもバレたのだろうか?そして私と剣聖の男性はギルドから少し離れた広場へと案内された。その外にはあふれんばかりの人が集まっていた。
「ではこちらから武器をお選びください」
用意されてあったのは木でできた武器だった。どうやら本気で戦わないといけないようだった。剣聖は背負っていた大剣と同じ大きさの木剣を選び取った。そして地面に背負っていた大剣を置いた。
私も色々と剣を取ってみて振っては選びなおしていた。そしてちょうど良いものを見つけると私も倣って雫を地面に置こうとした。
「お主はそのまま武器を持っているといい。その武器は持っているだけで加護を与えるのだろう?」
やはり読まれているのだろうか?雫のことをまっすぐに見ていた。
「し、しかし・・・」
「大丈夫だ。この娘は殺し屋などではない。殺し屋などの邪な者がそのような神聖な物は持たぬ」
傍にいた人の静止を止めさせ、男性は広場の中心へと向かった。私もそれに続いて広場の中心にて向かい合う。
「そう言えば名乗っていなかったな。私はラフェ族のウィリアムという。よろしく頼むよ」
「は、はい!!よろしくお願いします!!」
「では両者、用意はいいですね?」
審判役の人がそう宣言した。
「先手は譲る。好きに攻めてきたまえ」
そういってウィリアムさんは剣を構えた。その瞬間、私の全身がしびれるような感覚を得た。言い表すのは難しいが何か、高揚感のようなものだった。そして戦に関しては素人同然のはずの私の頭の中には動き方が見えた気がした。
「いきます!!」
そして私は大地を蹴り、ウィリアムさんめがけて剣を振るう。カンカンと木剣同士がぶつかる甲高い音が広場に響き渡る。
(どうしてだろう・・・。戦い方なんてわからないはずなのに体が自然と動く・・・)
私は謎の感覚を覚えつつもその感覚に身をゆだねて剣を振るう。
「ふむ・・・素早く鋭い剣技だな。ではこちらも行くぞ!!」
その言葉と同時にウィリアムさんの発する雰囲気が変わった。そしてウィリアムさんの持っている剣が青い光を発した。一度距離を取り、そして一瞬で間合いを詰めてきた。
「!!」
そして音速と言われてもおかしくないほどの速度で手に持った木剣を振るう。私は無理に抗うのではなく、剣をウィリアムさんの剣に添えるようにして合わせ、体を回し、受け流す。そして返しに回ったからだの回転を活かして逆に斬り返した。それをウィリアムさんは上に跳ぶことで避けた。そしてその後もウィリアムさんは凄まじい速さで斬りかかってくるがそれを私は舞うようにして捌いていった。まったく、そんな動きをしたことが無いのに体は経験したことがあるように動いていく。
「素早い剣技にそれを補う舞うような技。ふむ・・・秘めた才能とはこういうものか」
何かを達観したかのように言うウィリアムさん。そして再び剣を交える。しかしそれは先ほどの物が遊びだったかの如く鋭かった。ウィリアムさんの剣に押される一方的な展開だった。
「どうした。最初の勢いはどこへ消えた!!」
(最初は攻めてなかったくせに・・・とは言えないか・・・)
しかしふと気がついが。ウィリアムさんの剣が振るわれる前にその軌跡とも呼べるものが存在していたのだ。試しにその軌跡を待ち伏せしてみた。
「!!」
そしてその軌跡通りに剣が振るわれた。それに一瞬の驚きは見せたものの、ウィリアムさんは即座に次の攻撃に移った。しかしそれを私は受け流し、一瞬浮いた状態になったところをさらに押して払い、完全にウィリアムさんの剣を宙に浮かせた。そしてその隙を逃さず私は剣を振るう。ウィリアムさんはなんとか姿勢を整えて大剣を振るおうとするが、私が的確に攻撃を与えてウィリアムさんの姿勢を崩すことで剣を振るわせなかった。そしてウィリアムさんは大きく後ろに跳んだ。
「なるほど・・・貴方の強さは見えた。ならば・・・これで舞踏会はお開きとしよう!!」
さらにウィリアムさんの纏うオーラとでも呼べるものが鋭くなった気がした。剣が発する色も青から赤へと変わっていた。そしてウィリアムさんが消えたと思ったら、目の前に剣を構えて振るう直前だった。真一文字に振るわれた剣を受け流そうとしたがその刹那、私は後ろに飛ばされていた。私の頭が結果をたたき出した。私は受け流そうとした矢先に剣ごと吹き飛ばされたのだ。そして追撃するように鋭い剣閃が私を襲った。さらにギアを上げたような剣撃に私の腕は悲鳴を上げる。
(負けたくない・・・私は剣豪になるって決めたんだ!!ここで勝ててもそれが手に入るわけではない。だけど、剣を握る以上、負けたくない!!)
その思いに応えてくれるように体が動いてくれる。ウィリアムさんの剣撃を捌きながらわずかながらに攻勢に出る。次第に剣閃を押し返すことができ、戦いはどちらが主導権を握るかの争いになっていた。しかし戦いは突如として終わった。
「え?」
「むぅ・・・」
ボキっと、私の使っていた木剣が折れたのだ。ウィリアムさんの重く、鋭い剣撃に耐えられなくなったのだろう。
「さ、殺傷性はなくともエンチャントがされた木剣だろ?それが折れるのか?」
「折れるってことは相当な威力を剣聖が出してたってことか?
「そんなバカな。戦ってる奴は最近顔を見せたど新人だぞ」
「だけど折れたのは確かだ。新人が無理な使い方をしたかもしれんが・・・」
ズンっとウィリアムさんは持っていた剣を地面に突き刺した。
「確かに、諸君らが言う通りこの人物は経験は誰よりも浅いであろう」
その言葉に群衆の言葉は止んだ。
「だが、諸君らも見たであろう。私のことを知っているならなおさらのことだ。我が剣が赤き光を発している意味を!!」
(赤い、光の意味?)
「闘気は色ごとに強さが決まっていることは知っていよう。古の英雄まで遡れば闘気の色は紫だと伝わっている。そしてその前段階が赤、そして青と続いていく。僭越ながら剣聖、人類最高の剣士と呼ばれる私ですら到達できたのは赤の闘気。つまり私の全力を意味する。そしてこの少女は私に全力を出させたのだ。決して手を抜いたわけでもなく、演技でもない。私が全力を出したことは本当だ、私に全力を出させたこの少女を弱者と扱うのは、私にはできないが・・・それを否定する者はいるかね?」
ウィリアムさんの問いに答える人はいなかった。
「シズネよ私の弟子になる気はないか?」
その言葉に群衆が再び騒ぎ出した。
「あぁ、驚くのも無理ないか・・・」
少し苦笑いしたような表情を浮かべるウィリアムさん。
「私はね、王子様の剣術指南以外の弟子入りを断ってきていてね。弟子は王子様以外いたことがないんだよ」
「ならどうして私を弟子に?」
「それは私が会ってきた人物の中で初めて見込みがあると思ったからだ。例えお遊びの戦いだったとしても私がこれほど滾ったのは久しぶりだ。イシカワ・シズネ。私の下でその才能を伸ばす気はあるか?」
「ぜひ、お願いします!!」
「では今後ともよろしく頼むよ」
ひょんなことから王国最強と言われる人の弟子になることができたのであった。
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