第十三話
突然王様からの呼び出しを受けた。何か悪さをしたわけではない。もしかしたら鍛造した聖剣に何かあったのだろうか?私は最高権力に呼び出されたという不安を持ちながら王様のいる玉座の間に通された。
「うむ。シズネよ。急に呼び出して済まぬ。実は聖剣が治った故勇者選別を行おうと思ってな。それでその儀式にお主も立ち会って貰いたくてな」
「はぁ・・・」
良かったぁぁぁ。詰問でないことに私、超安堵。しかし顔に出してはいけない。私はニヤけそうな顔を引き締めて王様の言葉を聞く。
「失われた聖剣の輝きは取り戻されその主たる勇者を選び魔王討伐に臨んでもらう。まぁおとぎ話にあるような話が実際にはあるのでな。聖剣が輝きを失ってから魔王が現れなかったのは幸いだが、今現在魔獣たちのもつ魔力が高まる兆しを見せておる。これは魔王が現れる前兆であると記録には残されておる。まだ礼を言うのは早いかもしれぬが、よくぞ聖剣の輝きを取り戻してくれた」
王様は上座から降りて私の手を取り、お礼を言ってくれた。
「おおお、恐れ多き事でございます」
「うむ。して別件ではあるが・・・」
ま、まだあったかぁぁぁ!?私は再び緊張を覚えた。
「先日最初にお主が作った鋼であるが・・・鋼の質と出来上った製品を見て王都の鍛冶師が競り合うほど売れてしまってな、鋼は跡形もなく消えてしまったのじゃ」
笑いながらそう王様は言った。
「そこでじゃ。文官たちと協議したのだがあの鋼は鍛冶の歴史を変えるという結論が出た」
うーんこの世界の金属関連は中世なみだと思っていたけど、たたらってそんなに注目されるっけ?
「それでだな。お主が書き記してくれた鋼の製法を見ても鍛冶師たちはてんでわからぬときたのだ。だからひと時でよいから鍛冶師に指導を行ってはくれぬか?」
あ、そういう流れか。
「無論報酬は出そう。今後作った鋼はお主の名を取ってシズネ鋼と名付けよう」
ヤバイ。それだけはマズイ!!
「おおお、恐れながら私の鋼の製法は一族から繋いできた物でして、私の名を付けるのはどうかご容赦を・・・」
「ふむ、そうであるか。では鋼の名前はお主が決めるとよい。して今後鋼を製造したときには権利料としてお主に料金を支払う。これでどうじゃ?」
なんとここで働かずともお金が手に入るという選択肢がでてきた。一体どれだけの鋼が生産されるのかはわかならいのが難点だがこれは選ぶしかないでしょう。
「はい、鍛冶師の指導と鋼の件、謹んでお受けいたしましょう」
「おぉよかった。これで我が国はますます強くなれる」
「あっ・・・」
つい、こぼれてしまった。
「うむ、何か不都合でもあったか?」
「いいえ。なんでもありません」
そうして王様との会談は終わった。その後通路を歩いているとウィリアムさんに聞こうと思っていたことを聞いてみた。
「ウィリアムさん。いくらなんでも私って怪しいと思いません?王国が知らぬ一族が突然謎の技術を持って現れた。これ普通怪しむと思うんですが・・・」
「あぁ、君の出自なら流浪の一族の出だと言っていてね。そう言えば口裏を合わせるのを忘れていたよ」
そうウィリアムさんは応えてくれた。でもそれだけじゃなかった。
「それと会談中、一瞬戸惑ったね?」
やはり気づかれていたか・・・。
「おおよその検討はつく。自分の作り出した鋼が、戦争・・・人殺しに使われるの可能性を危惧したのだろう?」
うん、バッチリ見透かされていた。
「あはは、バレちゃいましたか・・・実際のところそうです。私のいた世界では戦争、人殺しは罪であり許されない者でした。例えどんな理由があろうとも・・・」
「ふむ・・・争いがない世界から来たのであれば戦争、人殺しを忌み嫌うのもわからなくもない。だが戦争については大丈夫だろう。王は国が強くなるとは言ったがそれは戦争の手段を得たからではない。むしろ自国防衛の力が強まったことに喜んでいるのだろう。王は民を重んじ戦いを嫌うお方だ。王が王でいる限り決して自ら戦争を起こすことは無いだろう」
「そうですか・・・」
「だが新しい鋼の製造法が樹立されたとなると他国も探りを入れてくるだろう。技術者の引き抜きは当然予想される。だからこれからは人から選択肢を持ちかけられたときはよく考えることだ。最悪内通の罪が言い渡されるからな」
「はい。肝に銘じておきます」
「あ、いたいた。父上に呼ばれたと聞いたから来てみたらこんなところにいたのかい」
後ろから元気な声が聞こえ、振り返ってみるとそこにはレオ王子がいた。
「これは殿下。我々に何かありましたかな?」
「あぁ、もちろんさ。シズネ。君、鍛冶師だって?それもすごい剣を持っているとか」
そう話すレオ王子の目はキラキラと輝いていた。大体の察しはつくが・・・。
「君の鍛冶の才を見込んで頼みがある。どうか俺に一振りの剣を作ってほしい」
やっぱりそう来たかー。まぁ、鍛冶の話が出た時点で予想はしていたけどね。
「喜んでお引き受けいたしますが、私の剣は皆さまが使っている剣とは少々違っておりまして・・・」
「うん。それも聞いている。できれば見本か何かないかい?」
「では・・・」
私は先日聖剣鍛造の褒美で貰った空間収納の魔法を使って以前試験として作った刀を取り出して渡した。最初は抜くのに苦労していたが、いざ抜いてみるとレオ王子の目付きが変わった。
「ほー。なんともすごい輝きだな。そしてこの模様。俺が今まで作らせてきた剣とは全く違う。うん、気に入った。これでもいいけど、俺自身のために作られた剣が欲しい」
やっぱりコイツゲームの登場人物かよっていう言葉が出るがそれは全力で飲み込んだ。
「では新しく打つとしましょう。あ、使う鋼なのですが・・・かなり神聖なものでして・・・」
「うん?何か問題でもあるのか?」
「実際に見てもらうと分かると思います」
私はレオ王子を連れて広場に向かい、保有していた鉧を見せる。その鉧は聖剣鍛造で使った聖なる鉧だった。それを見てレオ王子は声を上げる。
「これが全部鉄鉱石なのかい?」
「いえ、独自の製法によって作った鋼です」
「これから俺の剣が作られるわけかい?」
「現状私が持っている材料はこれだけなのでそうなりますね」
「うん、ぜひともこれを使ってほしい。これを使えば満足する剣ができるだろう」
その後はレオ王子が鍛冶場は用意するとのことで話は決まった。再び私は刀を打つことになった。
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