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第百二十五話

私を見つめるエラムの目は今まで見たことが無い目だった。誰もが普段はしないような、悲しみの目。

私だってそんな目をした人なんて全く見る機会なんてなかった。所詮ドラマの演出。そんな感じでしか覚えのなかった目。それをこの世界ではまじまじと見せられた。何か大切なものを失った人。それがこの世界には多すぎた。目を瞑りたくなるほどに。だからこそ、聞かないといけないと思った。何を失うかなんて馬鹿な私にはまったくわからない。だけど、聞かないと後悔するとそう思った。だから私の答えは決まっていた

「私はエラムの話を聞きたい。どんな犠牲が必要なのかはわからないからどれだけの覚悟が必要かなんてわからない。だけど、絶対に聞かないと後悔する。そう思える。エラムのそんな悲しそうな眼を見たらね」

「そう・・・ですか」

そう、エラムはうつむいた顔で返事をした。

「では場所を移しましょう。話は私の部屋でします」

エラムの部屋。誰であっても掃除の手伝いにすら入れない謎の部屋。そこに私は案内された。

「全然普通の部屋だね」

特に変わりはなかった。なぜエラムが自分の部屋に誰も近づけなかったのか、それはわからない。だが今は

エラムの話が大事だった。

「まず一つ。あなたはこの世界を別の世界だと聞いたんですね」

「聞いたって・・・確かにそうだけど?」

「ではまずそこを正します。ここはあなたのいた世界とは違う世界ではありません。未来の世界です」

「未来・・・?過去とかありえた可能性の別世界とかじゃなくて?」

「厳密に言えば・・・あなたがこの世界に来ると決まった事で変化した世界と言うべきでしょうか」

「それってどういう・・・?」

「本当は・・・私たちのいた時代で人類・・・地球文明が滅んでいたのです。ですが・・・未来から来たという一人の人物の活躍によって地球は滅びからは逃れることができたのです。代償は大きかったですが」

「?それと私がどういう・・・え゛、まさか!?」

「そう、未来から来た人物はあなたですよ静音」

「ちょ、ちょっと待って。私はこの世界が滅ぶとからそれを防ぐために呼ばれたんだけど・・・なんか語弊が・・・まさか騙されてた?」

「いいえ。あなたが転移した時点では誰も知らなかったんでしょう。滅ぶ世界がどんな世界だなんて。ただわかっていたことはどこかの世界が滅ぶということだけ」

「・・・そうして私が呼ばれて、なぜか自分の世界にまた戻ったという事実が生まれたからこの世界が生まれて、それを何かの意思が誤認したというわけ?」

「誤認というよりは、未来のあなたという存在によって一度目の滅びを回避したこの世界に再び滅びが近づいたからでしょう」

「うむむ・・・ラノベにしたら売れそうじゃない?」

「それは生き残ってからするべきかと」

「お、おう・・・。で、何があったの?ここが地球で未来の世界ってことなら今の文明のレベルを見たら文明の衰退ってレベルじゃないよ」

「そうですね・・・まず、20××年の6月27日に地球は謎の生命体によって破滅寸前になったのですす」

「ん?その日って私が転移したはずの日・・・だってゲームの〇○○の発売日だったもん。じゃなくて、その謎の生命体って?」

「当時は全く前例も特徴の類似性もないことから異なる獣、『異獣』と呼んでいました」

「異獣・・・それでその異獣によって文明崩壊レベルに地球の文明滅んだってわけ?」

「いえ、厳密な滅びの原因は異獣ではありません。異獣は未来から来たあなたともたらされた知識によってほぼ撃退できたのです」

「なら一体、どうして・・・?」

「この世界の魔法や魔獣はどうやって生まれたんだと思いますか?そもそも魔力などというリソース自体存在してなかったでしょう?」

「確かに・・・じゃぁ一体どこから・・・未来から来た私が教えた?でも未来の私がいた世界はココなわけで既に魔法も魔獣もあった訳ってことでしょ?」

「そうです」

「無から生まれる訳もない・・・あ、異獣!!」

「そう異獣の影響です」

「異獣が新たなリソースだったわけ?」

「そう。ですがあの時は未来の静音という戦力だけでは異獣に勝てるなど誰も思わなかった。だから当時の人類は未来の静音が倒した異獣の死体を研究することにした」

「研究って、そんなことしてもリソースを得るには・・・え゛、まさかとは思わないけど・・・」

人間を含めた動物が自分で作れない栄養を手に入れる方法、それは・・・

「そう、異獣を食べたんです。当然拒否反応は相次いで出ましたよ死人が出るほどに。ですがそれでも異獣の力を手に入れた存在もいました」

「それが魔獣?」

「いえ、魔獣もですが、人類も魔の力を手に入れることができたのです」

「でもその力も含めて異獣に勝てたんならどうして滅びに?」

「魔獣の成り立ちの説明がまだでしたね。今存在している魔獣は回収しきれなかった異獣を食べた当時の人類以外の動物の子孫です」

「だから魔獣とただの牛とかの動物が存在していたわけか。ちょっと変化していたけど。あ、魔獣が人を襲いだしたわけか」

「その前にワンクッションあるのです。その、言いづらいのですが・・・」

「?」

「まずこの世界で言う魔王は二代目なのです」

「二代目?でも魔獣が人類を襲う前に何かあってそれから人類を襲うようになった訳で、初代魔王が何かやらかしたの?」

「いえ。今の魔王が未来の静音と初代魔王を殺したのです。そこから魔獣は今の魔王に率いられて獣による人類への報復を始めたのです」

「人類への報復?」

「考えてもみてください。あなたのいた時代の人類と動物の関係を。・・・どう見ても対等でなく、搾取する、されるという立場であったはず。食べるために家畜として生み出され殺されたり、愛玩として生かされたりと」

「た、確かに・・・」

「ですので二代目の魔王は魔の力を得たことを好機と見て人類に報復を始めたのです。その始めが、魔獣と人類の共存を願っていた未来の静音と初代魔王の殺害だったのです」

「そうして長い人類と魔獣の戦いの年月を経て今に至ると?」

「文明自体は異獣の襲撃で無となりました。まず異獣は地球を塗り替えたのです」

「塗り替えた?」

「地球の地面をある一つの島を除いて強引に一つにしたのです」

「一つの島以外・・・日本は残ってるわけ?」

「まぁ、日本人だったらそう思うかもしれませんが・・・残念ながら日本も一つの大陸として取り込まれています」

「じゃぁ、残っている島は・・・あ、ウェールズ、イギリス!!」

「そう、当時の形をそのまま保って残っているのはイギリスだけ。ユーラシアも南極も全ていまや一つの大陸です」

「そ、それは、当時はパニックになった・・・異獣の襲来でそんな暇ないか。でも、魔獣の報復・・・動物がそんなことを思っていたら、そうなるよね。でも、未来の私は知っていたんだよね?」

「いえ、未来の静音が知っていたことは異獣に新たなリソースがあることだけで自分が魔獣に殺されることなんて知らないはずです。ですが、あなたの今の発言を考えれば・・・もしかしたら知っていて隠していたのかもしれませんね」

「ん~それは置いといて、じゃぁ初代勇者とかそこんとこの伝承はどうやって生まれたの?」

「・・・あなたは妖精の成り立ちについては?」

「確か初代勇者によって生み出されたとか。でも初代魔王を別の魔王が倒したのなら、妖精は魔王が?」

「・・・なぜ初代の勇者以外が契約すらできなかった妖精の力をあなたが使えると思いますか?」

「うーん・・・え゛、まさか?」

「初代勇者はあなたであり、倒した魔王というのは魔獣の王を刺したものではなく、異獣を率いていた存在。つまり異獣の王を倒した事実をどうにかして残そうとして変化したものなのです」

「?そういえばこの世界に異獣なんて言葉自体残ってないよね?それまたどうして」

「それが異獣の呪いだからです」

「異獣の呪い?」

「異獣を食べた者、そしてその子孫にかかっている呪いです。異獣に関して何かを残そうとすれば死に至る。またそんな記録が残っているとわかれば優先して破壊する衝動に駆られる。そんな呪いです」

「でも今エラムはペラペラ話せてるよね?」

「・・・今の私は億単位の人間の犠牲によって成り立っているのです。数えきれないほどの人類が研究し、そしてようやく見つけた検体、それが私だったのです」

「検体って・・・そんな実験みたいに・・・」

「もう、余裕がなかったんだ、ですよ」

「ん?」

「いえ、何でもありません。当時の人類の全てによって生きながらえているのが私という訳だけ理解してもらえれば・・・」

そういったエラムの目はとても悲しそうに見えた。絶望。どれだけの死を見て来たのだろうか。家族、友人や知人。もしかしたら知らない誰かの死すら見てるのだろう。

「で、今西暦に直したら何年?」

「ふん!!」

笑顔で聞いた私に返ってきたのはエラムのビンタだった。

「ヒ、ヒドイジャナイカー。セッカク場ヲ和マセヨウトシタノニー」

「カタコトすぎますよ、まったく。いらぬ気遣いということです。ちなみに西暦で直すと8千年ぐらいでしょう」

「ってことは俗にいう八千年から数えるのをやめたっていう・・・アイタっ!!」

二度目のビンタ。

「ちゃんと数えてますよ。ほら」

エラムが空で何かを描くとよく見た空間の歪みから大量の本が出て来た。

「これは・・・日記?」

「私だけでなく、世界の誰かが書いたであろう日記の全てです」

「でも、異獣の呪いでそういう類のは・・・」

「私の使命は世界に散らばった異獣に関する文献を見つけ保護し、あなたの到来を待つことでした」

「私の到来・・・ねぇ、エラムってのは偽名だよね?」

「・・・そうですよ。姿だって、まったく違います」

「だよね・・・でもちょっと、ノリが似てた気がするんだけど・・・」

「何か言いましたか?」

「いいや。それで、私は結局何をすればいいの?」

「話を戻しますか。あなたはウェールズという単語がどう関係していると聞きましたか?」

「んっと、『ううぇいるうずに残りし窯で火を掻き立てよ。さすれば黄金の世界が待っているだろう』って」

「・・・よくもまぁそんな嘘っぱちを・・・というか直でウェールズと指さないあたり自身も異獣の呪いのことを考えているわけでね。小心者らしいこざかしい浅知恵です」

「浅知恵、嘘っぱち?」

「そもそも、魔獣の侵攻・・・今回は例外なんですが、その原因はあなたという存在を今の魔王が認識したからです」

「じゃ、じゃぁ、誰かが死んでいたら私のせいに・・・」

「それはあなたの責任ではありません。話を戻します。今回の魔獣の侵攻は人類が魔獣の対応をしている間に手つかずの大地に『ある物』を探し出すようにする一文を広めることなのです」

「一文を広める?」

「静音はタイムマシンを信じますか?」

「・・・信じるも何も未来の私ってのがいる時点で存在するんでしょ。ってことは探させるものはタイムマシン?存在するんだ・・・」

「いえ、タイムマシンになるかもしれないという代物です」

「原理とかは解明されているわけ?」

「・・・いいえ。ただ存在するとしか私も「ダウト」うっ・・・」

「知ってるよね?エラム」

「・・・えぇ、知っています。涙しか浮かべないあなたが、教えてくれましたから」

「・・・そう」

「ともかく、今の魔王はそのタイムマシンの場所を知っています」

「じゃ、じゃぁもしかして未来の私と初代魔王を殺した二代目の魔王ってのはこの世界の魔王がタイムマシンを使って?」

「いいえ、それは違います。ですが、今この時より、あなたは異獣の記録を学び、備えなければなりません」

「備える・・・そっか、私が、倒しに行くんだね」

「そういうことです。怖気づきましたか?」

「確かに、これから数えきれないほどの死を見ることになるんだろうね。でもさ、考えてもみたらさ、普通に暮らしていたはずの私が、唐突に魔獣とは言え自分の手で倒した、殺したのに、怯えも何も感じなかった。あはは、ゲームをやりすぎたかな?」

「静音・・・」

「と、ともかく、教えてよ、異獣について。私が何をすればいいかを」

こうして、私の本当の世界を救う闘いが始まった。

前話と一緒にしたかったので連投です。

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