第十二話
これは私が聖剣のお祓いをするための素材の準備を待っている間にあったできごとである。
私は時間が合えばウィリアムさんに剣の稽古をつけてもらっていた。できるだけ雫に頼らす己がスキルと経験を伸ばそうと思ったのだ。それでも一切の手加減を抜きにして戦ってもらっていた。
「お、ウィリアムじゃん。父上から帰ってきているとは聞いていたけど、挨拶ぐらいしてくれよな」
私たちは宮廷の中にある近衛騎士たちが訓練をするところで戦っていた。たまにギャラリーはいたが私が弱いと知るや見るのを止める人が多かった。弱いのに剣聖と戦うのは如何なものかという野次も聞こえたりした。
「殿下。ご挨拶が遅れたこと、深くお詫び申し上げます」
「いいよいいよ。どうせ俺の方から行くつもりで今日も来たわけだし。で、君が噂の弟子さんかい?」
声の人物から興味津々な視線を受ける。
「あぁ、俺はレオ。この国の王子さ」
「おおお、王子様!?これはお見苦しいところをお見せしました・・・」
「いいのいいの。俺の顔を初めてみたんだろ?初めて見た顔のことを考えろなんて無茶な話さ。それも王子なんてわかるわけがない」
と、笑顔でレオ王子はそう言った。ゲームや小説なんかじゃ貴族、王族なんてふんぞり返ってるのが当たり前だと思っていた私からすれば驚きの光景だった。まぁ、王様もそう偉そうにしてなかったから親の背中を見て生きてきたんだろうな、と思った。
「んじゃ、兄弟子として妹弟子の具合を見てやろう」
なんやかんやでレオ王子と戦うことになってしまった。ギャラリーはウィリアムさんとレオ王子のお付きの人だけ。
「んじゃ行くよ」
軽い掛け声とともにレオ王子が突貫してきた。
「っ!!」
最初の一撃を≪慧眼≫で予知して相手の剣に自分の剣を添わせて勢いを反らして相手の態勢を崩そうと試みる。
「おっと」
結果レオ王子の態勢は完全には崩せなかった。せいぜい見積が甘かった、その程度だろう。そして私は間髪入れずに攻撃を仕掛ける。それからは私とレオ王子の間で激しい剣戟が行われた。できるだけ≪慧眼≫で敵の防御態勢、攻撃姿勢を見抜いて有利に進めようとする。
「なるほどなるほど。君、≪慧眼≫を持っているだろう?」
簡単に攻撃を読んでいたら、逆にこちらの手の内が読まれてしまった。
「うんうん。んじゃここまでにしようか」
唐突にレオ王子は剣を引いてしまった。そして私の顔には何故という文字がくっきりと浮かんでいたんだろう。
「君、闘気も使えない見習い剣士だろう?勘や持ってる潜在能力はウィリアムが弟子にするくらいだからあるんだろう。だから楽しみに待ってるよ。あぁ、王都にいるならたまに剣を交えてもらってもいいかな?貴族の子らも剣術指南の人も俺のご機嫌取りにしか剣を振らないからね。ウィリアムや君みたいに外聞関係なく剣を振ってくれる人は少なくてね」
やれやれといった具合に肩をすくめるレオ王子。
「こう見えて俺は友達と呼べる人が少なくてね。剣だけじゃなくて言葉も交わしてみたいね」
おいおいゲームの登場人物のセリフかよ、という感想は強引に胸にとどめて握手をしてレオ王子が去っていくのを見ていた。
「どうやら王子に気に入られてしまったようだな」
「気に入る要素、あります?」
「剣に対する気持ち、それを王子は気に入ったんだろう」
「剣に対する気持ち、ですか」
確かに私は剣で戦うなら誰にも負けたくない、という気持ちはある。例え今は駆け出しだったとしても。いつかはその頂にたどり着きたい、そういった思いはある。
「あぁ、そう言えば剣聖のことについて話してなかったね。君はこの国最強の剣士=剣聖だと思っているだろう」
「え、えぇ。何かあるんですか?」
「いずれわかるだろうけど、この世界には様々な国がある。そして大きな国には大抵剣聖がいる」
「え゛」
「つまり剣聖=世界最強ではないのだよ。特に勇者が現れたら剣聖の名すら見る影もないくらいだと聞かされたことがある」
「聖剣、選抜の聖剣はどこの国にもあるんですか?」
「いや。大陸の国数数有れど勇者選抜の聖剣を持っているのはスペリア王国だけだと聞いている、もしシズネの方法が上手くいったら剣聖の名も返上せねばならないかもしれないな」
そうウィリアムさんは笑っていた。
「剣聖の称号にこだわりとかないんですか?」
「うーん、難しいねぇ。私は剣の人生を送ってきたわけだけど、こう言うのもなんだけど力を求めたのは名のためじゃないんだよね。弱き者を守るため。みんなが安心して暮らせるように。そう師に誓いを立てたのさ」
「誓いを・・・」
「それがいつの間にか国を脅かす竜の討伐にまで至ったわけだ。人生何があるかわからないものだよ。だからシズネ。君が何のために戦うのかは私は問わない。ただ己が願いを偽ることだけはやめた方がいい」偽る、それを言った時のウィリアムさんの目つきは鋭かった。別段嘘を言ってたわけではないのだけど、直観で何かあったのだろうと察した。
「ではシズネ。鍛錬に戻るとしようか」
とりあえずそんなことは気にせず私は剣を振るのであった。
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