第十話
聖剣の鍛造。それを任された私は王国が蓄えていた聖剣に関する記述を見せてもらうことを頼んだ。王様は快く提案を受け入れてくれて王国最大の図書館に案内された。そしてさらにその中の奥。封がされている部屋に案内された。
「ここが聖剣の歴史と所有者が書き記した日記の保管庫となります。持ち出し、写本は禁じられておりますので退出時には持ち物全ての確認をさせていただきます。王より貴女の入室は自由と仰せつかっておりますので守兵にこの印を見せていただければ入室可能です」
そう文官の人が教えてくれた。そして私の監視としてウィリアムさんが付いてきた。
「何。私自身も聖剣には興味があってね。それに君が何をなすのか、長年生きてきた私がこれでもかと興味を惹きたてる」
そう笑顔で言っていた。
「そう言えば、ウィリアムさんが持っている剣。それも聖剣に分類されますよね?」
「おや、気づいていたのかい。そう。これは私が討伐した竜の骨から作られていてね。竜が持っていた邪気を祓うために聖職者と王国の名高い鍛冶師たちが共同で削りだしたものでね、何の因果か聖剣になってしまったのだよ」
「名前は知りませんがいうなれば竜の聖剣。王様が見せてくれたのは選定の聖剣といったところでしょうか」
「あぁ。あの聖剣には勇者を選ぶ権能があるはずだからね。まぁあの剣が力を失くして以降勇者は選ばれていたのだが・・・」
「さてどこから読んでいきましょうかね・・・」
王国が蓄えた選定の聖剣の知識。そして歴代勇者の日記いこれは数日はかかりそうだ。
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最初の日はこれと言って成果は無かった。そして次の日。興味深い一文を見つけた。王国の歴史書曰く『王国随一の鍛冶師が数多の加護を備えたタガネと槌で聖剣を叩いても割ることはできず、またどんな武器であろうと聖剣を折ることはできなかった』
『鉄をも溶かす轟々燃え盛る炎の中に聖剣を入れ炎が消えるのを待ち、聖剣を確認すると微塵も溶けていなかった』
「うーん、割ることもできず、溶かすこともできず・・・こりゃ鍛造できないぞ?」
「確かにシズネの鍛冶は溶かし、何かを基にするならそれを割り、溶かし合わせるのが妙。こうもあると成立しないな」
隣で呼んでいたウィリアムさんも同意見のようだ。一応この世界にも鍛造の技術はあるようで、私の鍛造はその亜種とも呼べるモノに分類される。そして王国の歴史書には聖剣が呪いを受けてからの解呪の実験結果が書き記されていた。
「聖職者による禊、聖水に浸す、祈祷、・・・うーんどれも成果は無しかぁ・・・」
「ふむ・・・やはり我々が思いつくようなことは全て成された後か・・・」
「そもそもどうやって選定の剣は作られたんだろう」
それを辿っていくと神話にたどり着いた。曰く、『魔王の力が世界中に及ぶようになった頃、ある日神の啓示を受けた一人の鍛冶師が山から一つの鉱石を掘り出し、それを剣に鍛え上げた結果選定の剣ができたとある。そうしてその剣に選ばれた初代勇者が魔王を討伐した』とあった。
「ふむ。この掘り出した鉱石はおそらくヒヒイロカネだろう。あぁ、ヒヒイロカネというのは霊山と呼ばれる山で極稀に採掘される紅い鉱石のことだ。これで武具を仕立てると特別な加護を得た武具ができるという・鍛冶師にとってはヒヒイロカネを加工するというのはある種の到達点ともいえる」
「ヒヒイロカネ・・・。あ!!」
「おや、それは何か思いついた顔だね?」
「ウィリアムさん。王国は神聖な木から作られた木炭は保有していますか?」
「うむ・・・宰相ではないから具体的な数は把握していないが、聖域と呼ばれるところから神木と呼ばれる木を切り倒して木材として何かに加工しているはずだが?あぁ、まさか」
「そうです。その神聖な木から作られた木炭、それから霊山から採れる鉄鉱石。これらを組み合わせて私のたたら法で鋼を作り出し、聖域の獣から採れるという魔石を燃やした炉で鋼を溶かし、それを聖剣に充てて叩き、呪詛を祓う。これ、どうでしょうか?」
「かかる費用はひとまず考えないとして・・・方法としては誰も試したことが無いだろう。だが費用はかなりかかるだろう。ひとまず宰相殿に提案し、王の意見を聞かねばならないな」
意見がまとまった私たちは図書館んを出て、宰相の下へ向かった。
「お待たせしました剣聖殿。それから初めまして、シズネ殿」
「お初にお目にかかります」
「それで、聖剣を復活させるための目途がたったとか?」
「はい。こちらをご覧ください」
私は考え付いた方法を書いた紙を宰相さんに渡した。
「ほうほう・・・なるほど。確かに報告ではシズネ殿の作る鋼、剣は至高の一品とありました。その鋼を神聖な物で作り、それを聖剣にあて呪いを祓う。えぇ、見事なお考えです。これは誰にも思いつかない・・・いや、秘伝の鍛冶法を持つシズネ殿しか考え付かない方法でしょうな。かかる費用は・・・確かまだ去年の神木の余りがあったはず。それに霊山の鉄ならばかなり保有していたはずです。魔石については王都の冒険者に緊急依頼を出せば数日中には集まるでしょう。すぐに王への奏上文を書かなくてはなりませぬな。奏上文は今日中には出来上りますゆえ、明日、三人で奏上するといたしましょう」
そういうことになり、一夜明けて私とウィリアムさん、そして宰相さんの三人で王様の御前に赴いた。
「ふむ・・・・なるほどな。確かに神聖な鋼を打ち当てれば呪いを祓うことができるかもしれぬな。よくぞ考え付いたものよ。ではシズネ。お主に万事任せるとする。成功の是非も結果も問わぬ。思うがままやってみよ」
こうして私の挑戦が始まるのであった。
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