第一話
私、石川静音。どこにでもいる普通の女子高生。だけど一つだけ他人とは違うところがある。それは・・・私は刀マニアなのである。いわゆるオタクに分類される。日本刀、それは多く人を殺めたモノであり、そして工芸品でもある。初めて美術館で実物を見た時の興奮は忘れられない。しかしそんなことは表に出さず、私は日常を謳歌していた。今日発売されたばかりの純和風ゲームを携えて。そう、今日、たったついさっきまで・・・。
『おめでとうございます!!あなたには異世界転移の権利が与えられました!!』
どこかの店であるようなファンファーレとともにそのような言葉が続けられた。ついさっきまで家の前に居て、あと一歩のところで家のドアに手が伸びる、そのはずなのに一歩踏み出したら真っ白な空間にいた。
「な、なにが一体どうなってるの?」
『ですからあなたには異世界転移の権利が・・・』
「いや。そういうのは良いんで元の場所に戻してください」
『そ、そう言われましても・・・』
どこからか羽根の生えたいわゆる天使のような人が現れた。
「ですから元の世界に戻してください」
『ええっとですね・・・あなたには・・・』
「もう二度も聞きました。異世界なんて私は望んでいません」
『そ、そんな~。どどどどうしましょう』
何やら慌てた様子で天使のような人はオロオロしていた。
『日本人はこう言えば乗ってくると聞いていたのに・・・』
「あの、そろそろ元の場所に・・・」
『申し訳ありません!!』
突然な土下座。見事なジャパニーズ・ドゲザであった。
「え?」
『その、端的に申し上げますと今あなたは元の世界に戻ることができません』
「へ?よく聞こえませんでした。もう一度お願いします」
『すぉの・・・こちらの事情で戻れないんです・・・』
「ええええええ!?」
思わず叫び声をあげてしまった。そして天使のような人に掴みかかるのも忘れなかった。
『あああ、あのですねお・・・その・・・とりあえず揺らすのをやめてくださーい』
つい私としたことがうっかり目の前の人物を掴み揺すっていた。あまりにも気が動転していたからだろう。
「で、私が戻れないのはどういうことですか?」
『通じるかはわかりませんが。世界、あなたの住んでいる世界も含めて世界というものには様々な形があるのです』
「いわゆる並行世界ってやつですか?」
『似たようなものです。そして世界にはそれを維持する義務があります』
「ふーん」
『そ、それでですね。もし一つの世界が崩壊へと進み始めたらそれを止めるのが世界なのです。それで・・・』
「何か言いづらいことでも?」
『そのですね・・・その崩壊を止めるために世界は別の世界からそれを止めるための人物を呼び出すのです。つまりあなたが今回別の世界の崩壊を止めるために呼ばれたのです』
「つまり厄介ごとに巻き込まれた、と」
『も、申し訳ありません。。それが機構というものでして・・・止められるものではないのです』
「私が戻るにはどうすればいいの?」
『世界の崩壊を止めてくだされば戻れるはずです・・・』
「私が異世界で過ごしている間、私のいた世界の時間って進むの?」
『いえ。それは進むことはないです』
「そっかぁ・・・それが保障されているなら、まぁやるしかないのかな?」
.
『き、協力してもらえるのですか?』
「だってそうしないと帰れないんでしょ?」
『おっしゃる通りで・・・と、とにかく協力者にはそれなりに援助が付きます』
「援助って?」
『一つだけ望み通りのスキルを得ることができ、一つだけ望み通りの武器を得ることができます』
「じゃぁそれで世界の崩壊を止める武器ってのをください」
『あ、世界に影響を与えるとような武器は無理です・・・』
「デスヨネー。あ、これから行く異世界って死んだらどうなるの?」
『時間が経ては復活します。しかし復活時にステータスが落ちます。それか死ぬ前や死んだ後に呪い等を受けてしまうとアンデッドと化して二度と自由になることはできません。ただその点転移者にはそういった類の呪いを弾く加護が与えられます』
「ふーん・・・死んだら復活、ステータスねぇ・・・まるでゲームじゃん」
『よく言われます』
「いわれるんだな・・・ていうかこういうのって何度もあるの?」
『世界は無数に存在するのでこういったことは珍しくないのです』
「ふーん・・・。じゃぁスキルはどうしよっかなぁ・・・って、スキルって何?」
『異世界での能力、技術のようなものです。過去には≪誰にも負けない剣技≫や≪全ての傷を癒す≫といったスキルを望んだ人がいますね』
「誰にも負けない剣技って・・・それ持ってたらすぐに崩壊を止められるんじゃないの?」
『いえ。剣技で有利でも魔法や他の技能で負けるという事例があります』
「そう簡単にものは進まないってわけね」
『それで異世界にはかなりの時間滞在してもらうことになるのでそれなりのスキルを選んでください』
スキル・・・スキルかぁ・・・あ!
「ねぇ、その異世界の武器ってどのようにして作られてるの?」
『えぇっとですね・・・スキルに鍛冶というものがありましてそれが一定以上のレベルに上がった人が作っているようです』
「ならさ、例えば≪材料さえあれば好きな武器を作ることができる≫っていうスキルって可能なの?」
『ちょっと待ってくださいね・・・今試算してみます』
そう言って一人ブツブツと言い始めた。そして少し経った。
『試算終わりました。世界に影響を与えない程度であるなら可能のようです』
「よっし。スキルはそれでお願い。後は武器かぁ・・・」
『それはこちらで設定できますよ』
そう声がすると目の前にインターフェースとでも言うべき様なものが現れた。そこには≪鋭さ≫や≪攻撃力≫、≪効果≫などがかかれており、もはやゲームそのものであった。
「ここで設定すればいいわけね。じゃぁ・・・」
私は粘土をこねる様にして武器を形作っていく。そしてどれだけの時間が経った後か、一本の刀ができあがった。
「よし、これで完成っと。名前は・・・雫。効果は・・・とりあえず・・・」
そしてまた少し時間をかけてやっと設定が終わった。
『や、やっと終わりましたか?それで武器の方は・・・世界の許容範囲ギリギリってところですね』
〈雫〉
・作成者 石川静音
・分類 不明
~ステータス~
≪鋭さ≫ S
≪攻撃力≫S
≪耐久≫ S
≪重さ≫ 軽い
≪価値≫ 不明
≪対敵対者攻撃力上昇≫
≪耐久値自動回復≫
≪所持者の体力を自動回復≫
≪剣技スキルの効果上昇≫
≪使用者固定≫
と、いったものが完成した。
『それでは、これからあなたを異世界に送ります。準備はいいですか?』
「ホントは色々と言いたいけど、言っても仕方ないから言わない。いつでもいいよ」
私はできたばかりの相棒と呼べる刀を手に応える。
『それでは異世界へ転移します。石川静音さん。あなたの冒険に幸あらんことを・・・』
そう言葉が聞こえた瞬間、私の視界は光に包まれた。
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