表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
42/92

42. リト、そしてアーレン



「あたしの、身体を、貸す……」

 アーレンの申し出に、亜蘭は不安げな瞳を、じっと敬に向けていた。

 そんな亜蘭を、敬はしばらく見つめていたが、やがてアーレンたちの方に向き直った。


「僕らに選択肢は、なさそうに感じますが……おふたりに身体を貸してる間、僕たち――つまりこうしてる、僕たちの魂は、どうなるんですか?」


 敬の問いに応えたのは、リトだった。

「それはもちろん、君たちの身体に戻る。だから敬くん、君の身体の中には、俺と君ふたつの魂が同居する事になるんだ。申し訳ないんだけど、俺が身体を借りてる間は、敬くんの魂は意識の深いとこで、大人しくしててもらう事になっちゃうけどね」




「そう、ですか……」

 敬は再び亜蘭に視線を移した。


「うん……うん……がんばれ、あたし……」

 亜蘭は眼を閉じて両手を胸に当て、何やら自分に言い聞かせていた。

 そして顔を上げると、今までになく強い眼差しでまず敬を、次いでリトとアーレンを見つめた。


「敬くん、愛ちゃん助けたかでしょ。日本もヤバそうだし、あたし……あたしの身体で良かったら、どうぞ使ってくださいっ」




「すまんな。ありがとう」

「よく決心したね。偉いぞ」


 そう言ってリトとアーレンが再び視線を敬に送る。

「で、敬くんは?」

「ぼっ、僕も……OKです。お願いします」

 ふたりは優しい笑顔で敬に応えた。




「俺が敬くんの身体を、そして嬢ちゃんの身体はこいつが借りる。逆はダメなんだ」

「そ。ドーセツくんとあたしが、魔法でシーナのとこに転移するからね。リトはガーディアンだから、魔法使えないのよ」

「アーレンはこう見えて、魔法のエキスパートなんだ」

「こう見えてって、なによ失礼ね」


「アーレンさんは魔法使いで、リトさんは……ガーディアンて、何ですか?」

「俺か? 俺は攻撃より防御が得意なんだ。大盾に体内のマナを集中させて、仲間をダメージから護るのがガーディアンの仕事さ」


 アランとシーナ、リト、アーレンの4人パーティの戦いぶりだが、雷切(雷光剣)を操る勇者アランは、ほぼ攻撃専門。

 そして意外な事に聖女シーナも、得意の空手で前衛の攻撃担当であった。

「リトが相手の攻撃を受け止めてる間に、アランとシーナが魔の者をやっつけてね……あたしはリトに護られながら、魔法で援護してたんだよ」




 リトとアーレンが女神経由で掴んだ情報では、染矢愛がシーナであると、リーファにばれるのは時間の問題だった。

 リーファは気付き次第、即座に行動に移すだろう――つまりシーナを殺すために、古諸の祥倫寺まで攻めて来る。

 そしてリーファとシーナの一騎打ちでは、シーナに勝ち目はない。

 それがリトとアーレンの一致した見解だった。


「リーファとシーナって、魔法の質が聖と魔で、コインの裏表みたいなもんでね、純粋に魔法と魔力の強い方が勝っちゃうのよ。シーナの魔法は人類史上最強と言われてて、リーファにも負けなかったけど――魔力の量が、長く生きてたリーファに及ばなかったのよね……」

「生身の人間が魔族、しかもリーファとほぼ互角ってだけでも、充分すげえんだけどな、実は」

「そだねー。あたしだったら瞬殺されてたよ、きっと。魔王城前の乱戦でリーファと一騎打ちになって、シーナはボロボロになりながらも、一昼夜持ちこたえていた。あれはカッコ良かったな、同性だけど惚れちゃったよ」


 アーレンは、こちらをじっと見つめている亜蘭に気付いた。

「シーナのピンチに颯爽と駆け付けたのが、アランさ。渾身の雷光剣がリーファの一撃を撥ね返し、そのままリーファに直撃して身体を焼いた。その隙を衝いてシーナの聖なる波動が、トドメを刺したんだよ――アランも負けずにカッコ良かったなあ」

 それを聞くと亜蘭は分かり易く破顔した。

「あれでリーファは、死んだと思ったんだけどな……」

 たくましい腕を胸の前で組みながら、リトが呟いた。




「これからの話だけど、リトが敬くんの、あたしが亜蘭ちゃんの身体を借りて、それぞれシーナとアランの処に行く。そしてあたしとアランが転移魔法を使って、リトの居るとこに行く。リーファが攻めてきた瞬間、女神さまが準備してた結界が発動するようになってるから、向こうの世界の被害は最小限にするし、周りの時間も止める。だから心置きなく戦えるけど、出来るだけ人の居ないとこにリーファを誘導してね」

「あ、それは大丈夫だと思います」

 祥倫寺の周囲は森だけで、人家はない。

 残るは浩輔さんと清司さんだが、あのふたりに避難しろと言っても多分聞いてくれないし、ふたりとも空手の達人なのでなんとかなるだろう。


「リーファって今、トーキョーてとこに居るらしいんだけど、トーキョーからシーナのとこまで、どのくらいかかるの?」

「そうですねえ……車を飛ばせば3時間、てとこかなぁ……」

「軍団組んで来るなら、それにプラス1、2時間てとこね」

「単独だったら転移魔法で一瞬だ。リーファは敬くんと会ってるんだろ?」

「シーナなら持ち堪えてくれるでしょ」




「――取りあえず急いだほうが、いいかな。それじゃそろそろ行こうか」

「そうね。アランとシーナにまた逢えるの、楽しみ」

 まるでピクニックにでも行くような会話の後、リトが敬の肩に手を置き、アーレンが亜蘭の腕を取る。


 亜蘭はしばらくきょろきょろと、みんなや辺りを見回していたが、やがてすべてを理解したのか、敬に向かって微笑んだ。

「それじゃ敬くん、またね」

 そう言って亜蘭はぴらぴらと手を振った。


「うん。また逢おうね」

 敬が亜蘭に微笑み返した次の瞬間、身体ごとふわっと浮かぶような感覚が再び起きると、目の前のすべてが白い靄のようなものに包まれて、何も見えなくなった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ