27-6. ★忘却略奪無双 ~忘れた記憶を奪うチートスキルは年配者の希望ために~ →ハートフル異世界転生
★三行
思井田瀬納はドジ男で車のガソリン給油忘れと鍵忘れで動転して山から落ちてナーロッパ異世界転生する
女神からゴミスキル「忘却略奪」を診断され、ギルド仲間に試すも全く効果なしで他の有能スキル持ちの若者に枠を奪われて追放される
無一文から偶然知り合った60代の婦人と仲良くなり、忘却スキルが発動し彼女が忘れた旦那の遺品や遺言を伝える
★一言
→ハートフル異世界転生
★
蟲師や薬屋のアレみたいなイメージのハートフル異世界もの。
1話目のコミカライズは王道のゴミスキル追放ものでテンプレ、無一文で婦人に偶然拾われて家事の手伝いで住まわせてもらい、金貨支払い時の手と手のふれあいで「婦人が忘却した美しい記憶が一気に流れ込んだ」所で1話目終わり。
この設定の面白い所は、「その人が完全に忘却して思い出せなくなった記憶だけ奪える」というもの。
イメージはパソコンでゴミ箱に入れて削除した後の「管理上は消えてるが、上書きされるまで放置された電子残り」 だ け 別PCから奪って消去するような機能だ。
実はPCレスキューとかで検索すると分かるのだけど、ゴミ箱で空にしてもまっさらにしてないで残っている。
他の大きなデータを入れるときに「もう消されて自由にしていい領域」に上書きして、初めてデータを失う。
これと同じく、人の記憶も「思いだせる範囲」のものは、思井田がいくら頑張っても相手には効果がない。
特に若者。多少忘れたものもあるだろうが、記憶力が当然若くて強いのでそう簡単に完全忘却はしない。
そう、これは高齢者になって脳の活動が衰えて記憶が完全思い出せない領域になった年齢にこそ、真価を発揮する。
面白いのは、異世界転生で「忘却略奪」という強そうなスキルなのに、若者にはほぼ効果がなく、記憶障害や痴呆症というレアケースにのみ他を圧倒する最強のスキルになる点だ。
だからこのスキルは、冒険ギルドパーティにはマジでゴミなのだが、長年生きるエルフや悪魔、魔族の長、不老不死の民族には超レアスキルで国王クラスの権力者にはマジで欲しいスキルなのである。
2000年生きる萌え可愛いロリエルフと出会って、忘却略奪で隠し資産とか色々伝えてハーレムするもよし。
勇者に狙われている1億年生きる巨乳お姉さん型サキュバスに、幼少期の想い出や遺産、何百人も寿命で逝った彼氏旦那の情報や顔写真を伝えて、涙させるもよし。
でもメインは高齢者のハートフルストーリー。
ターゲットは、年配者の想い出の美であり、夫を亡くした60以上の夫人が読める「絵師」に漫画化して欲しい!
基本は3話完結構成で、「年配者向けに探し物、思い出せない記憶をたどる探偵師!」というチラシで、行列ができる忘却略奪師のお仕事がメイン。
おじいちゃんおばあちゃんの依頼を受ける→忘却略奪スキル発動→忘れ去った記憶を思井田が言葉や絵で伝える→解決
これが安定した流れとなる、水戸黄門形式だ。
忘却略奪スキル発動には、両手を握り合い、お互いが冷静な状態限定で発動する。
だから冒険者ギルドで緊張感もって感情高ぶっている状態ではまず使えない。
自分は勿論、相手のモンスターも冷静沈着であること、更に30秒以上掴んでいる必要がある。
だから敵意がある人やモンスターにはまず使えない。信頼してもらえる人だけのスキルという制約だからこそ、忘却略奪という大きなメリットを持つ。
そしてもう一個、トラウマを持つ若者の「忘れたいけど無意識に思いだしてしまう悪夢」も消し去るメリットもある。
トラウマ系を、思井田が全部引き受ける代わりに、忘却依頼した彼女は深層心理に眠っていた悪夢を消し去ることができて、笑顔で去っていくのだった。
こういう感じの若者でも「忘却」で「トラウマ」を消す美しい? 話もできる。
さらに! 死亡間際で遺言とかもできないご老体に対して、「忘却略奪」によって遺族がいる中で言えなかった遺言や絵を魔術録音して残すことで家族を救う、と言うパターンも作れる。
当然、悪徳業者の偽物遺言師もいて、ライバル視したり実は女性でビンタされたり裏切られたりのフジコちゃんポジもいるのだが割愛。
その昏睡状態のご老体に対して、握って伝えられない意思=忘却は受け取れるので、瀕死のご老体の気持ちや意思は理解できるし伝わってくる。
そして、その意思を最大限尊重するために、遺言をそのまま伝えたり、遺産の隠し場所も伝える。
ただし! 残された遺族も「下手にしゃべられると大損する」グループもある。
逆に、遺言が引き出せなかったことによって大損している兄弟親族もいる。
それぞれが、ご老体の遺言一つで大きな金が動く緊張感が面白い!
で、大事なのは「その遺言が本当にご老体の意思」なのかを証明することである。
一種のミステリー、謎解きみたいに、遺族たちの前でちゃんと説明して納得させなければ「忘却略奪詐欺師」になってしまう。
解決方法の一つは、ご老体だけが知っている癖、埋蔵金、残した遺品を「言い当てるコト」である。
数日前に来た思井田は、その一家や親族をほぼ知らない。
ご老体と接してきた遺族や親族ですら知りえないことを、全て言い当てたら納得するしかない。
そして遺言も、「みんな仲良くケンカしないで遺産を分けてほしい」というご老体の愛ある伝達であり、最後は遺族全員が涙する展開。
( ;ω:) おくりびとみたいに、最後は亡くなって遺産完了してすがすがしく思井田は見送られる、そんな2時間映画にしたい!
いやこれ、割とマジで拡張性高いし、共感性もあるし、ドラマ性もあるし、一応なろうスタートで異世界転生ネタにもなる。
月一に来る「大直感」だよこれ!
1話ラストシーン回想から2話。BGMは「【BGM】美しいピアノ音楽 2時間」を聞きながらどうぞ
https://www.youtube.com/watch?v=HSOtku1j600
「大和田さん、はいこれ。1ヶ月分のお仕事、ありがとう」
「えっ、アムリさん。俺はそんな……住まわせてもらって食事まで貰っているのに」
「あなたはまだ若いわ。それに私、アトラが居なくなって話し相手が欲しかったのよ。あなたと出会えてよかった」
「ありがとうございます」
チャリン。銀貨20枚、2万円相当で多くはないがありがたいお金を手で受け取る。
「!!!??」
ほんの少し、脳裏に見たことがない老いた男性の顔と夜景が浮かんだ。
「どうしたの? 思井田さん、ハッとした感じで」
「ちょっと手を握ったままにしてもらえますか? アトラ……ゴイヴィ。旦那さんは、肩に大きな切り傷がありましたか?」
「え……。アトラの下の名前、知っているのですか? 肩に切り傷ありましたよ」
「アムリさん。俺は、忘れて思い出せなくなった記憶を奪うスキルを持っています。俺に委ねてくれませんか」
「……そんなスキルがあるのですか。わかりました。思井田さんを信用します、やってください」
62歳のアムリさんは目を閉じて深呼吸をする、俺も感情を抑えて指先の感触を確かめると、ふわっと世界が開けて思い出の写真、映像、言葉が一気に流れ込んできた。
それは10歳のころから、母の想い出と温もり、思春期の対立、そして青年アトラとの出会いと結婚、夫婦ケンカ、交わした愛と出産、息子娘の独立、過去40年分を大きな波として受けて流された。 ※ここ2ページ大ゴマ
アムリさんの本人が思いだせない記憶、人は老いるとここまで忘れてしまうのか、感情的になってしまった。
あまりに大量の記憶を受け取った影響で、平衡感覚を失い、立って握っていたと思ったら顔の横に地面が突然現れて倒れていた。
木の床の感触、自分が崩れた顔を打った影響なのか、接した顔と首がズキズキ痛んだ。
「大丈夫ですか! 泣いているのですか?」
「あ、いえ。美しい記憶だなって……貰った記憶、全てお話しします」 ※漫画版1話終了
「まず信用してもらうために、アトラさんが貴方に残した、貴方が忘れてしまった愛の手紙とネックレスを見つけに行きましょう」
「ネックレス? アトラが私に?」
そうして俺は立ち上がり、アムリさんを手で握って支えながらとある木の下に向かった。
それはアトラが冒険で竜に殺されて亡くなる1年前、そこから20年経っていたその木は「略奪した記憶の木」よりも大きく成長していた。
「アトラさんは、アムリさんをここに呼んで告白し、そして30歳の時に再び呼んで何かあった時のための手紙と金策を残しました」
「もうアムリさんの記憶には残ってないと思いますが、この木の根の下に二人の愛の記憶が眠っています。掘り起こしてよいですか?」
「はい」
魔術を使って風の刃を作り、傷つけないように土を掘っては出していく。10分で泥で塗り固められた木箱が見つかった。
もう暗くて木の下では見えにくいので、そのまま歩いて5分でアムリさんの家に戻った。
「開けますよ」
そこには誰かに描いてもらったであろう2人の結婚写真、3枚の手紙、とても高そうなネックレスと指輪が入っていた。
「アムリさんは、この写真と品物、覚えていますか?」
アムリさんは、涙を流して膝を落とした。




