21-13. 『三体』の2部と3部を読み終えて
21-13. 『三体』の2部と3部を読み終えて
今日、三体Ⅲの死神永生の上下巻を読み終えた。先月辺りに、Ⅱの暗黒森林を読み終えたのだが、この興奮を残しておこうと思う。
中国で生まれたSF小説なのだが、読み終えてこれは名作だと思った。
作者のリュウジキンという人、発電所のエンジニアで仕事しつつ、2006年からSF短編小説を書き続けたのだ。これが15年前に書かれた作品とは思えない、素晴らしい作品だと思う。
二部の智子とルオジー、三部の程心、関が主人公である。
あまりネタバレはしないつもりだが、未読でネタバレ嫌いな人はここで閉じてほしい。
自分が読み終えて思った最初の感想は、「こりゃ売れるだろうな」である。
正直なところ、選挙や投票がない独裁国家と洗脳教育によってまともなストーリーが書けず、海外で共感されることはないと思っていた。何なら、2000年前の義が残っていた三国志の焼き直しの方がよっぽど売れると思っていたのだ。
だが、自分が三体という本の2と3を買って読んだときその思い込みは吹っ飛んだ。
先に、自分が正直ビミョーだなーと思った点を挙げておこう。
本心を言うと、アメリカが技術的にも武力的にも戦力マインド的にも勝てるわけないのに、中国を中心とした権力集中は無理だろう、と思うふしはあった。
日本にある、情状酌量の余地というモノがなく、上が「犯罪したので死刑!」と判断すれば、下は英雄だろうが死刑となる。まさに中国らしい判断と、救済亡き措置はすがすがしさを感じる。
もし、本編のような流れが本当にあったのなら、「情の日本」「正義のアメリカ」なら多少なりとも緩和や司法取引はあったのだと思う。有能かつ結果を残した人たちであれば、その体験や経験を後世にできる限り残す事が、地球全体の地球益になるはずである。人の命が軽すぎる中国だからこそのドライな対応は、少し現実に引き戻された感はある。
次にⅢのティンシンという女性エンジニアの、ダイアメンタルとなろう展開である。ごくごく普通の一般学生がトラックに轢かれて異世界で無双!みたいな極端な展開ではないが、ティンシンの立場に置かれたら、圧力と責任に耐えられず逃げたり自死を選ぶ人だっているだろう。最後の辺り、ご都合すぎると思われるようななろう展開に、躊躇なく確信し飛び込んじゃう辺り、なろう主人公っぽいな、と思った。暗闇の所とか、ドアとかである。
あとは、最後辺りの「数百年先の先端技術だからね」という何でも許されちゃう環境が気になった。ガチ中世ヨーロッパって水洗なくて垂れ流しポイ捨て衛生概念無しの無法地帯だけど、ナーロッパって清潔で秩序あるよねー♪を100倍濃くした感じである。
そのあたりの矛盾というか資源や環境を残された人たちに焦点を当てすぎているために、まあ最新技術だから…あれの技術だから…と深追い考察しなくなってしまったのは正直残念である。
てかそれらの技術あったら三体のみなさま、どうにか逃げれたんじゃねぇ?
あと、上下巻の間に書いてあった、ティンシンのジョバンニ。いや、記憶超人に魔改造されたならまだしも、一般エンジニアでそこまで記憶できるか?と若干冷めた部分はある。何となく、20分の対話を思い出して吐き出すならまだしも、2時間、3つの物語をあの極限状態で全て詰め込んで一語一句間違えずに吐き出せるのは、もう人間じゃねぇ―と思った次第。
最後に、日本の小説や漫画にある起承転結のお決まり遷移が、三体ではちょっと違う感じがあった。これは文化の違いなのでどちらが良いとは言えない。三体の急激な展開と発展が数ページで起きて終わり、それまでの下準備やちょっとダレそうな平穏な流れがちょっと長い感じがあってリズム感に違和感があった。事後の後の補足や遅めの展開は、ちょっと気になった。
日本が 「起 承 転 結」なら、三体は「起起起起起 承転結! 結結結」みたいな。
人類の存亡をかけてる割に、当事者暢気すぎ判断軽すぎ独断すぎ都合よすぎねぇ?は多少あった。
はい。では良かったところ。
起承転結の「承転結」が突然一気に襲ってきて、駆け抜けるところがすごい!水とか奇襲とか紙とか。油断したところに、突然の日常破壊で数ページの間、ワクワクしながら読めた。
そして、SFならではの「未来技術を仮定した日常考察」。これがとても深いし、納得できる。
例えるなら、ガラケーすらない30年前に「もし手のひらサイズで万能電話があったらどうなるか?」という未来技術を考え、電車の中で皆弄りながらSNS疲れあるよねー♪を考えるような感じである。仮にその未来技術が間違っていたとしても、納得できそうな根拠や描写が多数ある。
特に、その技術を受け入れた市民の環境が事細かく描写されていて、未来の世界に探索した気分になってワクワクした。
特に、コールドスリープで数百年すっとばした後の、未来技術を見に行くときのワクワク感、最高に面白いし、納得させてくれた。多少予測していたことよりも、斜め上の展開と考察に度肝を抜いた、何度もである。
2009年あたりのSF技術、三体問題(3つの惑星の引力で軌道計算すると超複雑になる)をテーマに取り上げて、いたるところに著者の考察がちりばめられている。SF好きの自分も、ここまで深く、手稲に掘り下げられた環境と仮説は素晴らしいと思った。
党の思想縛りとかは、ごくごく稀に登場するだけで、共産独裁国家以外の国の人が読んでも違和感がない所が良いと思った。内部闘争、下剋上、恋敵、復讐のテーマが多いK国の漫画や小説は、とても分かりやすい。「本名を伏せて著者の国籍を当てるゲーム」なら、K国は色々な人が当てられると思う。パラサイト等の文化的、結末的な思考はかなり独特なのだ。
だから、中国発にもかかわらず、中華思想を極力抑え、SFの面白さと展開、考察に特化した三体は名作になったのだと思う。政府批判や転覆をSF小説に入れてしまえば、人気になった時に党の検閲で禁書となるし、党のプロパガンダに媚び媚びの小説にしてしまうと、国外の評価が難しくなってしまう。
※それはそれで国の独特の文化を残した歴史書としての価値がある。ガチガチの侍文化や義の文化に特化することで、海外からは特有文化として違和感が評価される。
光の話とか、後半むりじゃね?中の人無理くね?って部分も、SFらしい押し切りで進むのがある意味気持ちが良い。
是非とも、三体の三部作を読んで欲しい。自分は1巻は読んでいない。2巻の冒頭でざっくり前の話が書いてあって、あまり評判が良くなかったので軽めに流している。




