三話
短めです。
カラカラカラ……。
ベランダのドアを横に引く。
なるべく音を立てないようにしないと。
なんせ今は朝の三時半だ。
月嶋さんは爆睡中だろうし、起こしたら悪い。
月明かりが部屋に差し込み、リビングを薄く照らす。
すると、女の子感溢れる家具達が姿を現した。
ここは俺の家ではない、と錯覚してしまう程の部屋だ。
可愛い柄の絨毯。
ピンクに染まったカーテン。
ソファで野垂れ死ぬクマさん。
多様なクッション達。
そして、信じられ程のサイズのテレビ。
きっと、十万円くらいするんだろうな(適当)。
ここは二人の共用スペースに当たる。
が、ほぼ月嶋さんに侵略されているといっても過言ではない。
まあ、俺は家具を殆ど持参してなかったから必然的にこうなることは予測できたのだけど。
それは別に良かった。
が、家具を配置するのは俺の役割という謎ルール。
これはマジで謎だった。
月嶋さんは俺が配置する度に「角度がおかしい」とか「配置にセンスがない」とか、口煩く言ってくるのだ。
じゃあ自分で配置したら、と言えば頑なに拒否するし、女子って一体何を考えているのか分からない。
結果、リビングの整理だけで夕方まで掛かってしまった。
そこで気力を削がれてしまい、俺の部屋はベッドだけ設置して、後は段ボールに包まれたままの状態だ。
街中探索も延期せざるを得なかった。
「思い出すだけで頭が痛くなってくるな……シャワーだけ浴びて寝るかあ」
頭をぼりぼりと掻きながら、忍び足で浴室に入る。
パチっと電気を付ければ、真新しい浴槽とシャワーヘッドが目に入る。
思わず感心。
寮とは思えない広さだ。
そそくさと戦闘服を脱ぎ捨て、シャワーを全身に浴びる。
任務後のシャワーは最高だ。
一日の疲れが流れていく感覚が堪らない。
そうして暫くの間シャワーを堪能した後、魔法で全身を乾かして自室に戻った。
もちろん、戦闘服は回収した。
身バレすると厄介だからな。
ドアを捻って部屋に入る。
タオル一枚で寝るのは流石に変態だと思われるので、段ボールから家着を見繕って着用する。
よし、これで完璧だ。
スッと立ち上がる。
と、家具一つない殺風景な部屋を尻目にベッドへと飛び込んだ。
ぼふっ。
身体が泥沼に沈むような感覚に包まれる。
柔らかい。
ふわふわだ。
新品の匂い。
ここ最近の任務では野宿が多かった。
だから、ベッドが余計に愛おしく感じられる。
うつ伏せ状態から寝返りを打つ。
そして、天を仰いで今日のことを振り返る。
初めての寮生活。
それがまさかのルームシェア。
しかも相手は殺人未遂美少女ときた。
「そりゃ女子と暮らせるなんて嬉しくないわけがないけど……あれは例外だろう」
初対面の相手に包丁を投げ、刀で両断しようとする少女。
躊躇の欠片も感じさせない、あの一撃。
確実に殺しにきていた。
あの瞳も、身体も、心も全て、本気だった。
彼女の過去に何かあったのは間違いないが、それが何かは分からない。
知る資格もなければ、聞く気概もない。
はて、どうやって矯正したものかね。
あれは、相当根が深いぞ。
「まあ、今のところは大丈夫そうだし。折を見て対応するかあ……もう今日は眠いから寝る」
ふあぁ、と欠伸が出る。
涙腺が緩んで、じわりと涙が浮かび上がる。
それを適当に拭うと、毛布に包まった。
襲いかかる眠気に逆らわず、ゆっくりと目を瞑る。
そして俺は、幼児のようにたわいもなく眠りについたのだった。
< to be continued >
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