表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/3

二話


 草木も眠る丑三つ時。

 俺は独り鬱蒼たる森の中を駆けていた。

 

 生体反応確認。

 一、二……三体、か。

 動きは単調。

 足音からして四足歩行か。

 統率も心なしか取れている。

 恐らく、Bレート帯のワーウルフ。


 位置が悪いな。

 早急に片付けるとしよう。

 

 虚空に手を伸ばし、魔力を注ぎ込む。

 瞬間、空間が軋み出す。

 範囲指定……適当。

 出力……一%くらい。

 これで問題無く、倒せるだろう。

 

「――術式展開」

 

 遥か上空に漆黒の魔法陣が現出。

 連られるように空を仰ぐ。

 直径は二十メートルくらい、か?

 これは、やり過ぎるかもしれない。


 まあ、いいか。


「【加重(アグラベーション)】」


 詠唱完了。


 と同時に、超重力が魔法陣から放たれる。

 空間が悲鳴を上げる。

 冴え返った月が、歪んで見える。

 超重力が、暗澹と横たわる大気を射抜く。


 そして、


 

 地上を疾風のように駆ける魔獣に、襲いかかる。



「「「ギィイイイイイイッッ!?!?」」」



 断末魔の叫び。


 そして、

 骨が軋み、

 肉が断ち切れ、

 やがて、限界を超えた身体は、


 ――ぐしゃり。


 と、不快音を奏でながら潰れるのだった。

 

 やはり、やり過ぎたか。

 まあいい、任務は完遂した。

 後始末は彼等に任せよう。

 

 亜音速で駆ける足に急ブレーキを掛ける。

 靴と地面に高摩擦が生じ、火花が散る。

 足が熱い。

 後数回で、この靴も買い替えか。

 出費が……節約しないとな。

 

 そして、動きが完全に止まった。

 地上には長い靴跡が引かれている。


 それには一瞥もくれない。

 いつもの事だから。

 それより、上層部に報告をしないと。

 その時、ふわりと春の夜風が吹く。

 外の空気はとても気持ちがいい。

 血臭がするのは、さておき。


 新調された戦闘服(バトルスーツ)から長方形の端末を取り出す。

 最新型のスマートフォン。

 色は黒。

 これには人間が生み出した最新技術が詰め込まれている。

 その側面には黒い突起が見える。

 電源ボタンは、これか。


 カチカチ。


 ん?

 

「……電池切れか?」


 電源が点かない。

 これだから電子機器は嫌いだ。

 使いたい時に限って、仕事をサボる。

 まあ、上への報告は明日でも間に合うか。


 ――ぷるぷるぷる。


 着信だ。

 名前は、(すめらぎ)真冬(まふゆ)

 俺の上司に当たる人。

 絡みが少しきつい。

 が、美人。

 そして、日本最強の魔法師の一人。

 俺の苦手な人間の一人でもある。


 で、これはどうやって応答するんだ……? 

 これか?


 ポチ。


「お、画面が変わっ『咲夜君、それは音量調節ボタンよ』」


 ……何の話だ?


「一体何の『それは、音量調節ボタンなのよ』」

『咲夜君、貴方が押したのは電源ボタンじゃなくて、音量調節ボタンなのよ』


 ああ、これは電源のボタンじゃなかったのか。

 気付かなかった。

 やはり、電子機器は苦手だな。


「なるほど、覚えました」

『咲夜君、それはもう15回も聞いたわ』


 呆れたような声が端末から聞こえてくる。

 書物を暗記するのは簡単だ。

 が、電子機器となると急に分からなくなる。

 所謂、電子機器音痴だ。

 悲しい。


「真冬さん、魔獣を3体討伐しました。恐らくBレートかと思われます」

『そう、後で解剖班を送るわ。これで任務完了ね。お疲れ様』


 労いの言葉。

 事務的なものだと分かっていても心躍るものがある。

 それも美人からとなると尚更だ。

 

「はい、明日に備えるためにも今日は帰宅します」

『明日……? ああ、明日は入学式だったわね。ふふ、楽しみにしてるわ』


 端末越しでもひしひしと喜びの感情が伝わってくる。

 何がそんなに楽しみなのだろう。

 少し気になるが、無理に聞くほどではない。

 が、そんなことより気になることが一点。


 勿論、ルームシェアについて、だ。


「あの、真冬さん。寮について質問があるのですが」

『寮? ああ、もしかしてルームメイトについてかしら』


 真冬さんは予測していたかのように言った。

 それなら話は早い。

 が、何処か嫌な予感がするのは気のせいだろうか。

 

「そうです。ルームシェアをすることに関して異議はないのですが、その相手が女性ということに対して些か疑問がありまして」

『安心して、寮で男女ペアなのは貴方達だけよ。良かったわね!』


 何が良かったのだろう。

 殺されかけたことか?

 今のところ、良かったことは一つもないのだが。


「……俺はマゾヒストではありませんが。それと今、俺達だけと仰いましたよね? それは何故ですか? 納得のいく説明を要求します」

『相変わらず固い子ねえ。で、理由は簡単な話、月嶋さんに見合う人材が貴方しか居なかったから』


 真冬さんは、淡々とした口調でそう答える。


「見合う? ルームシェアに見合う、見合わないは関係ないと思われますが」 

『それがあるのよねえ。うちの高校はルームメイトとタッグを組んで魔獣討伐に当たることになっているの。それで、月嶋さんの()()に見合う生徒が貴方しか居なかった、ってわけ』


 見合うってそういうことか。

 なるほど、そういうことなら納得はできる。

 が、


「それ、ルームシェアをする必要ありますか?」

『魔獣討伐においては信頼性が一番重要よ。そこで、ルームシェアをすることでお互いの信頼を築き上げるという腹積もりね』


 魔獣討伐においてパートナー同士の信頼が大切なのは知っている。

 が、俺はどうにも彼女のことを信頼できそうにない。

 というか、俺は単独戦闘特化型だからパートナーとかそもそも必要ないんだよね。

 それと、ルームシェアで信頼関係を築けるのは同性であるという前提が成り立っているからこそなのだと俺は思っているし。


「それは同性だから出来ることであってですね。異性間においては色々と問題の生じる火種になりかねません」

『咲夜君は()()()()問題を起こす子なの?』

「いえ、自分から起こす気は更々ないですが、不可抗力で、というものがあるでしょう?」

『それはただのラッキースケベよ! 喜んで張り倒されてきなさいッ!』

「……」


 あ、ダメだこの人。

 話が通じない。

 だから、この人は苦手なのだ。


 こうなったらもうお終いだ。

 この先展開されるのは、不毛な争いだけ。

 何の益もない、無意味な論争。

 水掛け論だ。

 もう、ここは潔く諦めた方が楽だ。


「もう、いいです。明日も早いのでここでお開きにしましょう」

『あら、本当にもういいの? 貴方がそれでいいのなら終わりにするけど……って、もう朝の三時じゃない。ちなみに入学式の登校時間は九時半よ、くれぐれも遅刻しないようにね?」

「承知しました。善処します」

『宜しい。それじゃ切るわね。おやすみなさい――』


 ぷつり。


 そう言い残して、真冬さんは電話を切った。


「――――はあ、疲れた」


 通話が終わった途端、ドッと疲れが襲ってくる。

 少しばかり、眠気も催してきた。

 さっさと帰るか。


 スマートフォンに視線を落とす。

 画面は真っ暗。

 少し、物寂しさを感じる。


 気付けば、森の中は静謐に満たされていた。

 本当に静かだ。

 目を閉じれば、怖くすら感じる。


 魔獣の住まうこの森に野生の動物は存在しない。

 だから、鳥の囀りも、狼の遠吠えも聞こえて来ない。


 だが、俺はこの世界を気に入っている。

 空を仰げば、青黒い夜の色がひろがっている。

 大きく息を吸い込めば、玲瓏と澄み渡る夜の空気を味わえる。

 これは、対魔獣結界が張られた人間界では決して味わえないものだ。

 出来る事なら、この世界を他の人達にも見せてあげたい、と思っている。

 今は、無理だけどね。

 

「それにしても、高校……か。ルームシェアについては納得いかないが、受け入れるしかない。月嶋さんも我慢しているだろうし、お互い様だな」


 うんうん、と相槌を打つ。


 まあ、やる事は今もこれからも変わることはない。



 変わるのは周囲の環境だけだ。




 俺は、




 神代咲夜(かみしろさくや)は、





 ()()()の願いの代行者として、





 世界が誇る最強の魔法師として、






 この世界から魔獣を一匹残らず殲滅する。






 

 ―――後、友達も沢山つくる。






 

< to be continued >

 

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ