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汝の名は、魔王ー魔王と天使の物語ー  作者: 木彫りのクマ
8/99

近衛という男2


――――――――――――


奥殿・魔王の社殿



「天使を逃がせ、と?」


「はい」



刀での一手を入れる事はかなわなかったものの、口では味のある返しをしたとして

魔王は朝餉まで支度の間、近衛の進言を許した。

だが、その内容を聞いた魔王は不快そうに目を細める。



「そんなことを俺が了承するとでも思うのか?」


「………どうか、お聞き入れくだされば、と」



ひれ伏して願う近衛を、魔王は鼻でふん、と一蹴した。

蔑むように見下ろしていた魔王だったが、しばらくすると、ククと笑い出した。


「魔王陛下?」


「何。先ほどの手合わせも重なって、お前が俺に忠誠を誓った日を思い出してな」


「……もう、ずいぶんと昔の話でございます」


「あの日もお前はそうして頭をたれていた。お前は覚えているのか? 何故、俺に頭を下げたのか」


「……忘れた日などございません」



近衛もまた、思い出す。

魔王に忠誠を誓った日。


その日、近衛は 無力を嘆き、力を望み、願ったのだ。

異国で生まれ育った一人の人間が、人生の何もかもを全て塗り替えたあの日を――忘れることなどありえない。


「…魔王陛下は、他に代えることの出来ないものを与えてくださいました。あのままでは、ただ、死ぬしかなかった自分に」


「ああ、そうだろう。俺がお前に与えたものは、お前の一生よりも価値があると お前自身が言っていた」


「今となっては、心より御仕えさせて頂いております。この身は魔王陛下への恩義を忘れは致しません」


「ならばそんなお前が、天使を逃がせだなどと 俺に乞い願える立場かどうかも考えるがよい」


「それ……は…」


「くく。わかったら下がれ。お前は俺の忠臣だ… そうだろう?」


「勿論でございます! ですがこれは魔王陛下の御為にも――


「俺の為?」



「……驕るな、近衛」


「っ」



「自分の力で大切なものを守ることも出来ない者が、力を貸した者の身の為を語るなど。百年早い」


「……っ」

すっかり黙り込んだ近衛に、魔王は気を良くしていた。

身支度もすっかり整ったのを確認すると、自らの座へ座り込んで扇を広げ、くつろぎはじめる。



「クク…故郷が恋しくなったのならば、帰っても構わぬぞ。今のお前ならば、守れるものも増えているかも知れぬ」


「いいえ、魔王陛下。今の自分にとって、守るべきものは只一つだけ――」



「あの日、魔王陛下と交わした約束のみで御座います」



「約束… 約束、ねぇ」



魔王はそう言いながら、傍の錫杖立に飾られていた錫杖を、扇で弄んでいた。

コロン、シャラランと、鈴と金環が揺すられて重なり、響く。



「随分と、派手で豪勢な約束だな… くく。くくく…」



「…………」



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