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序章 見出す狂気

美しく装飾された死体を眺め、俺は思う。どこから間違っていたのだろうか、と。


無意味な後悔は俺の心を蝕み続けるが、それを辞めることは出来ない。



霞む視界の中、俺は自分が不幸に至る道程を思い出していた。







最初に殺したのは、ペットのタイハクオウムだった。大学最初の夏休みに入る少し前のことだった。


俺は高校生の頃ずっと、漫画家を目指して毎日漫画を描いていた。もちろん大学生になっても漫画は描き続けるつもりだったし、この先の一生をすべて漫画に捧げるつもりですらいた。たがしかし、親に無理矢理いかされた建築デザイン系の大学から出される課題は大量で、俺はみるみるうちに漫画にかける時間を失っていった。高校卒業直前についた出版社の担当編集とは連絡がつかなくなり、俺の頭は焦燥感と絶望感でいっぱいになっていた。



端的にいえば、当時の俺は病んでいたのだ。



そしてその日、俺はとてもいらいらしていた。

三徹目の夜、終わる兆しの見えない課題に嫌気がさした俺は、半ば衝動的に母親に電話し、大学を辞めるか転部したい旨を伝えた。しかしそれは十数度目の要求だったにも関わらず、全く相手にされることなく拒否された。説得力の無い慰めの言葉を一方的に押し付けられ、電話を切られた俺はその苛立ちのやり場を探していた。


じつにいいタイミングだった。


俺の真横で、一人暮らしを始めた頃から飼っていたタイハクオウムがその存在を主張するかのようにけたたましく鳴いたのだ。


瞬間、俺はオウムの首をひんづかみケージから出すとそのまま勢いよく地面に叩きつけていた。

ぎえっという甲高い断末魔を聞いた瞬間、やってしまった、と思った。

床に目をやるとオウムは、こちらからは見えない右半身から血を流し、虚空を見つめながらもぞもぞと動いていた。



なぜか、だった。


理由は今も分からない。


とにかくなぜか。


なぜか俺はそれを「美しい」と思ってしまった。



真っ白な床に佇む白いタイハクオウムを真紅が犯していくさまは、まさしくキャンバスの中の出来事だった。

しかし直感でその“作品”には足りないものがあると気づいた俺は、棚の上にあった薔薇の造花の花びらをちぎってオウムの周りに配置した。


それが俺の最初の死体を利用した“作品”だった。


俺はそれから一時間か二時間ほど、白い背景の中薔薇に囲まれて朽ちる自分のペットの亡骸を眺めていた。

オウムの死後硬直が始まった頃、俺は初めて自分の異常性に気づいた。

自分のペットを殺して、その亡骸を装飾して、鑑賞していた自分を恐ろしいとは、思わなかった。

自分のした行為の異常性を理解しながらも、ただ、美しいものを見ると救われるんだな、と思った。この美しい作品を生み出した自分を、誇らしく感じた。何ならその異常性すら、自分を特別な何かに思わせる一因となっていた。

なぜそう感じたのか、直感の要因を探ることは難しいが、俺は死体特有の無機質さに魅力を感じたのではないかと自己分析していた。思えば昔から自分の鼓動を意識してなんとなく不快になることはよくあったし、一人暮らしの部屋に木製の家具は無く、全て生を感じさせない無機質なプラスチックや金属の製品ばかりだった。

元々俺はタイハクオウムの荘厳な見た目に惹かれてペットとして飼い始めた。そのタイハクオウムが読んで字のごとく生を感じさせない姿になり、俺はそれにとてつもない美しさを感じたのかもしれなかった。もちろん、ただ病んでいたから、というのもあるのだろうが。


自分の異常性を受け入れながらも我に返った俺は、床に配置された''作品''をスマホで撮影した後、少しでも長持ちするようにと保冷剤が入ったクーラーボックスにしまった。

結局一週間後には腐臭がし始めたので近所の公園に埋めてしまったが。



オウムを埋めた二日後、俺はアセトアミノフェンを含む解熱剤を野良猫に与えて、毒殺した。

作った“作品”は、黒猫が月のベットに寄りかかって眠るオブジェだった。外傷がなかったため、タイハクオウムのときよりも長く楽しめた。


俺はこの死体を使った作品づくりを「死体デザイン」と名付け、激しくのめり込んでいった。

オウムを殺した日から夏休みに入るまでの2週間だけで野良猫、アゲハ蝶、鳩を殺して作品にし、夏休みに入ってからはより高密度な作品作りの生活を送った。


漫画に対する未練がなくなったわけではなかったが、漫画のことで悩むことがなくなるくらいには俺は「死体デザイン」に夢中だった。



そんな俺が人間の死体に興味を持つのは当然の流れだった。

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