村を歩く
後から書き直し必須な気がしてきたw
お薬の作り方。
扉の無い開けっぱなしの出入り口から、住人と同じようにやってくる近くの森に住む小鳥達が運んでくる色々な薬草の実。
それを、差し出した私の左手の上で受け取る。
そこに、実の持つ微力ながらな魔力に釣られた精霊が集まってくる。
集まってくれる精霊はその時その時で入れ替わる。
ずっと差し出したままの私の手は、どんなに視界を見渡しても足元すら見れない私自身が唯一見られる私の身体の一部。
それは冷たい無機質な石で出来ている。
私自身が実は女神を象った石像であるとわかったのもここ数日の間。
相変わらず周囲は包み込むような感触しかないので、恐らくは左手を前に、右手は多分胸元?にした立ち姿なんだろうって思ってる。
今度はどんなお薬になるのかな?
囁くと精霊達がイタズラっぽい表情で笑いかける。
薬草の実と精霊の手伝いで出来る薬は、多くがこの地に住まうあらゆる住人の怪我や病気を治す。
あの時の商人さんとか村の病人や怪我人のお役にたってるのが嬉しい。
でも、中にはこのお薬を目当てに悪い心の商人や兵士がやってきてメロディさんを脅したりする事もあった。
そういう時は、村に駐在する騎士の人だったり腕に覚えのある村人達が何とか追い払ってくれたりするので助かっている。
だからこそ、私が唯一出来るこの薬を作る力でお返しをしていきたい。
そんなある日、何時のもように小鳥が持ってきた実の一つが、精霊達の到着前に急に吹き荒れた突風で転がり落ちた。
あ! …あれ?
うん。 本当に無意識って事なんだろうけど、私の石の手の輪郭がぼやけてそこから石じゃない人と同様の手が生えた。
いや…生えたってか、手が抜け出したっていうか…
当然だけど、その半透明の手の方は落ちる実がすり抜けてしまったけど。
これが、ある意味キッカケになった。
内心のドキドキを落ち着かせてからは、もしかしてと考えた事を実行する心構えに変えていく。
よし! まずは深呼吸。
出来る! 私は出来る…よね?
昨日と同じように前に出てる手から抜け出すように力を入れてみる。
……うん。 わかってた。
そう簡単には出来ないよね。
あーでもないこーでもないと試行錯誤してて、考えが煮詰まった頃、不意に体の力が抜けたような気がしたと思った途端、不意に体が浮き上がるかのような流れを感じた。
…あれ?
久しぶりに足が立ってる感触。
首を下に向けると、2本の人の足が教会の床を踏みしめてる。
恐る恐る両手を挙げて顔を触る。
多分だけど、少女と呼べるだろう年齢の頃かな。
うん。脱・石像に成功。
振り返って見上げると、さっきまで私だった女神像がそこにいる。
その衣装に似てる雰囲気の真っ白のワンピース姿の私がそこにいた。
教会の外は、想像通りの村の中の通り道。
メロディさんとの会話で、この村には他にも『戦の神様』と『水の神様』の教会があるらしい。
後は、道具屋、鍛冶屋、武器屋、宿屋と、小さいながらに行きかう旅人が助かる王道な店構えだ。
近くに大き目の川、そして少し南に行けば漁村があるとの事なので、教会の中からしか見えない時よりはるかに多くの人達の行きかう姿で賑わっている。
先ず、村の外れまでやってきて境界線ギリギリから外の世界を見渡す。
遠くの山の上を騎竜が飛んでるのを見ると、王都やそれに準じた大きな街があまり遠くない場所にもありそうな感じがしてる。
気になるな~
ほんのちょっとだけ…そう思って一歩踏み出そうとして
えええっ!?
境界線を跨ごうとする寸前で、私の身体は見えない何かに跳ね返された。
何、今の?
態勢を整えて、次は久々の人の形の指先で突く。
やっぱり見えない何かが指を優しく跳ね返してくる。
結界? でも、旅人はすんなり通れてるし…
ふと、何かに気付いて振り返り、「それ」に気付いて大きく溜息をついた。
そこには、教会から私の足元に光がまるで鎖のように繋がっていた。
仕方なく、村の中央へと足を戻す私。
お店の人も住宅から出てきた人達も、私を通りすがりの旅人とでも思ってるのか、旅のお約束を買わないか?と笑顔で声をかけてくれる。
彼等は普段、私の教会にお参りにきてくれる人達で、こうやって違う姿を見るのは新鮮だったりする。
村のほぼ中央にある大きな噴水の場所で腰を下ろし一休み。
水面を覗き込めばそこに映る私は、白いワンピースに白い髪で陽の反射で目がチカチカする。
女神像だった時は「足が棒になった」なんてなかったのに、人の姿で歩くのは結構疲れる。
身体的に疲れたというより、行きかう人達の表の声と心の声の多重音声に気疲れした方が大きい。
ふと、気になったのでそこから村全体を見渡していく。
私を入れて村で3人の神様。
こんな風に出歩いてたりしてないのかな?
私は『神様』としては目覚めたばっかりだし、もし先輩神様なら色々教えてもらいたい事だってある。
そんな考えを巡らせていたら、前方から私を影が覆う。
あれ?この人…
そこにいたのは、何度か私の前に来たいつも黙って睨みあげてくる少年。
「こんな所で何をやってるんだ…?」
初めて声を聞いた。
彼は、何時もの黒い服の上から同じ黒のマントを羽織ってじっと睨んでくる。
マントの隙間から使い込まれてそうな剣が見え隠れ。
冒険者か傭兵…かな?
えーっと… 私、神様ですってのは言えないし…
あのね…私はえーっと…
そう!アンジェ。 私はアンジェだけど、あなたは?
「………」
女神像の時と同じく、その時とは違い睨んだまま見下ろされるので居心地悪い。
そのままゆっくり延ばされた彼の右手が私の腕を掴んで立ち上がらせる。
「……長居するな。 送っていく」
ぶっきらぼうな物言いのまま、手首に持ち替えた彼の手に掴まれたまま歩き出す。
私の家まで? 知ってるの?
うーん。誰かと勘違いしてるのかな?
とか思ってたら、彼は私の教会前で足を止めた。
あれ? バレてる??
「…あまり人目に付かない方がいい…」
あー。これはバレてるっぽい。
て事は彼も聖職者もしくはそれに近い力を持ってるのかな?
ありがとう。 ちょっと見て回りたかっただけだから。
ねえ、名前、聞いてもいい?
背中を向けて立ち去ろうとする彼に囁くと、その足が躊躇った後に止まる。
「…………マイケル」
そう呟いた彼の足が地を蹴って走り出す。
短すぎる冒険だったけど、いろんな事を見て体験して充実感が満たされる。
さて、メロディさんが買い物から帰るまでに石に戻らなきゃ。
?
振り返ろうとして、何処か刺すような視線を感じ外を見渡す。
? あの子、誰??
そこには、この教会正面のもう一つの教会のドアの影から、私を睨む水色のワンピースの少女がいた。
読んでくださってありがとうございます。




