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目覚めたら石像でした  作者: ちー
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心の声は本当の心

恋愛物です、一応…

周囲の観察を始めて、もう何日たったかはわからないけど。

とりあえず、今日までわかってきた事を頭の中で復習していこう。


この世界は、やはり以前の世界の文明とは全く違い、かなりの種類の異種族達の共存する世界。

その為か、「神様・女神様・精霊様」も多種多様なようで、私の居るこの村ですらここを含む3種類の神様を祭る神殿があるらしい。


そして、私は自分で言うのも何とも言い辛いけど『恵みの女神様』との事。

「しばらくの間、お声が聞こえませんでしたので天界へおいでかと思いましたが、無事お戻りくださいまして安堵いたしました、アンジェライト様」

そうなの?それって『私』が目が覚めるまでの間って事…なのかな?

「私はまだ未熟者ですので、女神様方の仰られるお言葉が理解出来ないので申し訳ありませんが、こうしてまたアンジェライト様のお声を聞ける事、感謝しておりますよ」


私は今、目の前に佇む修道女のメロディさんとお話し中。

これもこの世界の特色の一つで、各神様に1人『伝言役』となる念話の出来る聖職者が付くらしい。

つまり、私『アンジェライト』と呼ばれる恵みの女神の御付きがこのメロディさんという事になる。


メロディさんの種族は鳥人。

本来は聖国や帝国・精霊国といった力の強い国の聖堂に努める事が多いらしいけど、彼女の背の真っ白の片翼は目に見えない怪我の後遺症で長く飛べなくなってしまい、彼女の一族からこの辺境近くの村へと「派遣」という名の追放となったという、何とも聞いてて悲しくなる顛末だという。


「私のような半端な聖職者であっても、お優しいアンジェライト様にお仕え出来る事、心より嬉しく思ってます」

いつも絶やさない笑顔のまま、メロディさんは私よりはるかに女神の心じゃないかと思う…


私も、傍にいてくれるのが貴女でとても嬉しいです。

そう『囁く』と、メロディさんが一瞬目を見開いた後、それこそ花が咲くかのような笑顔で目元に涙すら浮かべて跪かれてしまう。

もう少し、気楽に話せるようになればもっと嬉しいかな。




「久々の帰郷なので道中の無事をお見守りください」

そうなの?気を付けてね。

「我が主の病魔を、そのお力で払い給え」

傍から聞いたら忠臣なんだけど、内心の「(無能な当主より民を導ける後継者を早く正しき当主へ)」ってのがダダ漏れですよ、私限定だろうけど…

「やっと彼と婚約できました!ありがとうございます!…それで、その…明日の初めての一緒のお出かけ…絶対晴れにしてください!!」

あー気持ちはわかる… でも管轄外っぽい?

毎日お祈りに訪れる様々な人達の声に、内心でツッコミにもならない声を飲み込む。


私の神様としての力なのか、表に声に出す言葉と同時に本心も全て読み取ってしまう。

良い人かと思いきや中身は少々困った人だったり、その逆だったりするけど。


ある日、やってきた1人の裕福そうな商人は

「今日の取引も無事に済みますようにお導きを。これで、また我が家の資産は増える一方だろう」

嫌な感じで笑う主人にお付きの人達も見えない角度で顔を顰めてる。

でもね、私だからわかる。

彼は態と悪態と言葉と行動で示してお金を貯めようとしてる。

彼の本心は、故郷で1人寂しく父である彼を待つ病弱な娘の姿で占められていた。

彼がお金に固執してガムシャラなのも、娘の今後の為に出来るだけ貯めておきたいという一心だから。

不器用な人なんだと気付くと、このまま見過ごせなくなる。


メロディさん、頼める?

「承知しました。…そこの商人さん、お待ちください」

「シスター?何事ですか?申し訳ないが、これから商談なので寄付はお断りを…」

メロディさんに呼び止められた彼は努めて不遜な表情で振り返る。


「いえ。そうではありません。我が主アンジェライト様のご神託により、こちらを」

そう言ってメロディさんが差し出した小瓶に、訝し気に目を細めた商人さんの表情が見る見る内に変わっていく。

「こ、これは!まさかっ!?」

「はい。アンジェライト様のお力を貴方のご家族にと」

「…………」

その表情のまま全身の震えを隠せなくなってきた商人さんの両手が、ゆっくりとメロディさんの持つ小瓶を落とさないように包み込む、それと同時に両膝を床に落とした。


「まさか…そんな……」

「女神様には全てお見通しです。貴方はそれを無事にお持ち帰りになって必要とされるご家族の方にお使いくださいね。それこそが女神様の御意思です」

メロディさんにそう諭された商人さん。

その両目から大きな涙がとめどなく零れ落ちていく。

「旦那様…」

心配そうに集まってくるお付きの人達。

さっきの顔が嘘みたいに主人に寄り添い、手の中の物を見た途端に私の方を見上げ全員がほぼ同時に傅いた。

うん、わかってた。

このご主人もだけどお付きの人達も、態と「憎まれ役」を買ってでていた。

自分達が居なくなった後に、莫大な遺産を持つ娘が他人に妬まれるよりも「悪い親や使用人達からやっと自由になれた」と同情してもらう為に。


本当に不器用な人達。

「大丈夫です。あの方々もアンジェライト様の御心をしかと受け取っておられましたから」

泣きながら何度も頭を下げつつ去っていく商人さん達の姿が見えなくなってから、メロディさんは私を見上げて微笑んでくれた。


お薬、また作っておかなきゃね。

お読みくださいましてありがとうございます。

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