黙って立ってるだけの簡単なお仕事です
初投稿です。
最初の感覚は、ふわふわと漂う心地よい揺り籠の中のような感触。
言葉にするなら、それが一番しっくりときたと思う。
ずっとこの状態で微睡んでいたいと思う一方で、『外』に何があるかも気になってきた。
うん。昔からだけど我ながら落ち着きがない。
…昔?昔って??
あれ?『私』は……
ここまで考えて未だに微睡む体の中で、意識だけがゆっくりと形作られていく。
目を開けると、薄ぼんやりした空間にいるという事は理解できた。
乳白色の世界の中で、只々ぼんやりしてたのだと気付く。
「※※※※※」
微かに聞こえてくるのは、鈴の音とも鳥の囀りとも違う、でも似たような音。
やがて、乳白色が明暗を何度か繰り返す内に、それが昼と夜の繰り返しである事を感じとった。
何度かそんな明暗を繰り返した頃、私の意識の覚醒と共に周囲はゆっくりと形と色を映しだしていった。
最初に認識したのは大きな壁とその中央にある大きな出入り口。
ぼーっとした感覚で、そこを見つめ続けてみる。
周囲の壁の装飾や雰囲気から出入口となっている場所は、以前はこの形に合った扉があったんだろうな~と何故か確信にも似た考えが浮かんでいた。
開けっぱなし…というのが正しいかはさておき、出入り口の向こうに舗装されてない土の道路を見つけて、次はそっちを観察中。
旅人の装束で歩き去る幾人のも人間。
牛や馬に似た、少し雰囲気の違う獣に荷車を引かせた商人らしき所謂『獣人』を体現してる二足歩行の生き物達。
あまり見かけないが、十数人で組んでいるだろう兵士や騎士のような行軍。
そして、恐らくはこの建物を含む周囲を居住としている数人の顔見知りになりつつある老若男女。
様々な人達の行きかう姿は、ぼんやりふわふわに包まれたままの私の興味を大いに惹きつけていた。
「…………様」
お外観察を始めてから翌日、私が目覚めて以降何度か聞こえた優しい音…改め声に、前方一点だけを見ていた視線を初めてその発する方へと動かした。
周囲を見渡すという事すら忘れていたので、改めて見える範囲全部に視線を渡らせる。
まだ夜明け前だろう薄暗い屋内の両端にある蝋燭に灯る小さな火。
壊れかけのステンドグラスの窓、色褪せてきている並んだ長椅子。
自分の想像と大きくかけ離れてなければ、恐らく教会の中なんだろう。
自分の足元は見えないけど、前方斜め下に蹲る『間近な他人』を初めて見つけて、少しだけ心がざわついた。
そこにいるのは十代半ばだろうか大人しそうな修道女。
その背には人間ではありえない白く美しい翼が折りたたまれている。
やっぱり、ここは異世界なんだと、今更ながらに思った。
そういう小説や漫画が大好きだった。
でも、肝心のその大好きだった元の世界に関する事は、「それらが好きだった」という感情以外何一つ思い出せてない。
私がこの世界の生まれでない事、この世界に転生しただろう…という事は理解出来た。
何で?と思わなかった訳ではないけど、神様だとか女神様だとかお約束ナビゲーションが居なかった。
結局はそういう事なのかな?…で納得するしかなかった。
ゆっくり立ち上がった修道女が私を見上げて微笑み、そして教会内の掃除を始める。
太陽は異世界でも健在なようで朝陽と言って良さそうな日差しが徐々に教会内にも広がっていく。
その頃から、何人もの村人だろう人達がゆっくり教会に入ってきた。
誰もが修道女に笑いかけ会釈しながら私の前方まで歩み寄ると、両手を組み合わせ跪く。
「女神様。おかげさまで今年も豊作となりました。ありがとうございます」
「我等が主よ。息子の所に無事に孫が産まれました。貴女様のご加護に感謝を」
…えーっと、真剣にお祈りされている所、大変申し訳ないんですが…
女神とか主とか、何で私に向かって言うのかな?
っていうか、真剣な方々の前で私は何か気持ちいいクッションみたいなのに包まれて上の方から見下ろしてる状態って??
あのー、ごめんなさい、私は神様じゃないので、お邪魔ならここから退きます。
「シスターメロディ! 女神様が微笑んだように見えました!」
「ええ。女神様は貴方達村の方々を何時も見守っておいでです」
うん。スルーされてる。聞こえてないって事か。
一つ収穫。あの可愛い修道女さんはメロディさん。
それからも入れ代わり立ち代わり、様々な人達が祈りを捧げにやってくる。
中には友好的でない通りすがりの男性達の姿もあったりするけど。
「魔物を沢山討伐するから早く冒険者ランクを上げてくれ」
うん。メロディさんが側にいる手前、本音が言えないのはわかったけど。
「(高ランクでハーレムを!)」は、頑張れとしか言えない。
「商売が上手くいきますように」
うん。気持ちはわかるけど内心の方の「(より良い奴隷がみつかりますように)」には返事したくない。
「……………」
黙って睨まれてもわからないよ。この少年も顔はイケメン寄りなのに。
のんびりぼんやりしてたので、今更ながらにわかった事。
私は、この世界に生きる人達から「女神」という立場でみられている。
そして、私は自分自身を自由に動かせないという事だった。
読んでくださってありがとうございます。
全部で4話くらいのつもりです。




