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レベマ勇者  作者: エンリコ
第1章
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第1章 -3-

ユフィルはドヤッと効果音がつきそうなほどに胸を張り、ニヤニヤとしている。ユフィルの大きめな胸がより強調されて、エロい。表情は小さな幼子が悪い事を企んでいるようにニヤついていて、可愛い。


「お前どっから来たんだよ!」


太った少年が海斗を指差して叫んだ。おいおい人様を指で指すんじゃねーよと思ったが、この世界ではそれが常識ではないのかもしれないと考えて素直に質問に答える。


「んー現実? というよりも、東京って言った方がいいのかな。」

「トウキョウってどこの町だ? というか、現実ってどういうことだよ。」

「日本の都市で、現実っていうのは…ごめん、言葉のあやだ。」


海斗はなんとなくここが夢の世界だと言ってはいけない気がした。


「ニホン?どこの国だ?」

「さぁ…聞いた事ねぇ。」


太った少年は痩せた少年に尋ねるが、痩せた少年は首を横に振って答えた。彼の左目はほんのりと赤く充血し、下睫毛に涙が乗っている。


「知らないところに決まってるでしょ。だって勇者様は、異界から来たんだから!」


ユフィルは嬉しそうに海斗を見ながら言った。可愛い笑顔が自分に向けられたことにドキッとする。


「異界からの勇者ってのが本当なら、誰が召喚したんだよ。お前なわけないもんな、ユフィル。」

「どうして私なわけないっていうの?デイブス。」

「お前まだレベル15じゃん。」

「レベルは低くても条件を揃えれば召喚できるのよ、チヴァ。」


どうやら太った少年がデイブス、痩せた少年はチヴァというらしい。


「お前、どうやって勇者になった!どうやってレベルをMAXにしたんだ!」

「さぁ…知らねぇ。こっちで目が覚めたら勇者になってて、レベルもMAXだったんだ。」


デイブスは悔しそうに下唇を噛み頬を真っ赤にさせて、こんな奴勇者じゃねーよ!と叫びながら海斗を押しのけて大股で歩いていった。チヴァも慌ててデイブスの後をついていく。

2人が去っていく背中を、海斗とユフィルはただ呆然と眺める。

どうしてあいつはあんなにキレてんだ?


「勇者様、ごめんなさい。」

「え、何が?」

「私の友人達があなたに不快な思いをさせてしまって…。」

「いや、ユフィルのせいじゃないだろ。」


ユフィルにとってあいつらは友人なのか。女の癖にとか、結構ユフィルを馬鹿にしていたように見えたが、そんな奴らを友人と呼んでいいのか?なんだか腑に落ちない。


「足を止めてごめんなさい。村はもうすぐです。」


そう言ってユフィルは歩き出した。海斗もついていく。

ユフィルが友人と言ったことに対し、自身がモヤモヤしていることに海斗は気付いた。しかし、何故こんなにモヤモヤしてしまうのか。それを考えるために、海斗はより頭を抱えた。





小さな雑木林を抜けると、 古い民家が建ち並ぶ所に出た。家々の屋根や外壁は痛み、時折壁にヒビが入っている家もある。長年の雨風にさらされて傷つきながらも悠然と立つ家々は、どこか趣きを感じさせ、お洒落に見える。

ユフィル曰く、ここがユフィルの生まれ育った村だそうだ。

村を歩くと、村の人達からは特異な目で見られた。しかし、ユフィルはそんなことを気にもとめないようにしっかりと前を見ながらスタスタと歩いていく。海斗は未だかつて経験したことのない他者からの注目に、肩が自然と縮こまる感覚がした。

時折、海斗の存在について尋ねに来る人々がいた。ユフィルが異界からの勇者だと答えると、驚いて海斗を見つめる人もいたが、デイブスとチヴァのように馬鹿にする人もいた。しかし、デイブスとチヴァのようにSCGを通して海斗を見た後も馬鹿にするものはいなかった。

ユフィルは最後に必ずこれからジジ様のところへ向かいます、と言って頭を下げる。そう言われた人の返答はそれぞれだが、何か一言言って皆んな同じように頭を下げた。

海斗はジジ様という人のところへ向かうことを、ユフィルと村の人達の会話で初めて知った。

ジジ様って誰?

…という質問をユフィルに投げかけようとするも、村の人達の視線に緊張してしまいそれすらも口からは出せなかった。





暫く村を進むと、他の民家よりはかなり大きく、豪邸というほどには大きくない、お屋敷と呼ぶのが丁度いい大きさの家の前でユフィルが止まった。ここにジジ様という人がいるのか。

ユフィルは堂々と建物の敷地内に入っていく。


「お、おい!こんなところ勝手に入っていいのか?」

「大丈夫ですよ。ここ、私の家なので。」


にっこりと返事をしたユフィルに、海斗は「えええぇっ!」と情けない声をあげた。 他の村人よりはお嬢様な雰囲気してたけど…本当にお屋敷のお嬢様だったのか!

ユフィルはソッと扉の取っ手を握り、ゆっくりと引いた。見た目通り古い建物らしく、ギイィィっと扉が悲鳴をあげる。


「お母さん、ただいま!」


ユフィルの可愛い声が屋敷内に響き渡る。玄関の正面には広い廊下と大きな階段があり、階段の横にも扉へと繋がる廊下がある。こんなにも広い家に入ったことがない海斗は、なんだか自分が少し小さくなったような気がした。

スタスタと廊下を歩くユフィルに、海斗は驚いてユフィルと靴を交互に見た後に玄関を振り返り、靴を脱がなくてもいい文化なのだと気付いた。

ユフィルは廊下を右に曲がり、その奥の扉をノックして開く。


「お母さーん。」

「お帰りユフィル。」


ユフィルと同じピンク色の髪をした美しい女性が笑顔で此方を見る。彼女は8席ほどある広いダイニングテーブルの角の椅子に座っており、先程まで縫い物をしていたらしく右手には糸を通した針、左手には縫いかけの服を持っている。テーブルには縫い物の道具が置かれている。大きな断ち切りばさみが目につく。

美しい女性は海斗を見ると、少し怪訝そうな顔をする。


「この男の方はどなたかしら?」


その言葉にユフィルはにんまりと笑うと、両足をピタリと合わせて姿勢を正し、杖を左手に持ち口を開いた。


「私が召喚した異界の勇者様です、お母様。」


ユフィルは右手を胸元に当てて仰々しく、深々と頭を下げた。海斗に自己紹介をした時と同様のお辞儀だ。

ユフィルが母と呼ぶ美しい女性は、肩を落として口をポカンと開け、目を真ん丸くさせながらユフィルを見た。手に持っている縫い針を落としそうで、危ない。


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