第2章 -2-
灰色の雲が、広大な空を流れていく。時折雲が薄くなっているようで、そこから朝の日差しが漏れ込んでくる。
「次の村までなんとかもつといいんですけど…。」
不安げに空を見上げてユフィルが呟いた。
旅に出て5日目。ユフィルによると、今日中には次の村に着くらしい。なんとか雨が降る前に村に着くことができればいいのだが。そんな思いも裏腹に、目の前に広がる広大な草原は、無限に続いているのではないかと錯覚さえさせる。
「ねぇ!そこのお二人さん!」
突如、女性の声が草原に響き渡る。久し振りに聞いたユフィル以外の人の声だ。海斗は自分が話しかけられたことをすぐに理解できずにいたが、自分たちしか当てはまる人がいないことを察して振り返る。
茶色い髪色の女性だ。その髪は短く、髪先は肩にも届いていない。胸、腰、肩、腕には赤い鎧を纏っているが、彼女のお腹は黒い布があるのみでなんとも無防備だ。
海斗は彼女が誰かを問いかけるようにユフィルを見た。しかしユフィルはその視線の意図はわかったようだが、ただ首を横に振るだけだ。
「あぁ、ごめんごめん。どっちかの知り合いとかじゃないんだ。でも怪しい奴でもないからね。」
敵意がないことを見せようとしているのか、彼女は両手のひらを見せて言った。
彼女の表情は凛々しく、どこか強さを感じさせる。言葉の言い回しも、仕草も、失礼ながら男らしさが見える。
「えっと…どなたですか?」
「アタシはロゼ。職業は剣士。以後お見知りおきを。」
「私はユフィリウス・バンクウィードと申します。ユフィルとお呼びください。以後、お見知りおきを。…そしてこちらは、」
「待って!」
彼女、ロゼは突然大きく目を見開いて、ユフィルの背後を見つめながら言った。その様子は何か恐ろしい化け物でも見つけたように怯えている。
振り返ると、遠くにオレンジの光が揺れているのが見えた。
「ごめん、急がなきゃならなくなった。けど、これだけは言わせて。ヨラフキ村には近づくな。特にその男!」
「え?」
ロゼはただそう言って、オレンジの光とは反対側へ駆けて出した。その背中は、風のように速く消えていく。
なんだあの女?ヨラフキ村には近づくなって。それに、なんで俺は特にダメなんだ?
「なぁユフィル、ヨラフキ村って?」
「ちょうど私達が向かおうとしていた村です。」
「ヨラフキ村ってそんなに危ない村なのか?」
「行ったことはないのでよく知りませんが、ジジ様にはごく普通の、昔からよくある村だと聞いていますよ。」
余計に謎が深まった。ユフィルも不思議そうに、頭を傾げている。
普通の村なのに近づいてはいけないって、どういうことだ。それか、もしかして表面上は普通の村に見えているだけで実際はそうじゃないとか? いやいや、もしかしたらあのロゼって女が嘘をついているだけかもしれん。
「勇者様!あのオレンジの灯り、人ですよ!あの人達に聞いてみませんか?」
ユフィルが指をさす方を見る。そういえば、オレンジの光のことをすっかり忘れていた。確かに、何人かの人達が松明を持ってこちらに向かってきている。
「そうだな、聞いてみるか。」
歩き出すと同時に、前方から微かにだが人の声がした。向こうもこちらに気づいたようだ。
自然と、足は速くなっていた。




