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レベマ勇者  作者: エンリコ
第1章
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第2章 -1-

「ファイア!」


ユフィルがゴブリン目掛けて炎の魔法を放つ。腕の長さほどの小さなゴブリンは、猿の悲鳴のような甲高い声で鳴いて消えた。

最弱の雑魚といえばスライムだと思っていたが、この世界ではゴブリンが最弱で数が多いモンスターのようだ。


「今のところゴブリンやレッドキノコばかりで助かりますね。」


レッドキノコもまた、雑魚モンスターの1種らしい。本物のキノコのフリをして、人間が油断して近づいた瞬間に襲うという習性のようだ。なんだか宝箱の中に潜むモンスター、ミミックのようだ。

デイブスとの闘いに勝利した翌日、海斗とユフィルは村から旅立った。海斗がレベルダウンする勇者であるとわかり、村の強者勢数名も一緒に旅をしようかという話が出た。しかし、それはユフィルの祖父によって却下されてしまった。魔王を倒した歴代の勇者たちは、各村で1人ずつしか旅の仲間を迎え入れなかったらしい。

そして、海斗は魔王との闘いまでレベルを下げないように闘うことを禁じられた。普段の戦闘はユフィルに任せてしまった方がユフィルのレベルアップのためにもいいだろう、ということらしい。

しかし…ユフィルがモンスター達と闘う背中を黙って見ているのは、どうも身体がむず痒くなる。

女の子が闘ってる中護られてる勇者って、どうなんだ?いや、男としてどうなんだ?

確かにこの3日間で、ユフィルはレベル15から16に上がった。レベルが上がる頻度というのはわからないが、ユフィル曰く、かなり早いらしい。


「勇者様、そろそろ日が暮れそうですね。」

「ほんとだ。」


空には赤と青のグラデーションが描かれている。色の境目がなんとも美しい。赤色の光源を見ると、地平線と太陽がぶつかりそうになっている。


「今日はこの辺までにしておきましょう。」

「そうだな。」


海斗はリュックサックの肩紐を左肩だけ外して、リュックを抱えた。リュックを前に持ってきた勢いで、背中が丸まる。そして、リュックの中から淡い水色をした大きな布を取り出す。

これはマジックスケルトンシートと言って、この布の上に乗るものの姿と気配を消してしまうアイテムらしい。4.5畳ほどの大きさのあるこの布は、デイブスと闘った時に使った木製の剣よりも重たい。

マジックスケルトンシートを地面に落とし、丸まった布を広げていく。ユフィルも杖を置いて、海斗と同じように布を広げていく。女の子に手伝ってもらうということは、童貞男にとってはなんとも嬉し恥ずかしく、満足感のあるイベントだと海斗は旅に出てから常々思う。


「じゃあ、ご飯を作ってしまいますね。」


自分の荷物を布の上に置いたユフィルは、鞄の中から小さなお鍋と小さな

かまどを取り出した。かまどの上に鍋を置き、その上に手をかざす。


「ウォーター。」


ユフィルがそう唱えた直後、鍋の上にかざされた手から水が溢れていく。小さな鍋が水で満タンになると、ユフィルは鞄から取り出した赤く歪な形をした小さな塊をかまどの中に入れた。そしてその塊を指でさす。


「ファイア。」


ユフィルの指先から小さな炎が飛び、塊に命中した。塊に点いた火は消えることなく、燃え続けている。

初めてこの一連の流れを見たときはすこぶる興奮した。いや、今でも興奮する。日常生活で平然と魔法を使うなんて、俺の理想じゃないか!

興奮するたびに鼻息を荒くしてその様子を眺める俺を見て、ユフィルが笑った。

コポコポと音が鳴る。お湯が沸いたようだ。ユフィルは今日採ってきた草やキノコを鍋の中に入れていく。透明だったお湯は、徐々に緑色のスープへと変化していく。

正直俺は、このスープが苦手だ。草の苦味がスープに溶け込み、青汁のような味がするのだ。だがユフィルにとってはこのスープは美味しいようだ。


「もうちょっとでできますからね。」


お箸で沸騰されたお湯の中のかき混ぜながらユフィルが、まるで毒リンゴを作る魔女のように見える。


「勇者様、毎日このスープですみません…。」


眉尻を垂れ下げてバツの悪そうな顔をして言うユフィルに、海斗は自身の頰が引きつっていることに気がついた。


「いやいや、ユフィルが謝ることないだろ!それどころかありがたいよ。毎日ありがとう。」


顔の前で手を横に振って、慌てて否定する。しかしユフィルの表情は依然落ち込んだままだ。それどころか肩を落として、悲しそうにかき混ぜられる鍋の中に目線を落とした。

毎日このスープになってしまうのは仕方がないことだ。村から持ってきた調理不要の食べ物は、朝食や食べ物が手に入らないようにとっておく必要がある。

ゲームの中の冒険では、主人公たちはお腹も空かないしトイレもしない。しかし実際はお腹も空くし、トイレをする場所もない。トイレをするときは石影に隠れて穴に埋めるのだ。紙だって冒険の中では貴重だから、大きめの綺麗な葉っぱを使ってふく。

お風呂に入ることもできない。小川を見つけた時に、布に水を染み込ませて体を拭くしかないのだ。

実際の冒険がこれほど大変だとは夢にも思わなかった。


「次の村に着けば、もっと美味しいものを食べられるんですが…。」


そうだ。村に着けば美味しいご飯だって食べられるし、お風呂にも入ることができる。

村に着くのはいつだろうか。そう考えながら、夜を迎え始めた空を見上げた。





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