日記(男性A-4,女性R-4)
引き続き確認作業をよろしくお願いします。
○月□日
新しい日記帳だ。新しい物の匂いはとても好きだ。日記帳の最後のページと違って、寂しさがない。これからこの真っ白なページ達を少しでもいい事で埋めるべく、頑張ろうと思う。
【Rabbit】
やっぱり自分のサイズにあった日記帳は書きやすい。でも、特別感がないのは寂しいかな。
新品の日記も、どこか他人ヅラって感じで寂しさがあるし…なんだか寂しい時間だ。
○月□日
巨人の食材を貿易の材料に使おうと思っていたが…無理だと言われてしまった。どうにも、以前同じことを考えた人間がいたらしい。その時に執念深い貿易商によって巨人の里が見つかってしまったそうだ。
また別の策を考えなければ。
【Rabbit】
アサキも色々なことを考えているみたい。アサキは小さいし、私の家なら全然養えるから働かなくてもいいのに。むしろ、変なことに手を出して危ない目にあうくらいなら、何もしないでいてくれる方が嬉しい。
○月□日
今日はラビットから「別に無理に働かなくてもいいんだよ」と言われた。心配してくれるのは嬉しいが、僕が働きたいのは僕の気持ちの問題もある。
ラビットに養われてしまったら、僕はラビットと対等な存在になれないと思う。奴隷と主人という不平等な関係性を乗り越えたからこそ、僕はラビットと対等でありたい。
【Rabbit】
アサキは優しい。真面目だ。私が奴隷だった頃みたいに、対等じゃないのは嫌だなんて。
アサキの気持ちはずいぶん固そうだし、私はせめてアサキが安全に働ける仕事を探そう。
○月□日
ラビットがここで出来る安全な仕事を考えてくれた。絵描き・時計職人・物書きの三つがオススメらしい。確かに、僕は小さいから精密なことには向いているし、巨人の知らない文化について書ける。中々良いかもしれない。
【Rabbit】
アサキに安全に出来そうな仕事を教えてあげたら、意外と真面目に考えてくれた。しかも、乗り気そうに見えた。これは探したかいがあるかも。
○月□日
しばらくは、自分なりに色々試してみたい。新居の状態が気になり始めているが、恐らく大丈夫だろう。
【Rabbit】
アサキが文章を書く姿を紅茶を飲みながら眺める。アサキが絵を描いている隣で昼寝をする。アサキが勉強して疲れた時にお菓子をあげる。どれも納得がいかないみたいで悩んでいるけれど、こんなに穏やかな日々が続くならずっと結論なんて出さなくていいかもしれない。どんどんアサキが愛おしくなる。なんて可愛いんだろう。
○月□日
早くどうにかしなければと思うが、違う種族の村での自分の価値について考え始めると、中々答えが出ない。
最近村の入口近くで人間を見かける回数が増えているらしい。人里も無いこんな場所に人間が近づくことは稀なはずだ。なぜ?とラビット達も不思議がっている。原因を調べても危険性がないのは僕だけだろうと思う。気晴らしに見てみたい。
○月□日
この辺りをうろついていた男は僕の従者だった。少し様子でも見ようと外に出た瞬間に声をかけられた。どうやら、引越しして数日経ってからすぐに尾行していたらしい。しかも、従者の話によると中々まずいことになっているみたいだった。ラビットにも話をしなければならない。
忘れないように話の内容を書き留めておく。
従者は父さんに言われて僕を尾行していた。珍しい巨人奴隷を逃がすかもしれないからという理由だったそうだ。しかし、その尾行の途中、隣国の治安が悪化したのをきっかけに国際情勢が一変し大戦が始まりそうになっているという話を聞いたらしい。よくよく話を聞くと、この北の森を開拓して兵舎を作るという話があったそうだ。今は父さんが僕の存在を理由に開拓の時期を延期しているらしい。そして、尾行は、僕の安全を確認し、僕を家へと連れ帰るという目的に変わったという。
僕は、その開拓を上手く行うために、少し北の森の情報を仕入れてから戻ると伝えておいた。これで少しは時間稼ぎができるはずだ。
【Rabbit】
何も無い平穏な日々が続いていると思ったのに、どうしてこんな問題が起こってしまうんだろう。もっとアサキとゆっくりしたかったのに。
○月□日
早速ラビットに相談した。すぐに色んな人に話を通して、対策を考えると言ってくれた。このまま何事も起こらないでいてほしい。
【Rabbit】
どう考えても、ここから離れるしか手がない。でも、そうなると、アサキとは離れ離れになってしまうのかな。アサキを連れていっても、巨人の世界の中で一人きりだ。私が奴隷をしていた時みたいに、一人きりだ。もうお別れかもしれないね。辛い。どうしよう。
○月□日
ラビットによると、巨人は地下通路を持っているらしい。僕達人間が土地をたくさん広げてしまったから、巨人は地下に居場所や通路を作って貿易などを行っていると言っていた。その通路を使って逃げることが可能なら、誰の血も流れないで済むかもしれない。新しい巨人奴隷が生まれる可能性も減らせたはず。
【Rabbit】
アサキが稼いでくれた時間も、明日が最後だろうと思う。だから、明日には、逃げるための準備は完了させていなければいけない。人間みたいに多くないから、私達は簡単に逃げられる。でも、でも、アサキと別れるのかもしれないと考えると本当に辛い。今は笑って話しているけれど、アサキとじっくり話した方がいい気がする。
いや、話さなきゃいけない。私を救ってくれたのはアサキだし、私が大好きなのもアサキだから。お別れの前に。
○月□日
今日会う約束をしていた従者と話した。今までラビットに優しくしていたのは、こうして巨人の街に入り込むためだったと嘘をついた。そして、巨人達から信用を得たから、色んな情報を得ることが出来たと言った。自然にこの街から出るためにあと三日いると嘘をついた。たくさん嘘をついた。ラビット達を守るためならこれくらいの嘘、何の罪にもならないよ。
【Rabbit】
今日、アサキと話した。アサキが私を救ってくれたのがどれだけ嬉しかったか。アサキが私に優しくしてくれることがどれだけありがたかったか。アサキがこうして私のそばにいることがどれだけ幸せか。私がアサキのことを、どれだけ好きか。
今日がお別れだと思っていたのに、アサキは時間を稼いでいてくれたみたい。たくさん話してしまったから、お別れまでの日を過ごすのが恥ずかしくなってしまった。
明日から顔を見にくいじゃないか。
○月□日
ラビットがやけに深刻な顔をして近づいてくるから、心配したのだが、意表を突かれた。告白された。
僕は確かにラビットのことは大好きだけれど、それがどういう形の好意なのかは意識したことがなかった。けれど、ラビットは意識していたみたいだ。
ラビットは体が大きい分、色んなものも大きくなるわけで、あの大きな目にまじまじと見つめられながらあんなに色んなことを語られるなんて、赤面なんてものではない。あんなに、たくさん、大好きだなんて言われたのは初めてだ。
抱きしめられたし。
抱きしめたのは、きっと、僕が小さくて好き勝手出来るからだろうけど…。
突然あんなことを言われてしまったから、まだ落ち着かない。でも、落ち着いて考えなければならない問題もある。ラビットの話を聞いて、改めて、僕が今後どうするか決めなければならなくなった。巨人たちが逃げたあと、人間の世界で生きるのか。巨人達と一緒に逃げるのか。
もう、答えなんて決まっているようなものだけれど、一応ね。
【Rabbit】
今日一日で、もう、みんな逃げる準備が出来たらしい。あとは、明日を待つだけ。アサキは返事をくれないけれど、どうするつもりだろう。顔を見るのが恥ずかしいから、聞けないまま一日が終わってしまった…。今はもうすやすや寝ちゃっているし。かわいい。
○月□日
僕を知る皆へ。
僕は、人間の世界で生きるのをやめます。
僕は巨人達とともにここから逃げます。地下通路には重いガスが蔓延しているため、巨人程の体高が無ければそのガスを吸って死んでしまいます。追いかけるのは諦めた方がよろしいでしょう。それでも追いかけるというのなら、僕は巨人達と共に全力であなた達と戦います。巨人奴隷や巨人の居住地の破壊はもう僕が許さない。世界にある偏見だって少しずつ取り除いてみせる。これを読んでいるあなたも、少しでも今の世界に疑問があるなら世界に対して声を上げてください。
少しでも僕の言葉が信用されるように、僕が自分の意思でこの道を選んだことがわかるようにこの日記は置いていきます。彼女とのことを全て見られるのは気恥しいけれど、この日記がいつか誰かの役に立つことを願っています。
アサキ
【Rabbit】
アサキは私についてきてくれた。
アサキは私だけじゃなく、私達の希望になるかもしれない。愛してる。
大きくて読みにくいだろうけど、
この日記も、置いていくね。
アサキの願いが少しでも叶うように。
日記の確認作業は以上で終了です。
お疲れ様でした。




