日記(男性A-2,女性R-1)
引き続き、確認作業をよろしくお願いします。
○月□日
15歳になった。
父さんが「お前はもう大人の一歩手前まで来た。お前もそろそろ奴隷の一人や二人くらい持ってもいい頃だろう。」と言っていた。奴隷をくれるんだそうだ。父さんのことは嫌いだが、これにはつい喜んでしまう。
なにせ、使用人や仕事以外の人間と関わるのは初めてだ。寂しさが紛れるかもしれないと考えてしまう。
○月□日
眠れない日が続いている…。
誰かと過ごすというのは、どんな気持ちなのだろう?
楽しいといいな。
○月□日
ついに明日、奴隷が来る。
明日のために、今日は早く寝よう。
○月□日
奴隷が来た。正直、予想外だった。
大体5mくらいは身長がありそうな、アルビノの巨人の女だった。明日の朝から正式に僕の奴隷となるそうだ。
嬉しいのは確かだが、上手くやっていけるだろうか…?
○月□日
奴隷の存在にまだ慣れていないため、朝起きた時に声を上げて驚いてしまった。とても恥ずかしかった…。
一刻も早く奴隷の存在になれたい。今日から、気づいたことを日記に書いていく。
気づいたこと
・命令していない時は、僕のベッドの横で正座をして待機する
・命令がない限り何も話さない
・屋敷の外には出ない
・屋敷の中では僕の後ろをどこまでもついてくる
○月□日
今日は奴隷に話しかけてみた。とりあえず名前を聞いてみると「名前はありません」としか言わなかった。名前がないのは不便だし、可哀想だから、良い名前を考えたい。
気づいたこと
・とても綺麗な声
・目が赤い
○月□日
一日中奴隷の名前について考えた。
ラビット、ホワイト、スノウ、ジャックフロスト…
アルビノで目が赤いから、ラビットが一番しっくりとくる気がする。僕が好きな動物でもあるし。
今日中に決めて、明日の朝伝えようと思う。
気づいたこと
・食事の時と、風呂の時は、僕のそばにいない
○月□日
無事に名前が決まった。ラビットだ。
ドキドキしながら、僕が考えた名前を伝えたら、「承知しました」の一言だけだった。反応や返事が淡泊で、少し寂しい。
○月□日
ラビットの存在に慣れてきた。
そろそろ仲良くなりたいので、今日はラビットに色々話しかけてみた。
返事は「はい」「いいえ」だけだ。これは深刻だ…。
「食事の時どこにいるんだい?」と聞いて「はい」としか返ってこなかったのは、驚いた。
気づいたこと
・夜は寝ていない
○月□日
いつまでも頭の中で考えていてはキリがない。仲良くなるためには、もっと多く関わりを持つべきだ。
明日から【ラビットと仲良くなろう作戦】を開始する!
○月□日
【ラビットと仲良くなろう作戦】一日目
とても重いスタートだった。
第一歩として、朝食を一緒に食べようとしたのだが、予想外の事実が判明した。
ラビットの食事が、残飯だったのだ。しかも、残飯入れのバケツがそのまま出されていた。
使用人に、二度とラビットに残飯を食べさせない事と、食事の時は僕と同じものか、そうでなくてもまともな食事をラビットのために用意するように約束してもらった。
夕飯の時に、少し、不思議そうな表情をしていた気がする。
○月□日
【ラビットと仲良くなろう作戦】二日目
今日は、散歩を一緒にしてみた。
ラビットは屋敷の外には出られないようだから、屋敷の中を一通り一緒に歩いて、一番日当たりのいい部屋で一緒に昼食を食べた。
サンドウィッチを頬張るラビットはすごく可愛かった。
やはり、食事の時は、少し表情が変わる。食事とは偉大なものだ。
○月□日
今日は、父さんと一緒に食事する日だった。父さんがラビットのことを自慢げに語っていたが、そのおかげで、ラビットが無表情で無口な理由がわかった。
ラビットの行動は、父さんによって躾られていたのだ。不快極まりない。
食事の後からラビットの姿を見ない。ラビットが残飯を食べていないから、父さんが怒っているのかもしれない。
すごく気持ちが重い。罰など受けていないだろうか…。
○月□日
朝にはラビットは部屋に帰ってきていた。
何事も無さそうに見えたが、朝食の時、ラビットの食事は残飯のバケツに戻っていた。
このままにしておけば、父さんに怒られることもないのだろうが、やはりラビットには美味しいものを食べて欲しい。
「残飯を食べるような汚い奴隷なんて僕にふさわしくない」という理由付けで命令すればもっともらしいんじゃないだろうか。
試してみよう。
○月□日
とても大事な事を忘れていた。
ラビットは、夜寝ていない。健康に害が無いか確かめるつもりだったが、ラビットの食事のことばかり考えていて忘れていた。
ちょうど明日は何の予定も入っていない。夜にラビットがどうしているのか、確かめてみようと思う。
○月□日
一晩中、布団の隙間からラビットを観察したが、ラビットは微動だにしなかった。正座したままだ。
不安になったから、寝ないで大丈夫かと聞いても「はい」としか言わない。
残飯の件がある以上、これも父さんの躾である可能性が高い。命令してでも寝かせようと思う。
○月□日
昨日、ラビットに「寝ろ」と命令した。
ちゃんと寝るのか不安だったのでしばらく観察してみたが、別の不安が生まれる結果になってしまった。
ラビットは、一応は寝たのだが、悪夢を見る癖があるようだった。呼吸が荒くなって、目を覚ますことが何度もあった。あまりにも辛そうだから「寝なくていい」と命令したが、やはりラビットの健康が心配になる。
気づいたこと
・悪夢を見る癖がある
・悪夢から覚めた後は、とても怯えた目をする
○月□日
悪夢を見ないようにするには、いくつかの方法があるらしい。トラウマの元を解消するというのが一番良さそうだが、現在のラビットと僕の状況では難しそうだ。
いくつかの方法の中で一番手軽な、ホットミルクを飲む、リラックスして寝る、という方法を試してみようと思う。
僕が父さんの悪夢を見ていた時期も、ホットミルクを飲んでふかふかのベッドに入るとすごく落ち着いて眠れたのを覚えている。
○月□日
昨日、ホットミルクを飲ませたあと、僕のベッドで寝るように命令すると、頑なに断った。理由を聞くと「ご主人様がベッドで寝ることができなくなります」と言った。
仕方が無いから、一緒にベッドで寝るよう命令した。
だが、巨人と寝るというのは中々凄まじいものだった…。全身がベッドに入らないため足を曲げるのだが、足を曲げるとちょうど僕がラビットの体全体で包まれるような格好になるのだ。目の前にはラビットの顔がある状況だ。体は、大きく膨らんだ胸に触れそうな距離。あの距離は気が気でなかった。
そして気がついたことだが、ラビットは、顔の造形が良い…。
気づいたこと
・僕に害が及ぶ命令は、僕が命令しても聞かない
・悪夢は改善の余地がある
・美人
・ちゃんと会話ができる
○月□日
昨日も先日と同様にラビットと共に寝たのだが、本当にラビットの存在には戸惑ってしまう。ラビットが悪夢でうなされる度にあの大きな体が動くのだ。ラビットの息が真正面からかかることもある。僕のような、女性と無縁の環境で育ってきた身には、同じ種族でないとはいっても刺激が強い。気がどうかしてしまいそうだ。
○月□日
もうしばらくラビットと共に寝ているが、一向に仲は深まらない。何か大きな壁を感じる。躾の影響だろうか。人を信じなくなっているのかもしれない。どうすればいいものか。
○月□日
ラビットに対して何か出来ることはないかと世話人達に色々と聞き込みをしたが、また新たな事実が発覚してしまった。僕がお風呂に入っている間、ラビットも同様に風呂に入っていると思っていたのだが、違ったようだ。服を脱がし、温めてもいないただの水をかけながら雑巾で拭くだけらしい。こんな対応をされているのなら、人の事なんて信用するわけがない。どうにかしよう。
○月□日
さっさく、問題に対処した。女の使用人をありったけ集め、お湯とせっけんを使って丁寧に洗ってもらえるようにした。お風呂からあがりラビットの様子を見ると、いつものように不思議そうな顔をして私を見つめた。
ラビットは、人から優しくされることに慣れていないのかもしれない。
○月□日
昨日の夜は、ラビットから石鹸のいい匂いがした。そのおかげでとても心地よく眠れた気がする。とても調子がいい。
僕は大事なことに気がついていなかった。ラビットと仲良くなることやラビットの健康ばかり気にしていた。確かにそれも大事だが、ラビットには娯楽がないということにもっと早く気が付かなければならなかった。ラビットは、僕が外出している間、何も無い時間を過ごしているのだ。対処しよう。
○月□日
詩集と図鑑を数冊、日記帳、オルゴールをラビットにプレゼントした。ラビットは今回も不思議そうな顔をしていたが受け取ってくれた。ラビットが文字を読めるといいのだが…。
○月□日
詩集も日記帳もオルゴールも、使われた様子がない。文字が読めないのかとも思ったが、ラビットは「文字は読めます」と言っていた。気に食わなかったのだろうか。
○月□日
1週間様子を見てみたが、僕があげたプレゼントが使われることはなかった。なぜ使わないのか、いらなかったかと聞いてみると、意外な答えが返ってきた。ラビットは、僕の命令がなければ使ってはいけないと思っていたようなのだ。父さんの躾のせいだろう…。根気強くラビットの心を自由にしていこう。
【Rabbit】
日記は自由に書いていいと言われました。
ご主人様は優しい人です。素晴らしい人です。
○月□日
人と人との仲が急に深まらないことは知っているが、やはりラビットとの距離が縮まらないことがもどかしい。せめて、会話くらいはしてみたいものだ。
【Rabbit】
ご主人様は私にたくさん話しかけてくれます。ご主人様は優しい人です。
○月□日
ラビットは、どうして、奴隷なのだろう。
ラビットは巨人だ。身長は5m近くある。ラビットと戦うようなことがあれば、僕はあっさりと負けてしまうし簡単に殺されるはずだ。なのに、そんな弱者の奴隷としてラビットは生きている。なぜだ。
【Rabbit】
ご主人様は不思議なことを私に言います。
今日は、私の手に顔を乗せて、「今手を握れば、君は僕を殺せるよ」と言いました。私には理解ができませんでした。私の考えも及ばない尊いことを考えているのだと思います。
ご主人様は素晴らしい人です。
○月□日
ラビットにプレゼントした日記は、少し小さかったのかもしれない。ラビットが日記を書いている姿を運良く見ることが出来たが、1ページを消費する早さが尋常でなかった。体が大きければ、書く字も大きくなるのは当然か…。
次の日記帳は大きいものを買おう。
【Rabbit】
ご主人様は日記を書くことを長く続けているようです。こんなに繊細な作業を長く続けられるのは素晴らしいことです。ご主人様の期待に応えるためにも、日記を書くことを頑張ろうと思います。
○月□日
ラビットはいつも、日記をどこに隠すわけでもなく机の上に置いている。普通、日記というものは他人に見られたくないものだと思うが…。ラビットにそのような感覚はないのだろうか。気になる。
【Rabbit】
ご主人様が、私の日記を不思議そうに見ていました。私がちゃんと使っているのか気になったのかもしれません。これからも日記をつけて、ご主人様を安心させたいと思います。
○月□日
ラビットに日記のことを聞いてみたが、どうやらラビットは僕に隠し事をすることが罪だと思っているらしい。それなら、ラビットは僕に見られる前提で日記を書いているのだろうか…。
全然自由に書けないじゃないか。鍵付きの金庫でもあげれば、ラビットの生活も少しは自由になるかもしれない。
【Rabbit】
今日はご主人様が、日記を隠さないでいいのかと聞いてきました。ご主人様に隠し事をするような人だと思われていたのでしょうか。私の忠誠心が足りなかったのかも知れません。これからも努力して、ご主人様のお役に立ちたいと思います。
○月□日
早速街で買ってきた金庫をラビットにあげた。ラビットはいつもの如く不思議そうな顔をして受け取ってくれた。
奴隷としての躾のせいだろうが、あまりにも人としての尊厳がなさすぎる。僕はラビットのことを奴隷としては扱いたくない。
【Rabbit】
ご主人様が金庫をくれました。日記などを人に見られるような場所に置いていては、自由に書けないだろう。ということでした。他にも、見られたくないものがあるなら存分に活用していいと言っていました。ご主人様は不思議な人です。隠し事を許してくださるなんて、優しい人です。素晴らしい人です。
○月□日
昨日の夜、ラビットに一つ質問をしてみた。
「もし、奴隷の契約を解除し、今すぐにこの家から出て、自由に生きられるようになったら何をしたい?」と。
例え契約が解除されても僕に仕えると言っていたが、やはり、本音なんて言えないだろう…。奴隷の身ならば、雇い主の機嫌を取らなければ命に関わるものな…。
追記
いつの間にか、僕は奴隷という人の扱い方を嫌悪するようになっていた。こんな仕組みが当然だと思われているなんて狂っている。
これもラビットの影響か…。
【Rabbit】
ご主人様の考えていることがわかりません。奴隷の身でなくなったら、何をしたいと聞かれました。こんなに素晴らしいご主人様の元を離れるわけがありません。一生お仕えしたいです。
○月□日
今日は、ラビットに色々なことを質問してみた。故郷は?年齢は?好きなものは?嫌なものは?…。一応、全て答えてはくれたが、やはり壁を感じざるを得ない。
気づいたこと
・故郷は北の森の奥の村
・年齢は180間近
【Rabbit】
ご主人様が私のことばかり聞いてくるようになりました。私はご主人様への忠誠心を試されているのかも知れません。きちんと答えて、ご主人様の傍にいられるよう頑張りたいです。
○月□日
ラビットを、一度、誰もいない森の奥深くに連れていってみようか。僕と二人きりで。どこへでも逃げられる場所なら、本音を話してくれるかもしれない。本音が肯定的なものだとは考えていないけれど、奴隷として一方的な関係でいるのは嫌だ。
【Rabbit】
ご主人様は、私のことを優しい目で見ます。なぜでしょうか。今までのどのご主人様とも違います。素晴らしい人です。
○月□日
明日、ラビットを連れて森の奥へ行く。北の森の奥だ。ラビットがいつでも故郷に帰ることができる場所だ。ここなら、本音で話し合えるかもしれない。
もし、ラビットが人間に恨みを持っていたら殺されるかもしれないが、危険を冒さずしてラビットの信用を得られるとは思えない。覚悟しておこう。
【Rabbit】
明日は、ご主人様と二人きりで北の森へ行くことになりました。私の故郷がどんな場所か気になったのかもしれません。それにしても、ご主人様は不思議な人です。こんなに奴隷の私に興味を持ってくれるなんて。




