第八話「小説家志願」
翌朝も第二話が、その翌日には第三話がアップされた。作者はストックを連日投下してアクセスを稼ぐ作戦らしい。
戦士は弓矢を手に入れ魔人と二度目の対決をする。
「あい変わらずゆるいバトルで勝っているけど、タイトルにチートって入っているから一応、戦士は強いって事でいいのかなあ? それにしても歌か……」
この歌は実験と言うか冒険だ。アニメじゃ挿入歌は普通だけど、それは当然、楽曲の売り上げも当てにしているから必要なんだろう。はたして小説に作者が作詞を付けて、小説の次に楽曲が発売されたとして、それは読者に受け入れられるのだろうか? 超人気な有名声優が歌ったとしても……。
「無理だね、戦士酒じゃあ演歌じゃん。感想欄でボロクソ叩かれるのがオチさ。いや相手にもされないかなあ」
もっとも神視点の地の文、詩との見方もできる。はたしてこの作者はそこまで考えているのか?
「ラノベ原作のアニメでも作者が歌詞を書いた話は聞かないなあ……」
しかし、ママのをチュウチュウ吸っては変態エロ漫画ネタだし、拒否は分かるが、この小説はR15指定だったのか?
「僕は読めないじゃん。読むけど……」
街で少女とぶつかるか……。定版の伏線だ。この少女がヒロインになるのは分かるが……。
「主人公はゲスでした、って路線の話になるのかな? 読者の評判が悪くなると思うけど」
それからも毎日更新は続き、第四話が更新された。
海や温泉などのちょっとしたゲス路線から、パワーアップした魔人に対して戦士も強くなる展開。
酒場での話ではこの夢の世界が語られた。皇都、普通の商人や闇の奴隷商人の話。伝説の戦士、魔法封印、結界等々。
「それなりに複雑な設定や伏線にはなりそうなネタだな……」
戦士は飛行マントを手に入れ、必殺技も完成したようだ。
単身魔王のいる森へ向かう。そしてまたあの歌だ。
「この歌は止めた方がいいよなあ……。さて予定通りなら、明日はボスキャラとの対決だ」
五話で早くも魔王と壮絶なバトルに突入し、第一話を読んだ時はこの小説はどうなるかと思ったが、作者は毎日、早朝に更新をしつつ、早くも山場に突入。
まさかこれで完結はないだろうし、今は、ちょっと気が早いが、先の展開に期待をしていた。主人公が剣の魔法を炸裂させる。
「ローションじゃなくてロージョンになってるね。中学生がローションを使っちゃ危なすぎるよ」
しかし魔王は剣十本、主人公はたった一本だ。はたして勝てるのだろうか? ご都合主義のパワーアップでボスキャラを倒すのがこのサイトのテンプレだ。
翌日、朝起きてスマホをチェックすると第六話が更新されていた。作者はなかなか頑張って書いている。
まるで作者自身が現実の世界で引きこもりになってしまっているかのように主人公が叫ぶ。そしてこの世界の王になる発言。
作者の何かがこの小説に現れているようだった。
「ブクマ、評価してやるかな……」
僕はポツリと呟く……。
たぶん作者はブクマや評価を渇望しているはずだ。ここまでの活動を評価してやるのは読者としての矜持だと思う。
ブックマークに追加、をポチッとする。
例えるなら彼らは池の鯉だ。水面でパクパクと口を開けブクマと言う名の酸素を、評価と言う名の餌を求めている!
「ほーーれ、食え喰え! どうだ美味いだろう!」
と可愛がってやれば張り切って続きを書くに違いない。
ただただ、無料で読むばかりでは、それはデジタル万引と同じ、とでも言うとさすがにそれは炎上必死の極論になるか? エッセイには書けないな……。
「さてと……」
僕はちょっと考えた。
「文法・文章評価は1ptで、物語評価も1ptとするか……」
すっかり書く気になっている僕の奥底には、既に作家としてのどす黒い闇が渦巻き始めている。
「これから僕が書く5・5の傑作に比べれば、この小説は1・1なんだからしょうがないよ。悪いね、作者」
学校に行く支度を済ませて食事をして早めに駅に向かう、ホームで電車を待ちつつ続きを読む。戦士と魔王は相討ちとなってしまったようだ。
定番の展開ではないのか? と思い首を捻る。これで終わりでは物語として破綻していた。
電車が駅に到着した。ホームに降りると急に頭が痛くなった。
「なんだ? おかしいな?」
頭を押さえてベンチに座るが意識が朦朧としてきた。
「ううっ何だ……、1・1の呪いか?」
気が遠くなる。僕は意識を失った。