第三話「異世界混浴」
ある日の午前中……。
「あ~~、暇だよ。やる事ないよ。ゲームもネットもないんだもの、暇だ」
ここ数日、珍しく魔人出現の通報はなかった。
「待てよ、すっかり忘れてた。異世界スマホがあったんだ」
僕はクローゼットに入れっぱなしのスマホを取り出し起動した。
「地域限定のスマホなんて使えるのかなあ? ゲームアプリはなし。ネットにはつながるけど異世界ネットか、漫画やラノベのコンテンツもなし、動画も見れないか……。これじゃあ暇つぶしにもならないよ」
スマホをクローゼットにしまう。
「あれ? そう言えば、アナは?」
「スイーツを探しにマーケットに行きました」
「女の子はいいな~~、異世界でも楽しみがあってさ。そう言えば、この街には何か観光スポットとかはないのかな?」
「観光スポットですか。海……、ビーチがありますが」
「えっ、そうなの? 水着の中学生はいるのかな? もちろん女子で」
「中学生がいるかどうかは分かりませが、隣の大きな街から観光で来ている人もいるらしいですが……」
「そうなんだ! じゃ、昼からは海に行ってみるよ。誰か一緒に行かない?」
「……」
「……」
「もーー、付き合い悪いなーー。まあ、女連れじゃあナンパ大成功も出来ないし一人で行ってくるわ」
街を出て海までの道を歩く。ほどなく海が見えてきた。
「お~~っ、海だ」
海外沿いの道沿いにいくつか、お店や宿のような建物がある。ちょっとしたミニリゾートだ。しかし……、ビーチには年配の男性ばかりが目立った。
「これじゃあオヤジの海だよ」
とりあえずビーチの中心付近に場所をとり、戦士アイで周囲をサーチしつつ少女の出現に備えるも……。結局夕方まで粘ったがオヤジの海状態は解消されず、僕は肩を落としてビーチを離れた。
暗くなってから【戦士ハウス】に帰り着くともう誰もいなかった。
「最悪の一日だったな~~」
翌朝、皆が出勤したので昨日の海体験について熱く語った。
「と、言う訳で現実はオヤジの海でしたっ」
「運が悪かったですね」
「私が行った時は女の子ばかりでしたよ」
「僕のツキはなんて運が悪いんだ。くわっ」
「他に観光スポットはないの?」
「温泉がありますけど」
「温泉! 混浴なの? 混浴? 早く言ってよ~~」
「私たちで行った事がありましたが、大きな露天風呂が一つあるだけでした」
「よーーし、じゃあ混浴露天風呂だ。なるほど異世界混浴だな」
僕は考えた。
「さて、一人で行ってもな~~。よーーし、誰か一緒に行こうか?」
「……」
「……」
「……」
「アナさん、ぜひお付き合い下さい。よろしくお願いします」
僕は作戦を変えた。一人で行ってオヤジの湯ではたまらない。やはりここで調達するのが確実だ。多少薹が立っていても仕方がない。ここは下に出て素直に頭を下げた。
「ぜひ、ぜひ、戦士の休息にお付き合い下さい」
「え~~っ」
アナはいくぶん顔を赤らめながら両手で頬を覆った。脈ありっ!!
「混浴なら水着OKなんじゃないのかな?」
「分かりました。水着が着れるなら……」
うまくいったな。たとえ最初が水着でも僕が下半身を露出させれば、彼女もだんだんとその気になるはずさ。クックック……。
「じゃ、明日の夕方は温泉GOねっ!」
翌日も暇な一日だった。やっと夕方だ。
「さて、温泉にっ、行っこうかな~~」
「戦士様、ぜひ剣をお持ち下さい」
ローゼがクローゼットを開け、ローションを取り出した。
「風呂に剣?」
「はい、あの温泉は森に入り込んでいるので時々魔人が目撃されています」
「了解る。さあ、アナさん行きましょう」
ローションを受け取り、僕とアナは温泉に向かった。
「まさかローションを持って温泉とはな~~」
「目撃情報だけですから。今まで人が襲われた事はないそうです」
「大丈夫。魔人が来ても僕が退治しちゃうから」
「心強いです。戦士様!」
魔人に襲われる裸の少女達を僕がペッタン、ペッタンと剣を振り回しながら、助ける訳だ。大車輪とか言ってぐるぐる回しちゃったりしてさ。女子の目が釘付けだね。
「あっ、見えました。あそこです。戦士様」
「アソコか……、やっと着いたよ、アソコに。あれ、閉まってるの? 何この張り紙??」
【温泉はこれからも戦い続けるぜ! 長い間、応援ありがとう。異世界温泉の次回開店に御期待下さい】
「……ふざけんなっ!」
ドンッ! 僕は壁を蹴っ飛ばした。(壁ドン)
「何なのこれ~~」
「そういえば、良くない噂を聞きました」
「噂?」
「はい。女性の裸見たさにやって来る覗きの男性が多くて、女性客が迷惑しているとか……」
「何だか現実の混浴温泉でもよく聞く話だなあ、覗き野郎を退治したいくらいだよ」
結局、またまた美少女観光は空振りだった。途中でアナと別れて、一人寂しく戦士ハウスに帰る。
「今日も最悪だったな~~」