第十三話「真異世界混浴」
翌日、街を出て街道沿いを四人で歩く。幅四メートル程の土の道だった。遠くに荷馬車が見え、僕らと同じ旅人のような人たちも何人か歩いている。
「僕は街からこんなに離れるのは初めてだから、ちょっとした遠足気分だよ」
野宿に備えて四人共にケープを着用している。街道沿いには旅人の為に休憩所のような屋根付きの建物が所々に点在していた。
街道の分岐点までは、半日ほど歩いて到着した。
「ここか……」
鬱蒼とした森の中に細い道が伸びている。
「ここからリーワーフまでは二時間くらいだよ~」
アナが先を指差しながら説明する。
道端の薄汚れたボロボロの看板が目に付いた。よく見ると現実世界の温泉マークに見える。
「これって温泉があるって事なの?」
「はい、街が健在の時は賑わっていたと聞いてますわ」
「今でも旅人が時々使っているらしいよ~。街で聞いた事がある」
スマホの地図アプリを起動する。良かった、まだ圏内だ。現在位置を拡大すると確かに温泉マークが付いていた。
「すぐ近くじゃないの、行ってみよう。お風呂に入りたいよ」
夢の世界で体を洗う必要はないが、僕は現実世界に戻れない特殊な状況に置かれている。
「皆はあっちの世界に帰って、いくらでもお風呂に入れるけど僕は違うんだ」
三人が同意してくれたので温泉に行く事になった。
しばらく歩くと看板が見え、そこには【温泉】と書かれていた。
「ちゃんとした建物があるんだ」
一応、受付、休憩所、脱衣場などの建物はそのまま残っていて、中にはタオルなどの備品もきちんと揃っている。
僕は風呂を覗いた。
「凄い! 本物の天然温泉だ。知る人ぞ知る秘湯だよ」
「休憩所も他の設備もとても古いけど綺麗なままですわ」
「へえ、この施設を創造した人はずいぶんと思い入れがあったのね」
「今でもホントに綺麗なままね~~」
「今夜は野宿かと思ってたけど、ここに泊まれるね」
一応、野宿用の毛布を持って来たが建物の中に泊まれれば魔人対策としても安心だ。
「じゃあ、僕はお風呂に入ってくるから」
夢の世界では、人は空腹になる事もないし、風呂に入る必要もない。これは生活習慣、嗜好の問題だ。
脱衣場で装備品を外して服を脱ぐ。
「久しぶりのお風呂だな~」
体を洗って湯船に入る。
「ふう~~、ちょうどいい湯加減だ。お風呂ってこんなに気持ちが良いものだったんだ~、ありがたや、ありがたや~」
畳で言えば十二畳かもっと広い湯船に、岩の裂け目からお湯が流れ注がれている。
「シンジ様、入るよ」
ナタリアの声だった。
「え~っ?」
バスタオルを巻いた三人が中に入って来た。
「私たちも入るからね~~」
「さあ、先に体を洗いましょう。マナーですわ」
参ったな~、本当に混浴温泉になってしまった。
体を洗った三人はバスタオルを巻いたまま湯船の縁まで来た。僕はついつい横目で見てしまう。
ローゼはタオルをスルリと外しつつ極力湯の上に肌を露出させないよう手で隠し、背中を見せながら首までお湯に浸かった。
ナタリアとアナは大ざっぱだ、タオルを後ろに外し捨て湯船に入る。スピード勝負で露出時間を減らした。
湯加減を確かめる習慣がないのは仕方がない。僕が入っているからまあいいか。
「私、温泉なんて初めて~」
アナは泳ぎ始めた。
「私も」
ナタリアも続く。
「シンジ様、お行儀が悪くて申し訳ありません」
「まあ、僕らだけだし良いんじゃないの」
ナタリアとアナが泳ぎながら戻って来た。お湯は無色透明で、底の黒い岩の上に彼女たちの白い体が揺らめく。
単に三人巨乳で済ませていたけど違うもんだな。一番大きいのはやっぱりローゼだ。背も高いし。他の二人は……、あんまりそんな事を考えているとのぼせそうだ。止めておこう。
頭に乗せていたタオルを下ろして目を隠す。
「シンジ様は私たちの裸は見たくはないんですか~?」
目隠しのタオルを外して目を開けると、アナが両手を底に着いて顔をこちらに向けている。
「そうよ、シンジ様」
ナタリアが同じようなポーズをとって迫る。
「えーーと……」
「お止めなさい、二人共」
ローゼが注意をする。
「シンジ様は、本当は見たいけれど私たちに気を使って見ないようにしているの。分った?」
いやいや、ズバリその通りだけどそこまでハッキリ言わなくても……。ローゼは容赦がない。
「私は見られたって平気よ」
「私も大丈夫よ~」
ナタリアとアナの二人は立ち上がった。
「あなた達……」
刺激が強すぎる。頭がクラクラしてきたぞ。昇天しそうだ。
「あれれ?」
「シンジ様あ~~」
「のぼせたみたい。早く引き上げましょう。手伝って」
意識朦朧の僕はそのまま湯の中に沈みそうになり、三人掛かりで外に引き上げられた。
「アナ、水筒を持ってきて」
「うん」
「ナタリアはタオルを水で濡らしてきて、沢山ね」
「はい」
全く情けない。戦士様はたかがのぼせで素っ裸の大股開きのまま、裸の巨乳三人娘に介抱される。
ローゼは後ろから僕を抱きかかえて、上半身を起こしてくれた。
「ナタリア、タオルをわきに挟んで。後、胸に広げでかけて」
「ローゼ、ここにも掛けた方が……」
「いちいち聞かないで」
僕の股間がアイシングされた。
「シンジ様、飲んで」
アナが水筒の水を飲ませてくれた。
「うーー、もう大丈夫そうだ。何だか急にクラクラして……」
「多分のぼせる、と想像したから実現になったのです」
ローゼは僕を抱きかかえながら手を胸に回している。
「シンジ様、彼女たちが裸になった訳をお話しますわ。私から何か感じませんか?」
「胸の感触が……」
「そうではありません! ナタリア、アナ、やってあげて」
二人は両脇に膝を斜めに折って座り、僕の手を取る。
「胸まで手が届かないね~」
「じゃ、ここね」
ナタリアがお腹の下の方に僕の手を添えた。アナも同じようにする。
「今度はどうですか?」
「……? うっ、分かる、分かるよ。上手く言えないけど、体が中にフワフワと浮かぶのを皆が繋ぎ止めているような感じ……。これは何なの?」
「同調です。シンジ様が魔に侵された時は私たちがこうして、魔を分散して受け入れるのですわ」
「そう、だから私たちは三人もいるのよ」
「私はこの中で一番未熟者だけど頑張るよ~」
「そんな事が……、魔に入られたらどうなってしまうの?」
「最悪死んでしまいます。私たちは恥ずかしいなどとは言ってはいられないのですわ」
風呂から上がり休憩所に毛布をひいて皆で横になった。
「明日は戦闘か……」
「はい、多数の魔人を同時に相手にする最初の戦闘になりますわ」
僕は少し身震いした。