第十一話「初戦」
翌日、午前中は通報を待ちつつ待機、依頼もないので午後は森に行く。僕にとってはこれが戦士デビューだ。前の戦士は大した戦闘描写もなく魔人を倒していたが、果たして僕はまともに戦えるのだろうか?
森に入り少し歩くとサッカーボール大の黒い塊がフワフワと浮かんでいた。
「これが魔雑魚か……」
近づいてみる。触るのは厳禁だ。剣を抜いて慎重に魔雑魚を刺すと魔雑魚は白く光って消えた。
「なる程ね。この魔の集合体が魔人なのか」
それから弓の練習をする。スマホが使えるのは有り難い。ネットで弓の練習方法など検索してみる。いつも見ていた小説投稿サイトに弓矢のエッセイがあるのには驚いた。一時間ほど弓の練習と剣を抜いて魔雑魚を退治する。
現実の世界で剣など当然、使った事などない。とりあえずアニメのシーンなど思い出しながら自己流で振り回してみた。
これで魔人と本気で戦おうと思っているのだから、自分でも気恥しくなってしまう。
「今日これくらいで止めとくか」
当面はこんな毎日を繰り返して、この世界に馴染むしかない。
昨日は西、今日は東と、森の中に入って魔雑魚狩りの毎日だ。そして、少しだけいつもより森の奥に入ったある日、僕はついに魔人に遭遇した。
その魔人は普通の人間サイズだった。黒に少し濃い青がかかったような色の体で、黒と言うよりそれは闇だった。指と爪が長く三十メートルほど先に立ってこちらには背中を向けている。
「さて、どうしようかな……」
弓を使う事にした。木に身を隠しながら十五メートル程に近づいて矢を放つ。命中すると魔人はバラバラになった。
「確かにこの弓矢の威力は凄いよ」
矢を回収してから、魔雑魚を念入りに剣で刺して消滅させる。
「やっぱり魔人は森の奥に行けば多くいるんだな。明日からは少しずつ活動範囲を広げてみるか……」
僕は拾い上げた矢を見た。強力なのは良いが五本だけとは心もとない。明日は武器屋に行って並みの力で良いから矢を何本か調達する事にした。
【戦士ハウス】に帰るとローゼから珍しい提案があった。
「今夜は皆で酒場に行きましょうか」
「賛成ーーっ!」
「行こう、行こう」
なんだか皆で、あらかじめ示し合わせていたみたいな感じだった。
「へー、皆も酒場なんて行くんだ」
「私たちの組合から新人が酒場に派遣されて、今夜は初日なんですよ~」
アナが質問に答えてくれる。
「なる程」
「それから、シンジ様のデビュー戦。初勝利のお祝いですね~」
「そうか、結界で見てたのか」
「はい、今日の結界は私でした」
アナが嬉しそうに答える。
酒場に行って四人掛けのテーブルに座る。
「あ~~、来てくれたんだ。ちょっと待っててね」
エプロン姿の女の子が両手にジョッキを持ってホールの中を忙しく歩き回っている。
「あの人が?」
「そうそう、イザベル。隣の街から来たのよ」
「彼女も戦士のアシストをやっていたんだけど、その戦士様が皇都に移動になったんで、この街に来たんだって~~」
「戦士が移動? そんな事もあるんだ」
イザベルがテーブルにやって来た。
「はい、お待たせ。ご注文は?」
「生ビールをノンアルコールで」
「私も同じで~」
ナタリアとアナがビールを注文する。
「私は赤ワインをノンアルコールで」
ローゼはワインだ。
「僕は……」
ここでミルクとは言えない。
「生ビールをノンアルで」
しかしワインにノンアルなんてあるのかな? 初めて聞いた。
「お待たせ~~」
飲み物が運ばれて来た。
「乾杯!!」
グラスを軽く合わせる。皆はなかなかの飲みっぷりだ。僕は恐る恐る口を付ける。
「うん、確かにノンアルだなあ」
わざとらしく言うと皆がクスリと笑った。R15小説なのだからノンアル設定は仕方がない。
「ところで、ここでの皆の休みはどうなっているの?」
「はい、私たちは交代でお休みを頂いておりますわ」
「そうか、僕には気を使わなくていいから、適当に休んでね」
「はい」
ローゼが返事をしてナタリアとアナが頷く。
「シンジ様も休みを取ってもいいのよ」
「そうだね、でも休んでも特にやる事もないしなあ……」
ナタリアはそう言うが、前の戦士も暇つぶしには苦労していた。おやじの海の一件を思い出し苦笑する。
「海もあるんだよね」
「私も休みの日に時々行きますよ」
そういえばアナは前にもそんな事を言っていた。
「ところで、こんな小さな街に皆のような聖女がなんで三人もいるの? イザベルもやって来たしやっぱり魔王が近くにいるからなのかな?」
「魔王の件もありますが、私たち三人で街への結界を張っているからですわ」
「街への?」
「うん、この街を創造した人はもう百年も前に亡くなっていて、街は残っているけど結界はもうずいぶん弱くなっているのよね。私たち三人で新たな結界を作っている最中なのよ」
「結界がないと街中まで魔人が侵入してくる場合があるから~」
結界の力で魔人を発見する事が出来るが、常時結界を張っているのは街の境界までなので結局、魔人の発見は通報に頼っているとの事だった。
「結界って僕に対しても張っているんだよね、森の中で感じるよ、皆にはそんな力があるんだ」
三人は顔を見合わせる。ナタリアが口を開いた。
「私とアナは聖女、ローゼが聖母と呼ばれているのよ~」
「ふ~~ん、僕が戦士で皆が聖女と聖母かーー」
「お気づきと思いますが、この世界は想像力が全てです。つまり戦いもそうなのですわ」
「想像しながら戦えって事?」
「そうそう、私だって想像すれば現実より早く走れるし、視力だってこちらの方が良くなるのよ」
「そうか、頭の中でイメージして戦うか……、現実での能力は、あまり関係はないのかなあ?」




