第十話「夢の中の街」
翌朝、街を見てみたいと言うと、アナが付き合ってくれる事になった。二人で外に出る。
「さて、シンジ様。どちらに行かれますか~~?」
アナが少し腰をかがめながらこちらを見て聞く。背はアナの方が高いのだから仕方ない。
「あの青い鎧はちょっと大袈裟だと思うんだ。もっと軽量のプロテクターみたいな感じのやつにしたいんだけど」
「なら、武器屋か道具屋。掘り出し物ならマーケットですね~~」
「全部回ってみよう」
「はい、シンジ様」
武器屋に到着した。石造りの立派な三階建で、間口も広くて中は客で賑わっている。
「小説の印象とはだいぶ違うようなんだけど……、もっと小さな店かと思ってた」
「ああ、それはたぶん前の戦士様にしては、これでも小さい店と思っていたのかも~~」
「なるほど」
中に入って店内を眺める。
「へー、凄いなあ」
壁には一面に剣やら弓、槍、斧、盾などが飾られている。棚には装備なのか装飾品か、よく分からない品物が並んでいた。
「しかし、戦士が僕一人の街になんでこんなに武器が必要なの?」
「一般の人もここにある武器を使えば、魔雑魚くらいは退治できますからね~」
「なる程、例えばここにある武器を僕が使ったらどうなるのかな?」
「もちろん、普通の人が使うよりずっと強力な武器になります」
店の中で装備品を見る。一通りプロテクター類は揃っているようだ。店主は忙しいようなので一旦、店を出て道具屋に移動する。
武器以外の様々な大工道具、農業用器具、食器類。その他色々な品物が棚に並ぶ。
「戦いに必要な物は特にないのかな?」
「靴とか、ベルトに付ける小物入れなんかが必要な時はここで手に入ります。革製品のオーダーメイドも受け付けてくれるんですよ~~」
「ふーん」
「ほら、このブーツはこのお店で作ってもらったんですよ。靴が必要ならここで注文ですね」
僕は自分の足元を見た。黒と茶色の革製のショートブーツ。編上げで戦闘用として特に問題はなさそうだった。
僕らはマーケットに移動する。こは夢の世界の住人が色々な品物を持ち寄って並べている、自由市場のような場所だった。
アナと分かれて一通り見て回るが、戦いに使えそうな武器やら装備品などはなかった。アナは何やらお菓子を並べている店と交渉中だ。
「アナ、お目当ての品は見つかった?」
「バッチリです。シンジ様は?」
「やっぱり武器は武器屋で探すしかないのかなあ」
「時々とんでもない掘り出し物が出るらしいんですけれどね~~」
「そうなんだ。今日はもう帰ろうか」
「はい」
「僕はもう一度、武器屋に寄って行くから先に帰っててくれる?」
「分かりました」
彼女と別れてもう一度、武器屋に寄る。客はだいぶ少なくなっていた。僕は店主に挨拶をして、事情を話し希望の品を伝える。店主は快くプロテクターや身につける装備品を奥の倉庫から出してくれた。
「前の戦士様は残念でしたね……」
「はい、彼は強かったみたいなので、後を務める僕はけっこう大変ですよ」
店主は最後に、装備で困った事があったらいつでも来て下さいと言ってくれた。
【戦士ハウス】に帰りクローゼットを開けると、昨日入れた青い鎧とボロボロのマントはなくなっていた。
創造主の交代と共に消えてしまったのか? 僕はプロテクター類と革製の上着を中に入れた。
「ねえ、ローゼ」
「はい、シンジ様。なんでしょうか?」
「魔人の通報ってどれくらいの頻度であるのかな?」
「少ない場合ですと一週間に一回位。多い場合ですと二、三日に一回ありますわ」
「そんなに出ないんだな……」
「は~~い、お茶が入ったよ。それとマーケットでもらったデザート」
アナが紅茶の入ったカップとパイがのった小皿を運ぶ。
「アップルパイだ。私も魔人出現の規則性なんて考えた事あるけど、何もないみたいですよ」
ナタリアがパイの皿を取りながら答える。
「うーん、そうなんだ」
「シンジ様。何か考えがおありなのですか?」
「考えって程の事じゃないけど、ヒマな時は森に入って魔雑魚の退治でもしようかなって」
「それは良いお考えですわ。全ての魔は魔雑魚の集まりですから」
ローゼは笑顔で答え、いくつかのアドバイスもしてくれた。
「うん、さあ食べよう」
今日は何事もなく日が暮れた。基本的には夜、魔人退治は厳禁だそうだ。彼らの夜の力は未知数で、人々は夜、現実世界に帰ってしまう。
現実世界に戻らず、夜もこの世界で過ごす僕は少し特別な存在だった。