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創世戦記「第七話から始まる、読者の異世界ファンタジー」  作者: 川嶋マサヒロ
第二章「第七話から始まる、読者の異世界ファンタジー」
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第九話「もう一人の戦士」

 透き通った青い空がぼんやりと見え始める。


 緑の隙間で点滅している光が、僕の感覚を刺激した。


 木漏れ日が僕の頬を照らしている。


 深い森の中で目を覚ました。僕は半身を崖に持たれかけて倒れていた。


「ここは? ……いったい?」


 病院のベッドではなさそうだ。起き上がって辺りを見回してから自分の姿を見てみる。青い鎧にボロボロのマント、森の中。


 見覚え、いや、読み覚えのある姿。この状況。


「夢……かな?」


 足を一歩踏み出すと鎧がガチャリと音をたてる。地面に落ちている剣に気が付き拾い上げて腰の鞘に納めた。


「現実? 夢の中? 小説の中?」


 僕が電車で読んだあの小説。最後の話では、主人公の戦士は魔王に倒され気を失っていた。


「そうだ! 魔王は?」


 聞き耳をたて、もう一度辺りを見回す。風が木々を揺らす音しか聞こえない。


 荒唐無稽な小説をいつも読んでいる僕であったから一瞬、頭に転生の二文字がよぎったが、すぐさま打ち消す。


 普通であれば倒れた僕は救急車で病院に運ばれているはずだ。


「つまりこれは、意識不明の僕が見ている夢の中なのかな?」


 僕はこれからどうしようかと考えた。


 駅のホームで意識を失った僕が単に夢を見ているだけにしても、此処に止まっている意味も理由もない。


「とりあえず街に帰るか……。いや、その前にあの弓と矢を探さないと」


 しかし、こんな深い森の中で目が覚めても帰りの道が分からない。作者は道順なんてまるで描写しなかった。


「そうだ、スマホだ。あった」


 スマホは脇腹のホルダーに収まっていた。


「スマホを使う場面は一度あったけど、本当に使えるのかな? これ」


 電源を入れると起動した。目当ての地図アプリもあった。これでなんとか、あの【戦士ハウス】に帰りつけそうだ。


 地図を見ながら劇中で戦士が弓矢を捨てた場所にあたりを付ける。幸い地面に落ちている弓矢はすぐに見つかった。帰りの道筋を見定めて、鎧の音をガチャガチャとさせながら草むらの小道を歩く。


「この鎧は過剰装備じゃないのかなあ、歩きにくくてしょうがないよ」


 とりあえず街に行ってからこの事態について考える事にした。あの三人ならこの状況をうまく説明してくれるかもしれない。森を抜けて草原の道を歩くと遠くに建物が見えてきた。


 僕はスマホの地図を見る。あれが街だ。名前はスーリフ。


「中世ヨーロッパの街並み、と言うよりヨーロッパのどこかの田舎って感じかなあ」


 時々観るテレビの海外旅番組のシーンをなんとなく思い出した。


 街中に入る。場所はだいたい分かるのだが、どのような姿の建物か想像がつかない。あの作者は【戦士ハウス】を全く描写していなかったからだ。


「戦士の家だし、やっぱりヨーロッパの御屋敷みたいな感じかな~?」


 地図アプリによると目的地付近に着いたがようだが、辺りにそれらしき建物はない。


「おかしいな~~? あれ?」


 すぐ近くの小さなオンボロ木造建物が目に着いた。ドアの横に【戦士ハウス】の小さな看板が掛かっている。どうやらここがあの戦士ハウスのようだ。


「まあ、夢の現実はこんなものか……」


 しかし、いきなり別人の戦士が帰って来て話が通じるものか、と考えていてもしょうがない。僕はノックをして、恐る恐る玄関のドアを開けた。


「あの~~、ただいま~~」

「お帰りなさいませ。戦士様」


 こちらを向いた三人のアシスタントたちは僕を見て固まった。


「ローゼ、これって……」


 赤い髪の少女が青い髪の少女に話しかける。


「変わってるよ~~」


 黄色の髪の少女が声を上げた。


「転移の入れ変わりが起こったようですわ」


 青い髪の少女、ローゼは事態を理解してくれたようだった。



 僕は正直に事情を話した。ネット小説でこの世界の物語が書かれていた事、駅のホームで気を失った事。そして、その主人公と僕が入れ替わった事。


 彼女たちの話によれば、夢の世界で行動できる力を持った人間同士の間で、稀にこのような転移の入れ替わりも起こるらしい。


「それにしても、ここは本当に夢の中なのか……。つまり僕が前の戦士の続きの役をやるのかな?」

「いえ戦士様。本人の意志次第ですわ……。その小説はどこまで書かれていたのですか?」

「うん、前の戦士が魔王に倒されて気を失うところかなあ。僕が眼を覚ましたのも同じ場所だったみたいだし、そのまま入れ替わったって感じかなあ」


 鎧とマントを脱ぎ、武器を外してクローゼットにしまう。


「僕にも出来るかどうかは分からないけど戦ってみるつもりなんだ。戦士様はなんだかピンとこないし、照れくさいからシンジって呼んで下さい」

「はい、シンジ様」

「僕って前の人と全然違う人に見える?」

「年齢も背格好も雰囲気も似ていますわ」

「たぶん趣味や好みも一緒だと思う。性格は違うみたいだけどね」


 彼女たちは戦士組合から戦士アシストの専門職として、この街ただ一人の僕の所へ派遣されている、との事だ。


「さて……」


 皆が組合の宿舎に帰った後、僕は部屋を眺めてみた。十二畳ぐらいの部屋にテーブルとイス、ソファー。


 キッチンにはガスコンロ、天井にはランプ、夢の世界は便利なものだ。奥の部屋にはベッドがある。


 更に、その奥には勝手口、外に出ると井戸があった。お世辞にも立派とか豪華とは言えない戦士の城。


「魔人と戦う戦士ってあまり優遇されていないのかなあ……」


 ベッドに横になって色々と考えてみた。


「ローゼか……」


 背中まである青くて長い髪。いや、濃い水色に紺色が混ざっている感じ、落ち着いた優しい性格みたいだ。三人の中では一番背が高い、リーダー的な感じだったな。


「それとナタリアか」


 髪は赤と言うより濃い朱色だ。癖っ毛のショートカット、行動的で活動的な印象だ。


「そしてアナ」


 金髪ではない明るい黄色。レモン色かな? のポニーテール、小柄で少し幼く見える。


 三人とも巨乳だった。


「僕に魔人退治なんて出来るのかな? 読むとやるとは違うだろうし」


 僕は前の戦士と魔王の戦いを思い出してみた。魔法が使える剣でぶつかり合うなんて、無茶苦茶でハイレベルの戦いだ。僕なんかには絶対無理だろう。幸い魔王は積極的に街にやって来て暴れるなんて事もないようだ。


「僕は本当にごく普通の中学生だし、身の丈に合った魔人退治に徹するかな……」


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