バイオバーゲンせール/娘が大人になる時
少女は、涙を流しながら用意されていたリュックを
背負い、手には使い慣れた猟銃を持って、ただ、
闇雲に荒廃した道を走り、泣いていた。そして、朝日が
少女が首からさげている銀色の首飾りを照らす頃、
少女は誕生日を向かえ大人になった、、。
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「ジェニー、いつも言っているが注意を怠ってはいけない!
あいつ等は死んだフリをしているかもしれないんだだから」
「二度止めを刺せでしょ。それに、ゾンビに死んだフリって
なんか変だと思うんだけど」
ジェニーは、背負ったリュックから缶詰や日用品を取り出し
棚に並べながら、背後で椅子に腰掛け、深くため息をつく
父親にそう言い返した。
「お前は口だけは達者だな。いいか、そういう気持ちでいると」
「ママみたいになるぞってことでしょ」
「ジェニー!!」
「、、ごめんなさい、、」
鉄の錠で頑丈に施錠されている入り口の横の棚の上には、
今もよりも若く、ふっくらしていた父親と笑顔の娘のジェニー
そして、二人の中心には、車椅子にのったキャシーが
幸せそうに微笑んでいた。
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朝早くに、二人は父親を先頭に食料や日用品、そして、燃料を
探しに行く、やつ等は朝から昼にかけては行動はおとなしく
特に、やつ等とは違う化け物は夜しかでてこない。
ジェニーは常に父親のエリックの背中を見て進み、ゾンビがいたとしても
出来るだけ弾を節約するために、エリックは腰に下げた大型のナイフを
取り出しゾンビの首から下を切り落とす。そして、いつも父は
崩れ落ちて動かなくなるゾンビをどこか、物悲しそうな目で見るのだ。
「パパ、アイツ撃ってもいい?」
娘の言葉に目線を動かすと、50m先にでぶでぶに太った
死亡が風船の様に膨らんだゾンビがゆっくりと
鼻をスンスンと動かし、よだれを垂らしながら、短い
両腕を伸ばしてコチラに近づいてきていた。
「、、いいだろう。いいかい?」
「撃つときは深呼吸、吐く時に撃て、弾は1発しかないと思え!」
「そうだ、一番大事なのは」
「「頭をぶち抜け!!」」
朝日の中で二人は顔を見合わせニヤリと笑うと、ジェニーは肩に
さげていた猟銃を両手に持ちかまえ、距離を10メートルぐらいに
縮めたデブゾンビに額に狙いを定めた。
深く呼吸し、両耳には自分の呼吸の音だけが大きく聞こえ始める。
引き金に手をかけ、ゆっくりと、大きく左右に揺れ動く
大きなたるに乗った風船に狙いを定めた、、
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「今日は豪華だね♪」
食卓には、数週間前に運よく手に入れた缶詰の肉詰めと
パンケーキが並び、上にはチェリーも乗せられていた。
「お前の誕生日だからねジェニー、もちろん、少し早いが
夜に、祝うのは賢明とはいえないだろ?」
「はは、、覚えててくれたんだね。私は、、忘れてた」
「忘れるはずないだろ。娘の誕生日だ。大事な、大人になる」
「大げさだよパパ、それに、私って、、もう十分大人でしょ?」
ニヤニヤと笑う娘に、エリックは蝋燭越しに苦笑いしながら
「まだまだ子供だ。ママだってそういうさ」
「えーーー!!ママはきっと、私を認めてくれてるもん!」
「今日あやうく死に掛けたのは誰だ?」
「もーーー言わないでよ!!あのデブが揺れ動きすぎなの、それに、
命中したはずなんだよ」
「こいつはアイツの肩に刺さっていたよ」
机上にエリックは鈍く光る弾を置いた。よくみると、弾の先には
穴が開けられており、そこに、銀色の鎖が通されている。
「デブのうち損じの弾が私へのプレゼント??」
「戒めだよ。それに、悪くは無いだろ?チェーンは純銀だ。
ママのを拝借した。」
「、、、ママの、、」
「あぁ、、私とママからのプレゼントだ。
18歳おめでとうジェニー、、」
ジェニーは板で覆われた隙間から入る、日の光に
輝く銀のチェーンをゆっくりと手に取り、首につけると
目の前で優しく微笑む父親に抱きついた。そして、衝撃でパンケーキの
上に乗っていたチェリーがコロコロと転がり、抱き合う
二人の間をすり抜け見事、脱出に成功したのだった。
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「パパ!!!!パパ!!!!」
鋭い爪が生えた長い両腕をピクピクと震わせ、
乱雑に生えた口だけの顔は、ジェニーが何度も撃ち抜いた
せいで原型をとどめておらず、イレギュラーはぶち破られた窓と同じように
絶命していた。
「パパ!!!!大丈夫!!!大丈夫だから!!」
「ジェニー、、約束通りにしなさい。」
「出来るわけないでしょ!!!」
エリックはとめどなく流れ落ちる血の中でぐっと立ち上がると
驚き、狼狽し、泣き続ける娘の頬を思いっきりビンタした。
「ジェニー!!!一番大切な、、、一番守らなければいけない約束だ!!」
血は、深く抉られたエリックのお腹から広がり、足先から
床を濡らし続けていた。
「パパ、、そんな、、私を一人にするの、、」
「違うよシュガー、、」
エリックは泣き崩れかけた娘を抱き起こすように抱擁し、
「お前が私の大切な娘だからこそ、やってもらいたいんだ。
お前を愛しているからこそ、、それに、大人になったんだろ?」
「違う、、子供でいい、、ずっと、、」
「あぁ、、お前は子供だよシュガー、、私達の大切な娘だ。さぁ、、」
動かないジェニーを優しく急かすように、エリックは娘の背中を
血だらけの手で押し、地下室へと降りていった。
ーーーーーー
地下の階段には深いホコリがつもり、どうにか手に持った
懐中電灯の光をたよりに、すでに、浅い息遣いに変わった
父親を肩で背負いながら、ジェニーは一段一段、階下へと
降りていった。
「着いたよパパ、、、」
「うぐっ、、あぁ、、ジェニー」
ジェニーは、苦しそうに喘ぐエリックをゆっくりと
大きなカーテンで覆いかぶされたモノの横に座らせた。
そして、父を見るとすでに、ホコリだらけの床も真っ赤に染まり始め、ジェニーは
父親の傍らに用意されていた、クモの糸の張った斧に目を向けた。
「さぁ、、ジェニー、、」
「パパ、、できないよ、、」
ジェニーの目からはとめどなく涙があふれ、血だらけの
エリックの顔に粒が雨の様に落ちていく
「出来るさ、、お前は私達の娘だ、、ママの娘だ。そして、
パパの言う事を聞かない自慢の娘だ、、」
「パパ、、」
エリックは右手をゆっくりと娘の頬に沿わせると、優しく
頬をさすり、
「だから、最後に1回ぐらいパパの言う事をきいておくれ」
青白い顔でニヤリと笑った。
「、、、うん、、」
ジェニーはゆっくりと、しかし、とまることなく泣きながら
斧を手に持ち、父に以前に教えてもらった様に、横に構えた。
「いいかいジェニー、、、自分の家を見つけなさい。ここは
パパで最後にしよう、、パパとママで、、」
「うん、、」
大きく、腰を後ろに引き
「行動するときは、朝から昼に、、だが、油断はしてはいけない
特に、今日みたいにね、、はぁはぁ、、特に、お前は
注意が必要だが、、」
「大丈夫だよパパ、、私ってもう、十分大人でしょ?」
斧は円を描いてスライドし、
「あぁ、、私達の自慢の、、、」
笑顔で娘を見上げる父親の首を跳ね飛ばした、、、。
ーーーーーー
駆け足で、泣きながら階段を上が音がし、ドアは乱雑に閉められ、
暫く、せわしなく子供の様に動きながら泣く音が
地下にもきこえてきたが、最後に、ドアが開けられ、
数分間、静まり返った、、そして、ドアの閉まる音を
最後にこの家から音がすることはなくなった、、、
静まりかえった地下ではひとりでに、エリックの横のカーテンが
音もなく落ち、そこには、首のない干からびた死体が
エリックと同じように座っていた、そして、指輪のされた左手を
エリックの右手が包み込むように優しく握り締めていた、、、。




