娘様降臨
娘様。名前はシヤドの設定を少々。
武家の生まれで、長い黒髪の姿見のそのままのお淑やかな弓道少女。
弓の届く範囲の止まった的であればまず外れる事はない見敵必殺の腕前の持ち主。
祖国の危機を前に、義の為に弓を取る決意をするが、血を流す争いを好まない性格であるため、素養は少なかったが圧倒的に数の少ない治癒師として後方に身を置き仲間を救う事を選ぶ。
だったかな?
中二の時に作ったきゃらだから仕方なしとして、グリだのソシャゲだの出る前からあるスレレスのある化石ゲームだったからね。
ちな、異世界来る前に、ゲームは停止しました。
「オレおれんんゎんわんたんわんたんわーしたーし、わたしわたしわたくし、わたくしわたくしわたくしーわたくしっ!」
「私、シヤドと申します?私、シヤドと申します。」
壊れたラジカセの如き訓練の果て、ようやく第一段階完了。
穏やかな笑みを扇子で隠し、しずしずと板間を歩く。
「どうにも、今一つ何かが足りないような気も致しますが…」
前作で一部が待望した女の子の影丞さ。簡易ではあるが、娘様プレイ開始。
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「ただいまー、飯できてっか?」
「疲れたよー」
二人が帰宅。半日の成果を見よボンクラ共め。
「おかえりなさいませ。お二方のお膳の支度は出来てますわ」
藍色のエプロンに弓道衣で三つ指ついて二人をお出迎え。
「真一、影丞が壊れた」
「普通にしてお願い。知らない人に変な事されたりしたとかじゃないよねっ!?」
ガクガクと真一に揺さぶられるし、健は腰が抜けてるみたいなんだが酷くないか?
「真一様、あまり激しく揺さぶられると肩が痛う御座います」
「…あ、はい」
大人しく手を離す真一を上目使いに、扇子で口元を隠し一言。
「どうぞお席の方へ」
「あ、はい」
なぜかペコペコしながら何時もの定位置に正座で座る真一。
チラッと健を見れば、腰が抜けたまま真剣な眼差しで此方をみている。
「シヤド?いや、シヤドじゃない。お前は影丞だなっ!?」
「いいえ健さん。私はシヤドで御座います」
そうゆうプレイです。
途端にクシャリと顔を歪める健。
「…そんな今更居なくなるとか」
「いえ、なりきりプレイですのでご安心を」
悲痛な顔から一転。げーんと開いた口が塞がらないようす。
「な…なりきり?」
「たまにはこうした趣向でお二方を労ってみるのも良いかと思いまして…」
いきなり暴露だけど、なんか“影丞が消えちゃった”みたいな雰囲気作り始めたから仕方ないでしょ。
「…わかった。間違いなく影丞なんだな?」
「ビックリした…」せく
胸をなで下ろす二人。
頬に手を置き、微笑みながら話しかける。
「これでも、一日仕草や言葉遣いに気を使ってみましたの。いかがでしたでしょうか?」
「…わかった降参だ。普段の影丞がシヤドじゃなくて本当に良かったって理解した」
「そうだね。シヤドはカワイイ系じゃなくてキレイ系設定だったの忘れてた。でも、一緒に居るなら影丞の方が落ち着くかな…」
二人して降参と両手を上げているが困った事が一つある。
「あの、わたくしが…影丞が普段どんな話し方されたのか忘れてしまいまして、思い出すまでこのままではおいやでしょうか」
半日頑張ったせいで冗談抜きで冷や汗ものである。
いや、この通り頭の中ではわかってるんだが、口から出て行かぬのです。
「「………」」
「情けない話なのですが、俄じこみのせいか、逆に頭の中のタンスが山積み状態でして整理が追い付かず申し訳なくぞんじます」
「…マジか」
「影ちゃん、無理するからそんな事になるんだよ」
床にパタリと倒れた二人。
「しかしながら、わたくしも今回の一件で、慣れ無き事はすべきではないと学びました」
「そーかよ。ありがとよ」
「…ご飯食べようか」
「では、お膳のお支度を…」
いそいそと立ち上がろうとしたら、健に座らされた。
「いや、その座りかたて女の子の…。いや、いいからお前はそのまま座ってろ」
「おかずは出来てるし、色々おかしな事になってるから、ご飯よそう位はボクらでやるよ」
オレの座りかたを見てかぶりを振る健と、ぎこちない笑顔でご飯の入ったお鍋に向かう真一。
膝から下を崩したペタンコ座りの威力抜群である。
淑やかに見えるような、横にずらした女の子座りも練習したが、あちらはなぜか直ぐに膝が痛くなる。
「左様にございますか。ではお任せ致します」
「わかった。頼むから静かにしてろ」
「…なんか調子狂うよね」
「完全におかしいだけだからな。一夜漬けで消えるほど柔な影丞じゃねぇ。一晩寝れば治るだろ」
「そうか、そうだよね。影丞は影丞だもんね」
完全におかしいだけとか、健さんの判断も如何なものかと。
オレもそう思うけどね。
「左様ですか。お食事が済み次第、お二方のお背中を流す手伝いを致します」
「…あぁ、それだけは絶対やめろ」
「いくら何しても、其れだけは譲れないかな」
ちょっとキレ気味の返事が恐い。
おや?目から水が…。
「…差し出がましい事を言ってしまい申し訳ございません」
「本気で怒った訳じゃねぇから!?」
「ああ。うん、まさか影丞にマジ泣きされるとは夢にも思わなかった」
オレも泣くとは思わなかった。
涙、泣いてるのオレ。
鼻水まで垂れてきた。
「わ、わたくし。どんな精神状態な…のでしょう」
濡らした手拭いで顔を覆って顔を隠す。
「一日分のストレスが今かかってんじゃねぇかな」
「ボクも他に考えられない」
つっかれた声だしてんな二人とも。
「…今夜は宿をお借りしてきますね」
「目の腫れが引いてからにしてくれ」
「僕らがなんかしたと、疑われない為にもお願いします」
「一応等級高い奴使っとけ…」
泣き跡くらい、普通ポーション塗りたくれば大事だよ。
とか思いながら、手拭いに上級ポーションをポタポタ垂らしてゴシゴシゴシゴシ。
「…消えました?」
「ぜんっぜん治ってねぇぞっ!?」
「え、今の上級ポーションでしょ。まさか影ちゃんポーション効かない人だったりしない!?」
「…わたくしにもサッパリでして」
今度は別の意味で二人が騒ぎ出した。
まぁ、濡らした手拭い当ててたら治ってたし、上級ポーションは切り傷や骨折なんかにはよく効くが、打ち身や腫れなんかには効きにくく、寧ろ等級の低いポーションのが其方に効きやすいのだと、後日知る事になる。
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「おはよ、オレこんなでよかったっけかな?」
「…いや、起き抜けに聞かれてもよくわかんねぇし」
「エプロン着けてるくらい普通だよね」
寝起きの二人は役に立たん。
心機一転しかたないから気分を新たにご飯を作って二人を待とう。
「どこからか、楽しげな鼻歌が聞こえてくるよ…」
「チクショウ、まだ完璧じゃねぇじゃねぇか」
布団の中で頭を抱える二人ですが、ワザとそうしているだけと思わないのでしょうか?
うふふ、二人ともまだまだですわね。
「ご飯出来たよ?」
「普通だけど、なんか変だ」
「うん、何かわからないけど…」
普通に接するも、尚疑いの眼差しのままです。
本当に失礼ですわね?




