影丞の心だ~
「影丞~!!」
昼を食べ、雑木林にンコをしにいった健が呼んでいる。
「なんか呼んでるよ?」
「ろくでもない事じゃないか?」
無視するオレの肩を叩いて教えてくれだが、ぽっとんな異世界と、洋式水洗化の進んだ現代ではお目にかかれない、伝説の巻グソでも出来たとかくらいじゃないの?
「おう、なんかよさげな洞窟発見したぜ」
「?」
戻ってきた健は、フック付きロープやクナイみたいな穴の開いた棒をインベントリから取り出し、わざわざ移し替え始めた。
うん、袋から出す分手間かかるだけなんだけど?
「これ、影丞の分な?」
探検するつもりで支度してくれたらしいけどよ。ロープ渡されても、腕力なくて自力で上がれねぇってわかってっか?
「行くわけねぇだろが」
腕立て伏せ六回を嘗めるなよ?
「前の影丞なら、大概の事は乗ってきたんだけどな…」
なんか、しょんぼりしてるけど今状況が違うからな?
「チャリとかバスケットならまだしも、落ちたら命に関わるだろ」
「軽気功でフワフワしてりゃ大丈夫じゃね?」
「フワフワしてても、結局登れないだろ」
懸垂で、自重支えるの精一杯を舐めるなよ?
「じゃあ、絶対離れない前提で行くならどう?」
真一も行きたいらしいけど、オレ異世界来てからろくでもない目にしかあってねぇからコレ以上の窮地に陥りたくないのよ。
「ちょっと足の先入れるだけなら大丈夫だって」
ヒロインなら“仕方ないな~”とかいながら着いてくんだろうけどさ…。
「覗いたら入りたくなるからヤダッ!」
なに言ったって、戦えないからクッソつまんねぇんだよ。
石投げ?おいおい。どう考えても、あれが濃霧起こした原因なんだぞ。
お前ら、カッコつけて地球上とか閉鎖空間で、後先考えずに陽電子砲ぶっ放したら早死にするぜ?
なおかつ、ゼロ距離砲撃なんざ、ロボットアニメじゃ死亡フラグも良いところさ。
「二人が入って危なくなかったら見に行く」
「…それ冒険的なものが何もないじゃんか」
「受付のお姉さんも、オレらほど自由な未成年いないって言ってたし…」
街から草原も、この世界の普通の未成年は行かねえとよ。
「向こうの暮らしと比べたら、生活費稼ぐだけで十分冒険だらけだわ」
日本なら、学校行って帰ってくりゃご飯くえるんだもの。
魔物に会わないだけで、冒険者の一人も雇わないで街から出て来るだけで、“避けられる危険を冒してる”っていわれてんぞ。
穀倉地でも、護衛居ないと普通は街から出ないらしいんだよ。
いや、コイツら強いからいいのだけど、洞窟探検なんかまた別物だろ。
「三人だけで洞窟探検なんか危ないだけじゃん」
「それだけど、元冒険者の大工さんなんかに一通り聞いて来てるから後は実戦だけみたいな?」
「…うんまぁ。習いはしてきたし、どうせなら魔物居ない所から色々試しときたいしな?」
「…マジか」
「マジだよ。別になんの知識もない訳じゃないし、ダンジョンとか少ないみたいだから、こんな時でもないと機会ないし…」
なんか、真一は真一でロープ編み込みで継ぎ足してるけど決定してない?
「あんま影丞が気にするなら、明日の朝からやればいいし」
「健のそれは、洞窟の浅さにガッカリするパターンだよ」
入口深く見えて実は入れない位狭いパターンとかな。
「でも、もしコウモリの巣だったら病気とかありそうじゃん?」
「「………」」
洞窟探検とかテレビで見ると、足元がコウモリのンコとかほとんどじゃん。
「いま、長靴とかないからもし足元ケガしたら大変な事になんぞ?」
「生うんこか…」
「…サンダル履きにはちょっとキツいな」
二人も足元みてるけど、この世界にあわせた編み込みのサンダル履いてるね。
健のフル装備だと、長靴みたいになってっけど、使われてる毛皮の毛足長いし、うんこ絡むよな。
真一はフルプレートだから、関節部分がうんこ詰まるよ。
「…マジで入口覗いてから考えてみるか」
「夕方前に、洞窟からコウモリ出てきたらアウトだね」
「ちょっと悪い。後で様子見に行ってくるわ」
様子見にいくくらいなら止めていいよ?
風邪はともかく、医者居ないらしくてウィルス性の病気とか感染症は治せるかわかんないんだからさ。
―でも。
いてもいなくても、オレは入らないぞ?
医者じゃなくて、根拠のない呪術的儀式で治す世界です
教会で神頼みとか…