スタンピーツ
そろそろ此方に来て三ヶ月。
ローブは内部遮断の機能付きで便利なので、オレはそろそろ貝になろうかと存じ上げまするる。
いきなりだけど、…今朝方スタンピード警戒態勢発令されました。
牛みたいな群で動く草食系魔物の大移動であったり、狂化した魔物の集団暴走や、知能ある魔物が徒党を組んでの報復行動がそれに当たるそうだ。
兵士や冒険者が集められ、元々ある防衛壕の補強をしてるようです。
二人も呼ばれて手伝いしてますが、たぶんウチは悪くないでございやすよ。
原因は、北東にある森で、普段は荷運びや力仕事をしていた若い冒険者達が、余裕が出来た奴らを集めて3グループ以上の団体で魔物の領域に出入りするのが増えたかららしい。
生態系破壊とか、ちょっと知能ある魔物を捕り逃がしたりを繰り返してしまい。
結果的に魔物が集結しスタンピードが起きてしまったらしい。ほら、ウチ関係ないでしょっ?!
つか、やっぱり魔物にも知能ありんだな。(誤魔化し)
地球じゃイルカとクジラで大騒ぎしてる人いるくらいなんだけど、豚人みたいに人を付けないで“桃色豚”と呼ばれてるオークは二足歩行で多少なりとも知性あるらしい。
そんな、オークみたいな人型の魔物食べたりするし、人と食料になる生き物の定義低くないか?
足四本あれば椅子とテーブル以外は全部食べる中国だって負かされるわ。
下手したら異世界人も人じゃないからと食われんじゃないかと不安になるぞ。
とにかく、周りは慌ただしく動き回り敵はもう目の前まできていて、弓兵に矢筒を運ぶ兵士が歩き回り、魔法使い同士がが外壁上部で打ち合わせをしている。
前線の見える外壁の上から、影丞リポーターがお伝えしました。
それはそうと、本格的に戦闘始まってから下に降りたら、落ちてる矢が拾えたりするんじゃね?
オレ、城壁の高さから飛び降りても平気なんだよね。
イメージとしては、風に煽られて舞うコンビニのレジ袋みたいな感じになるけど、理論的には、スカイツリーとかみたいな高さから降りても無傷で生還出来る。
落ちた振りして、拾いにいk…。
いやいや、ムチャは止めよう。どちらにしても、免許がないと許可でないってか捕まるし。
基本的に、後方支援はこんな時に無双出来なくてつまらないな。
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「オラよっと!!」
ーガゴギンッ!!
俺と真一で、丸太を地面に打ち込み、防護柵の広さを増やしていく。
廻りでも同様の作業が続いている。魔物の勢いを止める為の物らしが、隙間だらけの不格好なアスレチックを作ってるみたいな感じだ。
「いや~、なんか異世界らしくなって来きたね」
「俺、あんまラノベなんか読まねぇからわかんねーけぇが、こんなもん…かっ!!」
「そうだね。冒険者になったりすると、だいたいこんなイベント起こる感じじゃないかな?はい次」
「イベントな~、一応誰が死ぬかもわからんに、ラノベと混同すんのも大概にしておけ…よっ!!」
「わかってるよ。それに、僕らは作業が終わったら中に戻されるだろうし。はい次」
「そんならいいけど…よっ!!」
「「「「「「…………………………」」」」」
ガコンガコンと拳の一振りで丸太の三分の一が地中に埋まりゆく。
そんな二人の作業の光景に、駆け出しどころか、ベテラン冒険者まで作業の手を止めて眺めている。
「…なんだか、目立ってるけど」
「気にすんな。サボったら怒られるだけだって…のっ!!」
ガゴン…メキメキ
「砕けたね。はい次も同じとこね」
「木だから脆くて仕方ねぇな。…こんなもんバリになんのか?」
ガゴ…ドンッ!!
「鉄製品も高いみたいだし、よく言う予算の関係って奴じゃないの?」
「そんなら、堀でも作って水流しときゃ楽じゃね?」
「堀だと、水棲の魔物とか住み着いたりしてダメなんじゃないの」
「ワニはヤバいな、ワニは…」
「ワニ所かネッシーとかドラゴンだよ」
「いや、ワニのがやばいって」
「ドラゴンのがよっぽど危ないよ」
「いやいやいやいや、ガラ〇ワニはやべーんだって、」
「どこのワニの話してんだよっ!?」
「〇リコ」
「「「「「……(おまえ等のがヤバいわっ!!)………」」」
話しながらの拳槌打ちで、丸太は次々に地面に“撃ち”込まれて行く。
等間隔で鳴り渡るそれは遠雷か巨大な竜の足音の如く…。遥か遠くの大地にまで響き渡った。
ー夕刻、スタンピードを起こした“群れ”は、街の遥先の草原で足を止め、魔の森の方向にスタンピードを越える速さて“チリジリになって引き返して行ったとの知らせが街に入ってきた。
報告者によると、魔物達は音が響くほど“正気”に戻り、次第に進軍は止まったと言う。しかし、一匹が怯え始めた事で狂化すら生温いと表現出来るような、この上なく恐慌した状態逆方向に走り出し、仲間を乗り越え或いは押しつぶし我先に引き返して行ったと言う。
一体何が…