TKGからプリンへ
えいやぁ!の掛け声で金槌を卵に落とした。
「中身も普通なんだね」
「まぁ、新しいかわからんけどTKGで食えなかないだろ」
TKGにしたいから毒消しポーション買ってきたくらいだし?
綺麗な桶に中身を移し、自作の菜箸でオレがかき混ぜる。
「…量が多くてなかなか混ざんない」
このまま、移すと白身だけが茶碗にながれて、そのままテーブルに溢れるぞ。
「俺がやるから変われ」
「うぃっす」
健と交代。
チャチャチャチャチャチャチャカチャカチャカカカカカカ。
少しずつ慣れていくのか、変速機みたいに音が変わっていったが、白身がバラバラに別れたくらいで健が手を止めた。
「…と、俺はこれぐらい白身あるほうがいいか」
「…はえぇなオイ」
玉子焼にはまだまだだけどTKGなら程良い感じ。
「とりま、移すの面倒だからお玉で掬おうぜ?」
桶持ち上げて茶碗に移すの無理があるしな。
「それじゃ、ご飯よそいます」
お櫃に写して置いた麦飯入り赤米を二人の丼によそい、自分は小さな茶碗に少な目によそう。
まぁ、二人はサラダ用のボウルで、オレはミニサイズのサラダボウルなんだけどね。
他は平たい皿しかなくて、ちょうどいい形だったのがこれらだけだったから、茶碗代わりに使うようにしてるんだよ。
一人二個づつあって、汁物も持ち上げてガツガツいける。
日本にも小さなお玉みたいのあるけど、外国ってスプーンやレンゲやら使ってるけど、日本は基本的に箸しか渡されなくて楽でいいよな。
割り箸の中の爪楊枝は最後にシーシーする用だから、ナイフやスプーンとは扱い違うよね?
え、爪楊枝でラーメンは無理っしょ。いやいやイケル?そんなバカなっ!?
まぁ、肉食文化じゃなかったから着る必要なくて、箸で楽に食える魚料理ばっかになったのかもね?
「「「手を併せてください、いただきます」」」
塩だけだったけど、二月くらいぶりのTKGはうまかった。
健と真一のお代わりで、四合の飯が入っていたお櫃は、あっと言う間に空になった。
ほぼ飲み込みだね。
二杯目を噛み締めていたら、ついつい「あー、しあわせ」と言う言葉が零れてしまった。
「ああ、幸せなのは解るが影丞は自重しろ」
「…そうだね。そんな危険兵器みたいな顔しない方がいいよ」
そう言って、まだ食べてるオレを残し早々に外に出て行く二人。
ー娘様が可愛い過ぎるのは諦めて?
ゲームならスチルとか残るのにもったいないけども、幸せなんだから可愛いくなるのは仕方ない。
残りは、コショウで味変。
あ~、ピリ辛でこれも美味しいぃっ!!
醤油あったら、二人とも色々正気じゃいらんなかったかもしんないねっ!!
なに、普段とオレの思考が違う気がする?
気にするなとにかく今は、ただただTKGが美味過ぎるのが悪いのだっ!
食休みして、作業再開。
「それでは念願のプリンを作りたいと思います。イエーイ」
一人残されたオレは、牛乳と砂糖とトキタマをボウルに入れてかき混ぜる。
ちょっと卵多めの固焼きプリンの予定。
分量としては牛乳卵1対1に、砂糖はプリン液がちょっと甘く感じるくらい。
牛乳すくなくて砂糖入れすぎると玉子焼食べてる気分になるから注意。
プリンは玉子焼ではない。あくまでスプーンの上で“プリン”と震える事が重要である。
用意した陶器のコップに、プリン液を適度に流し紙を糸で縛って蓋をしたら、水をはった鍋の上に置いたザルの“簡易蒸し器”に並べていく。
いいもんなかったから取りあえず間に合わせで作ってみた。
もう少ししたら、なんかいい蒸し器を探してみよう。
とりあえず、釜に火を入れ蒸気を絶やさないように少量の水を足しながら三十分待つ。
中が見えないからちょっと長めにしてます。
炭を掻き出しそのまま冷めるまで放置。
いや、熱くて触れんし長めに待つ…。
冷蔵庫ないから、冷やさないで常温のままいただきます。
でも、それは二人が帰ってきてからじゃ。
とりま、美味いのはわかってるからな。
最初の一口は我慢して我慢して我慢してからくちにして、二人にとびきりの“とろけ顔”を晒してやんよ?
その日、二人は出かけたまま帰って来なくて、暗くなるまでプリンをにらめっこしながら待っていたのだが、大将が宿で寝るようにとわざわざ呼びに来た。
女将さんと大将に一個づつ試食してもらい、大将にはレシピ教えた。
作ったプリンはこれから宿の冷蔵庫で冷やして貰える事になったが、なぜに二人は帰らなかった?
ー解せぬ。
せっかく美味いもん作って待ってたのにとか思ったけど、勢いで早い時間に夕飯食べてしまったから、ら二人でフラリと夜の街に遊びに行ってしまっただけのようで、翌日普通に謝りに来た。
いや、そんなに女の匂い漂わせて謝られましてもね…。
ちょっと影丞が色街に食傷気味