トントンカンカン
トントン、カンカン鎚を振るう男の戦いが始まった。
長屋の改装が始まりました。
運び込まれた丸太をこの場で加工し必要な部材を作るスタイルらしいです。
やたら早いけど、大工さんらしき人のあれはスキルかなんかだろうか。
普通の鋸で、日本にあった丸鋸以上の速さで板を作り出し、カンナでシュカシュカ磨いていく。
なんと言う事でしょう。
出来た板を使う場所に合わせたら、他の人が釘を投げて固定完了です。
まさかの投擲ネイルガン(手動)で、トンカチ使ってるのは見習いさんですか?
遠距離特化のオレなら出来るかなと思ったけど、投げた釘が的に当たらず途中で消える不具合発生。
ちり紙投げてんじゃねぇんだけど風に攫われていみたいだけど、投擲の命中率低いならこりゃもう何も出来んぞ。
てか、壁に立てかけた板に向かって投げる度に強風が吹くし、投げた釘がどこにも見当たらないのはなんでだ。
どんだけノーコンなんだよ。
風に負けるにしても、あらぬ方向に飛んでくだけにしても、ほどと言うものがないだろうか?
でも、軽めに投げたら見事に釘か突き立った。
まあ、ダーツみたいに先端がささっただけだから、日本でもこれぐらいなら普通に出来そうなレベル。
マジでアバ体の意味ないな。
普通ならもっと、最強っとかって展開なのになんで、ひ弱な主人公モードなんだろ。
あー、腹立つわ。
健達は、丸太担いで…いや、掴んで歩いたりしてるし、とんでも主人公はあいつラだ。
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「最近髪の毛の爆発具合がすげぇ…」
目覚めて鏡の前に立つとボッサボサの野生人になっている。
長屋だとこんな事ならなかったんだけど、枕が良すぎるとかなんだろか?
とりあえず布で頭を隠し、宿屋の利用者向けに掘られた井戸に向かう事にした。
男子トイレ(立ちション用)を通り抜けた先にあるので、身動き取れぬ見ず知らずの冒険の焦る背中を静かに通り抜け(傍迷惑)た。
井戸でバケツに水を汲んで、首にバスタオル位の布を巻いてバケツに頭から突っ込んでバシャバシャとほぐす。
水から上げたその姿は…。
さーだーはーるーだぞー。
間違っても“子”にはしないで下さい。
あれは井戸から出てきますが、バケツに頭を突っ込んむ姿はありません。
野球の人なら爽やかな水浴びの感じしません?
ウチの二人が水浴びしてても爽やかさないけど。
「…何をしてるんだお前は」
「寝癖なおしてる」
背後から健に声を掛けられたのでバケツの中から返事をする。
ーワレワレハウチウジンダ。
いい感じに声がこもって、いつものかん高いあれじゃない。
「せめて、見た目くらい気にしようぜ」
そう言いながら背中に馬乗りになるとか何考えてる?
「…重いわ」
「体重かけちゃいねぇよ。ほれ、頭上げろ」
「おお、なんという“仕打ち”プレイ…」
「やかましい」
バケツからオレの頭を引き揚げながら髪の毛の水気を絞ってくれている。
頭が上がりきった時、絞られたら死んでしまう頭以外の水気はきれいさっぱり絞られていた。
服も濡れなくて済んだし、ちょっと便利とか思ったけど、結局力業だから毎回やられたら髪痛みそうだね。
いまの健達は、“雑巾絞り”しながら、そのまま引きちぎれますし。
ちな、手にやる奴ね?
「髪洗うのはいいけど、視界くらい確保するくらいしとかないと攫われんぞ」
「いや、それは流石に無いんじゃないかな」
塀代わりの長屋に囲まれた場所だし。
「アホ、水浴びする美少女とかどんだけ人目を引くと思ってんだ」
「…少なくとも色気はないと思う」
もし、ソの“バケツに頭突っ込んだ女”の絵面に、欲情なんかしたら人類として完全に負けだと思うぞ。
まず、日本にいたらBGMに火〇スのテーマながれるだろし…。
いや、“〇棒”のオープニングでもありか?
なんにしても、色気でのドキドキではなく、恐怖映像的ドキドキ感。
「エロくならないように、ちゃんと服も着てただろ?」
「そんな薄いシャツ、髪で濡れて透けるだけだろが」
「それくらい、人こないんだから大丈夫だと思うけど…」
安物だから生地は薄いけど、ここはほぼ人こないんだからよくないか?
「俺が来ただろ?」
どうだと、胸を張る健だが、健達に見られてそれから何か起こると言うのだろうか。
とりあえず、意味が分からないとばかりにコテンと首を傾げて呟いておく。
「………………え?」
「あざといわ」
スパッ!と小気味良い音で叩かれた。
「あざとくない、理解したくないだけだっ!!」
同年代よか一回り小さいからロリ予備軍なんだぞ。
異世界に、そんな大人居てほしくないわ。
「せめて襲われないようにしろ」
「オレは皆に避けられてるから大丈夫」
健達によく話しかける人なんかでも、オレと話をしようとはしていないって知ってた?
無論同年代の女子はおらず、居ても年上だから話しかけても話題なぞない。
もし、健達がいなかったら、異世界ボッチ放浪記になってたかも知れないんだぞ?
金策出来ずに奴隷ルートだな。
「…よかねぇよ。可愛い友達作って俺らに紹介してくれよ」
「下心かキサマ」
「…影丞に女のダチが居るだけで俺らが楽出来るし」
「楽ったって、基本的に放置してるだけだろ?」
「それはそうだが、異世界だし身だしなみなんか、全くかわからねぇしこの際どこかの婆さんと茶飲み友達になるでも構わねーし」
「可愛いロリババアとかリスク高いな」
「ロリババアじゃねぇよ。普通の年寄りでいいんだよ」
「無理、会話は苦手だし」
そんな器用な立ち回りが出来ると思ったら大間違いだ。
流石に、井戸端会議への参加表明は出来ないよ。
「健さんちゃーす」
「うぃーす」
頭を布でガシガシしながら話をしてたら、長屋の住人の一人、赤い髪のマリク氏がバケツを手にやってきた。
水くみしにきたようだ。
長々と話し込んでたから人が来ちゃったな。
「…こんちゃ」
「ちゅす…」
濡れた頭を隠しつつ挨拶しただけで、この返事のテンションの低さ。
何故にか、乾かした髪が風にパタパタ暴れ始めた。
「…相変わらず、エースケさんって感じすね」
エースケさんって人の名前を現象みたいに…。
「とりあえず、可愛く見えるから俺らの後ろに隠れるのはやめてようぜ」
健に男子トイレに押し込められた。
宿屋の入口だからわかるけど、お前女の子を無理やり男子トイレに向かわせるなんて仕打ちしてんの。
「はーどっこいしょ」
ついでに便所でもしていこうかね~と、立ち便に向き直る。
「バカなことしてねぇで部屋行けよ」
「…うぃっす」
なんか、健がメチャ切れてました。
この程度のフリで何がどうして逆鱗に触れた?




