こんな刺激はいらん
ー母さんピンチです。
800代台風直撃の如き暴風雨です。
天気が悪くなってきたなと思ったらいきなりきました。
閂が緩んでいたのか明かり取りの木戸(押し上げてつっかえ棒する奴)バタバタとベビメタもかくやと暴れ、入口の扉は蝶番さら外れて地面で水浴びの真っ最中。
雨の中飛ばされそうになりながら水溜まりに倒れた扉を回収しようとしたけど、全く持ち上げられませんでした。
現在、土間は吹き抜ける雨風に晒され、辛うじて無事な奥の物置に逃げ込んだ次第であります。
「…うぅ、誰かかえってこいよう」
正直泣き出したい気分ですが、仕事に行ったあの二人なら多分無事でしょう。
ふぁぐっ。どうしてオレだけこんな目に会わなきゃならないんだ。
惨めも惨め、どうしようもない状況に身動きとれません。
MaydayMayday。
こちら影丞、至急応援を求む。
航空機での爆撃が可能なら、頭上に落として現状ごと楽にしてくれ。
宿屋も入口閉じてあったから逃げ込めないし、どうしてくれよう。
布団とかも水に濡れて全損だし、着替えは真一が持ち歩いてるしもう打つ手ない。
梁に荒縄が吊るくってある。
……………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………死ぬか。(←かなり追い詰められてます
縄を輪っかにして梁に括る。
―うん、いい感じ。
それでは皆サヨウナラ。
…
…十秒
……二十秒
……………二、一
ー参りました、投了します。
縄片づけ、キリシタンじゃないけどなんとなく胸の前で十字を切る。
結論、首くくったくらいじゃ人は死なないなないない。
体が軽すぎるみたいでな、詰め襟とかネクタイ巻いたほうがまだ圧迫感あった気がするわ。
もしかして、飛ばされそうになるくらいエラい状況だったけど、実はそんなに風はキツくないとかないよな。
ないよなとは思うけど、二人が軽い軽い言うのも強ち嘘じゃ無いのか?
木製のイスや10リットルくらい水を汲んだバケツが持ち上げるのに苦労すんだから力がないのはわかってる。
もし、今の状態で18リットルの灯油のポリタンクに給油してくるよう頼まれたら、ガススタにそのままポリタンクを置いて帰るしかないね絶対。(マテ
てか、水の10リットルは鉄アレイ10キロより重い気がするのはなんでだろな。
体積かな?
何にしても、アバ体で首くくろうだなんてバカな事やってたな。
全身ずぶ濡れだし。
うん、生まれ変わったつもりで生きてみようか。
てか、体冷えてきたらなんだかトイレに行きたくなってきたんだけどどどど。
宿屋閉まったまんまよ?
雨は更に強く…。
窮地じゃね?
▼
「たっだいまー、酷い雨だったな」
「影丞、大丈夫だった?」
「おかえりなさい」
優しく微笑みを浮かべるのは光のない瞳。
水浸しの土間と闇落ちした影丞がそこにいた。
「なんだ、扉壊れたのか」
「うん、最初の風でハズレちゃったからビックリしちゃった」
「仕方ねぇな。ちょっと隣で道具借りてくるわ」
「うん、お願いね?」
健、普通に会話してるが気付けよ。
明らかに様子がおかしいよ。
だって、影丞の奴話してる最中、延々と同じ場所を拭いてるだけだよ?
「影丞、本当に大丈夫だった?」
「…うん、大丈夫だったよ」
ダメだ。コレダメな奴だ。
話してる最中も同じ場所だけ拭いてるし完全にダメな展開だ。
「……雑巾がけかわろうか?」
「いい、さわらないで………」
「……(ガクブル)……」
スッゴい目でにらまれた。
正直笑えないの状況なのに膝だけガクガクと笑ってる。
「なんだ、漏らしたのか影丞?」
戻った健が、部屋の匂いを嗅いで一言。
直後、影丞がマジ泣きした。
デリカシーなくてゴメン。
あの雨だし、女子トイレ宿の入口からしか入れないもんね。
本当にゴメン。




