あっさー
「…ほぼ完徹しただけじゃねぇか」
空が夜から朝に変わる黎明時。オレは健の背中をゲシゲシ蹴りつけていた。
「いや、悪かったって」
因みに真一は撃沈。
健と二人で弾幕を張りながらなんとか一晩やり過ごした。
二度とキャンプなんかしねぇ。
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「ふぁう、眠い…」
昼過ぎになんとか宿まで戻ってきて、夕方まで寝た。
ろくな事がないのは変わりなく、いま起きてもする事がない。
楽しい事があれば、夜更かしくらい出来るんだろけどさ。
「今日の夕飯は食堂でいいか…」
シャツと袴に似た辛うじて許容範囲内のスカートを履いて宿の本館に向かう。
健達は、起こそうと体を揺すっても、まだ寝ていたので放置。
夕飯をくいそびれるがいいっ!!
「大将!お任せで頼む!」
食堂に入ったオレはシュタッと右手を上げながら大将に注文する。
いや、どうせほとんど日替わりでメニューないもどうぜんだから致し方なす。
「あいよ、昨日はどこ行ってたんだ?」
「三人で湖まで行ってきました」
「…ゴブリンに懐かれてないだろうな」
「健がキングみたいでした」
「…ああ、あの鎧着てたらそうなるだろうよ。とりあえず食っとけ」
焼いたハムに赤い黄身の目玉焼、その下に虹色キャベツの千切り。
スープは薄塩の黄緑色で、黒パン。
相変わらず食卓の色がカオス。
手持ちの香辛料で味付けしモショリモショリと食事を終える。
うん、あれよ。
香辛料はポーション材料として買ったのが使えただけね。
それなりに高いけど、味付けに使えるのは使わないと勿体ない。
向こうの香辛料や野草とかを煮出し凝縮したエキスが原料じゃ、戦闘用ポーションが不味いわけだよね。
ポポタン系は家庭用とか日用品だから、むしろ味がしない。
クミンやミントも魔法道具屋に行けば手に入る。
魔法材料を香辛料に使わないのは、食材の色を生かすためらしいけど、見た目じゃ腹膨れないよ。
どんな歴史で、“食彩文化”なんか生まれたんだろうか。
とりあえず、着色料も使わないで黄緑色スープとか意味分からん。
魔力野菜とか言う奴が、香辛料との相性が悪いのが原因らしいけど、食べ物が薄味すぎてイミフです。
「…また味に手を加えやがったな、そんなんじゃいつまでたっても強くなんかなれねぇぞ?」
「だって、オレは元々戦えないし?」
「…ったく、臭いだけ美味そうなんざ反則だろうが」
「コイツは味も美味いんだからねっ!!」
「食材への冒涜は止めろっ!?」
小瓶を取り出し振りかけていると、周りの冒険者の喉が音を鳴らした。
因みに、このやりとりは予定通りで大将は協力者みたいなもんで味付けを広げている最中ですよ。
野菜炒めとか夕飯に作ってたら、大将が匂いに誘われてフラフラ来てしまったのが始まりでしたか。
塩の味付けだけですからね。
コショウの使い方教えたら、レパートリーは増えてくんですが、周りが受け付けてくれないんだよ。
複数の食材をまとめて一つの鍋で長時間煮込むのは勿論、トマト煮込みとかも新しすぎるらしい。
コンソメスープがないわけだよ。
赤色黄色青色の基本的なスープを混ぜて、好みの色を出すとか難しくないっすかね。
テーブルはキャンパスで料理人は画家みたいなもんですか?
ひさびさ