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西の森

森についてから、ギルドで教えて貰ったと川沿いを山に向かって進む。


いや、獣道と言うには開けてる道だから歩きやすいけど足跡が小さいのか気になる所です。


しかも、この地域のゴブリンは集団で狩りをし、大型の魔物も仕留めるそうだ。


夏場は産毛が生えていて、冬になると羊並みにモコモコになるらしく、抜けた毛を自分たちで集めて住処の洞窟の敷物にしているらしい。


危険な害獣を倒してくれるから保護動物扱いにされていて、此処のゴブリンを倒すと重い罰則があるらしい。


しかも、ゴブリン含め西の森の生き物のほとんどが冬には冬眠するらしく、冬の間は立ち入り禁止なんだそうだ。


まあ、割と安全な登山でお弁当持ちの気軽なハイキングくらい安全。



「寝袋が転がってる…」


「やべぇ。すんげーデカい幼虫」


「キモ…」


二人がバリバリと雑木を噛み砕く幼虫を前に足を止めた。

茶色い芋虫みたいな幼虫だけど、二メートルくらいあってキモイ。


存在自体が驚異。


「あれ狩ったら寝袋にならないかな」


「…健、いくらなんでもそれは厳しくないかな?」


「いや、あれなら雨風も大丈夫そうじゃん」


「大丈夫かもしれないけど中身どうすんだよ」


「あのイモ虫なら、むしろ食いでありそうだと思わねーか?」

デカさなら大したもんだけど食料に換算するの厳しくないかな?


「いや、タンパク質はとれそうだけどさ…」


真一もあまり乗り気じゃないようで遠巻きにしてるだけ、健がオレの手を離しインベントリから剣を取り出した。


蛮刀ではなく、ピアノみたいな鍵盤柄ついた曲刀で、あのガチャアイテムで敵を叩くと音が鳴るはずだ。


あれか、要らないアイテムか。汁がついても普段使わないアイテムなら、新聞紙的感覚で使いつぶせるからそれにしたか。


「俺はやるぞ…」


「いや、マジやめようよ…」


「何が起こるか分かんないから、僕らは下がってたほうがいいよ」


真一に手を引かれ、曲刀を構えた健から距離をとる。


「…止めた方がよくない?」


「安全マージンとってるし寝袋としては失敗するからいいでしょ。止めて止まるなら止めるけど無理だろうしさ」


真一は、イモ虫の後ろで振りかぶった健を見て仕留められないと踏んだらしい。


「くらえ!百万ボルトー!」


グシャ


振りかぶった健がフルスイングすると幼虫は中身を辺りに撒き散らしながら、革だけになって裏返った。


―幼虫わなリバーシブル。


「きょあっ!?」

「ぎゃあああああっ?!」


「……(°□°;)……」



やった本人呆然と立ち尽くし見ていたオレたちの足元に落ちてきた液体が濛々と湯気を上げている。


―イモ虫の口から中身吹き飛ばしおった。


「うわ、すげー毒液はいた毒液!」


健多分違うと思う。


音による分子運動とか破壊力のせいで体液さら沸騰してるんじゃないか?


「寝袋ゲットだぜ!!」


「「………」」


嬉しそうだけど誰が入るのそれ…。

いや、健が入るならそれでいいけど凄くキモいよ。


「他にも居るから全部潰すぞ」

意気揚々と歩き出す健。

その後ろをオレたち二人は無言でついて行く。

文字通り潰す気なんだろうけど、異世界に来て最初の戦闘がそれでいいのか?


遠くにちょっとした山くらいありそうな幼虫までいた。

いや、西の森には魔物いないって話してたけど、これが魔物じゃないならなんだっていうんだ?


「真一、魔物いるじゃんか」


「いや、空気が濃いと生き物が巨大化するとかあったしデカいだけならまだ違うのかも…。」

いや、確かに恐竜がいた時代は空気が濃くて、生き物が全体的に巨大化してたなんてテレビで放送してたけど、太古のトンボでも80センチが最高だよ。

二メートルの幼虫からどんなサイズの蛾が生まれると?


羽根伸ばして四メートルとか十分化け物だろ。


てか、健はなんで曲刀で幼虫をブシャ出来るんだ?

幼虫の殻が硬いにしても、中身全部ひっくり返しとか有り得ねぇ。


「…下手に食料になるよりいいよ」



「それはそうだけど、もう少しなんとかならないかな…」


「無理。それより、はぐれないようについてかないと」



真一はもう何かを諦めてるようで遠い目をしている。


「てゆうか、なんか集まって来てる」


「分かってる」


イモ虫の破片がある方向から、ギーギーという鳴き声がいくつも上がってる。


あれゴブリンだとしたら相当な数がいると思うんだけど大丈夫なんだろうか?


「…前見ないと危ないってば」

「はい歩いてます…………歩かせて?」


「遅いから棄却します」


後ろを気にしながら歩いてたら真一が、オレを小脇に抱えて歩き始めた。


「いや、本当に健から離れる訳には行かないし、遭遇したくないから!」


そのまま駆け足で健を追いかける。

初日に魔物と戦いたがってた人はどこに行った?


移動は楽になったし、前みたいに投げられるよかましだけど、この抱え方はワキ腹圧迫されるから以外に苦しい体勢になってんですけど?


「健!もう少しゆっくり行こう」


「おぁ!?なんだどうした影丞!!」


振り向いた健が驚いてるけど、抱えられてなきゃオレだけ取り残されてるからな。


「遅いから抱えてきたんだよ」

「悪いカンベン」


ペコペコと頭を下げてるが足元には二匹目の幼虫の殻。


「見ろ。後一個あれば全員寝れるぞ」


「いや、火の番人するなら三個はは要らないでしょ?」


「…えぇ~、もう一個だけだぜ?」


「とりあえず、僕は鎧着てるし毛布使うから大丈夫だよ」


「あ、鎧だと口から入れないか…」


「口じゃなくても入らないから気にするな」


「わかった。影丞と使わせてめらうぞ」


「うん、そうしてくれ」


―あ、真一の奴裏切りおった。

「なら影丞をこの中へ…」


「らじゃ」


真一がオレを脇の下で支え宙ぶらりんにして、健が下から幼虫(空)の口を開いて、オレの足元からイモ虫をズリズリと持ち上げてくる。


「…ちょっとカンベンしてくださいませんか?」


大人しくしてるからって、二人でイモ虫に無理やり押し込もうとするのやめないか?


イモ虫に足から食われてるみたいで正直気が気じゃないんですけどね。


「あ、オッパイが邪魔で入らないわ」


お腹まで上げた所で健が手を離した。


「人魚捕獲…」


「…きったない人魚だなぁ」


「太りすぎて三段腹のトドみたいだ」


「人魚はジュゴンでしょ」


「人魚かぁ?」


いや、人魚じゃなくてトレマー〇に食われてる人捕獲みたいな構図なんだけど、二人がやったくせに何物足りなそうな顔してんの?


後で覚えてろ?


二人を睨みながらイモ虫の口を広げて身を沈めていく


『…なんか、自分から入ってったけど?』


『…やりすぎたかな』


なんか行ってるけどオレは知らん。


貝になる。

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