乾煎りに拘りあり
平鍋を揺すりながら食材の間にせわしなく箸を滑らす。
ピーナッツ・大豆・お茶にポップコーンときて、更に珈琲豆とポポタンの根っこ。
うむ、熱を通せば雑菌が消え乾煎りしてから干せば、向こうの世の食べ物(激しく勘違い)はなんとかなる。
―乾煎りは美学だ。
▼
マーブルチョコからは、美味そうなピーナッツバターが出来そうになかったので、茹でた段階で白と茶に近いピーナッツを集めておいたのだ。
一粒一粒をすり鉢で潰し量を増やす作業をしていたら二人が帰ってきた。
「わぁ、なんかいい匂いがするね」
「影丞お土産。今なに作ってたんだ?」
「おつかれ、ありがとうー。マーブルチョコみたいのできたよ?」
「うわ、匂いはいいのに食べるのに勇気いりそう」
「色違いでたべたけど、味はひたすらピーナッツなだけだったよ」
色によって味の深みとかが違うのかもと期待したんだけど、色だけだったよ。
食べ慣れた色に近い奴のがほんのり美味かった気がする。
「ピーナッツまでこうなるのか。こっちの食いもんはこんなのばっかしか…」
お土産らしき袋を渡され中を覗くと真っ黒な肉が入っていた。鯨とか鴉の肉みたいに血合いっぽい奴。
「…どしたのこれ」
「厄落としみたいな縁起物だって話しだったから面白そうだったから、みんなで食べようかなと思ってさ」
「異世界に飛ばされるとか、運勢悪いにも程があるよね」
「いやまぁ、ちょっとだけならそれなりに良さそうではあるけどね」
「…まぁ、悪い事ばかりじゃないな」
二人は童貞捨てたから悪い事ばかりじゃないのか。
むしろ資金も得てエテ公はエンジョイいしてるよな?
「とりあえず、見た目はともかく、焼く匂いは美味そうだった」
ちょっと割愛するが、判決は有罪だった。
ただひたすらに塩の固まり。
本来は、パンに挟んで流し込むように食べるんだとさ。
「塩辛いけど、チマチマ食べるには悪くないかも…」
真一は気に入ったみたいで消費ペース早い。
「無理すんなよ。食べ過ぎても肝臓悪くなりそうだしよ」
そう言う健は、どくだみの搾り汁湯で口の中を濯いでいる。
「ご飯あんま美味くないから、これのがまだましだと思うし」
「ここの食堂はまだしも他は飯マズだな。」
「色が綺麗なだけで味しないよね」
そう言いながら二人の視線は、乾燥待ちのバタピーに集中している。
「やっぱり味がしないとな」
「…うんバターとかいいよね。ホントに」
まだ完成してなくても食いたいんだな?
知らないぞしっとりしてても。
「じゃ、食べるべさ?」
一掴みづつ木製の皿に載せて渡してやる。
「「げへへへ、ありがとよ」」
「礼などイラエ」
そんなゲスい顔して礼を言われましても、野党や物取りの知り合いなどいりませぬ。
何にしても、ピーナッツバター上手くいかない。
普通のジャムの要領で作ってみたけど、既製品ほどの出来じゃなかった。
バターが多すぎたのか、出来上がりが、水っぽい気がする。
固まったらまた混ぜてみるか…。
「ピーナッツバター出来たし、後は炒り豆とポップコーン作って…」
「…ポーション作らないのか?」
「うん、お菓子食べたいし」
「…そか、腹減るしな」
そう言いながら、健はピーナッツポリポリを摘んでいる。
乾燥トウモロコシの乾煎りでポップコーンで、大豆は最後に砂糖まぶして食べんだよ。
ポップコーンやるのに柄の取れた鍋を逆さにしてフライパンに被せて火の上でフリフリ。
砂糖が樹液から作ったメープルシュガーらしく、赤黒いからカラメルにしなくてもいいかなー。
塩と砂糖を半々にして食べさせたら、健が混ぜて塩キャラメルにしてくれた。
塩はもういいとか言うけど、同じだと思うよ?
でも、この砂糖使ってプリンを作ったら茶色いプリンになりそう。
小学校の家庭科の授業で茶碗蒸し作って以来、こっそり自宅プリン作って食べてます。
うん、玉子使いすぎだってよく母さんに起こられるけど、買うより沢山食べれるから、隠れてコソコソ。
―でも、しっかりバレてた。(涙目)
とりあえず、母は偉大である。
「…てか、今頃家の方どうなってんだろ」
「せっかく考えないようにしてたのに…」
「そもそも帰れんのか俺ら…」
二人が頭を抱えてる原因は、主に夜遊びしまくってるからだろうと思われる。
ほら、女遊びが過ぎると後悔するぞ?
オレはまだ処女だから大丈夫。
失うときには何か終わりな気がするから純潔・貞潔は守り抜こう。
組み敷かれるとか嫌すぎるしな。
「せいぜい、ワイドショーネタになるだけかなぁ」
真一が嫌にリアルな想像を話してくれる。
・少年三人が海釣りに行くと告げたまま帰宅せず。釣りの最中に海に転落の可能性。地元の漁協と海自出動。
いや、自衛隊近かったけど海難事故は多分海上保安庁までじゃね?
・自衛隊機墜落。少年ら三人巻き込む。
朝の通学路の事故ですか…。飛行機でそれは流石にないんじゃなうかな。
・少年三人が釣りに行くと告げたまま行方不明。
事件に巻き込まれた可能性も視野に指名手配。
指名手配されてどうすんの。オレら一体何やって警察に追われてんの!?
「朝、草刈り手伝わなかったし…」
ぼそりと呟いた後、真一は“プィッ”と横を向いた。
「それで指名手配じゃ家族が狭量過ぎるだろ」
「…俺、オヤジの財布から百円ガメてきたし」
「…………」
「………」
健、それは致命的かも知れn…、いやいや、オレは何も聴かなかった。
さて、菓子を摘まんでたらだんだん日が暮れてきたぞ。
何の対策もなされないまま、10日近く異世界にいたが、どうやら大分現実から逃避してたみたいだ。
―なんでオレこんなとこにいるんだろ?
A。作者のせいです