何にも雅じゃない
シュカッ!パンッ!!
黒扇を開いて閉じて。
シュカッ!パンッ!!
また黒扇を開いて閉じる。
健がギルドマスターが居る部屋に呼ばれたきり戻って来なくて、あまりの暇さに扇を弄ってるのね。
☆日本一ーーっ!
みたいな?
それにしても、長い髪の毛がうざったくて仕方がないよ。
作業中はそれほど気にならないんだけど、静かな場所に居るときの方が邪魔に感じる。
髪質は、割とサラサラしてるんるし軽いんだけどサラサラしてるせいか、纏まりが悪いったらありゃしない。
紐で縛っても、しばらくしたらほどけてきてるし、前髪も含め全部背中に回しといてもハラハラと落ちてくるから、ちょっとイライラしてんだよ。
右手で邪魔な前髪を掴んで引っ張りながら、左手で黒扇を開いたり閉じたりを繰り返して気を紛らわしているのだけどな。
人様よりほんの少し小さいだけなのに、椅子とテーブルの高さが会わないみたいだ。
多分正座で座ると丁度良いんだと思うけどさ…。
「やっぱこの髪の毛イライラする。なう」
あんまし邪魔だから、昼間にナイフで切り落としてやろうとしたんだけど、もらった支給品のナイフでキコキコしても切れなかった。
二人にも話しをして、健の蛮刀とか真一の槍を借して貰おうとしたんだけど、ソレを切るのはもったいない気がするから絶対貸したくないと拒否された。そりゃ、オレだって腰に届くほどの長い髪をなんか、漫画やイラストくらいでしか見たことないからもったいないと言うのも分かる。
分かるけど、肩をすり抜けチョロチョロ前に落ちてくる頻度が高くて、邪魔にしか感じてないんだよ。
だってさ、今の一昨日まで“スポーツ刈り”だったから前髪すらなかったんだぞ?
長年育てて来た人なら、姿勢とか仕草の中に対処方法も抑えているから邪魔に感じたりなんかしないんど、昨日いきなり生えてたから胸元含めて異物感がハンパない。
ただ、漫画や小説の“コレジャナイ”って感じとはまた違う気がするのが鬱陶しい。
風に煽られバッサバッサと暴れるし下を向く度に“暗幕”なみに視界を遮る。少し髪が長い人なら、言うこと聞かない髪の不快感をわかって貰える筈。
いや、くせ毛だの整髪材のCMみたいなシットリサラサラ~的な煽り文句じゃなくて、この長さは普通の女の人が床屋に髪切りに行きたくなるタイミングを遥かに超えてるのよ。
わかんないけど、寝起きにうずくまってると髪の毛でピミッド出きてんじゃないか?
自分で絵師さんに依頼した娘様は、なけなしのプライドを絞ったが故に、本来のオレより小さい設定だった。
そんなサイズの同い年なんて、クラスの女子でも数人しか居ねぇし、見渡すかぎり年下だけよ。
肩幅も狭なるし、それがまた広がり豊かなサラサラ髪を抑えられない原因でみたいでさ、
イライラすんのが完全に自業自得だってのが分かってるから、それがまたイライラすんのだよ。
「わかるけど、少し真面目に落ち着こう」
真面目に落ち着こうとか…。
「別にふざけてる訳じゃないし」
「よしOK。全然大丈夫。それも踏まえて“分かってる”から落ち着こう」
そう言いながら、真一は微風で肩に付着した長い髪の毛をぴっぴっと払っていた。
「ウチの子(髪)がすみません」
いやほんとにそんな嫌そうな顔しながら払われると悲しいんで…。
「ウーr…カシミヤだから静電気集まってるみたいでさ…」
いや、なんか見栄張らなかったか?今着てる服はカシミヤどころか羊毛ですらないだろ?
「いや、肌着にカシミヤ混じってるし…」
「いやないだろ」
「ゲームの中で飼育されてた羊ってに三匹だけだし、リアルカシミヤより貴重だと思わない?」
「思わないとはいわないけど、カシミヤはない」
だいたい、携帯ゲームのちんまい柵の中に居る家畜が何千何万頭全部書かれてても誰も見やしませんよ?
「いや、肌着にカシミヤ混じってたし…」
「いやないだろ」
「それに、ゲームの中で飼育されてた羊ってに三匹だけだし、リアルカシミヤより貴重だと思わない?」
いや、思わないとはいわないけど、携帯ゲームのちんまい柵の中に居る家畜が何千何万頭全部書かれてても誰も見やしませんよ。
それ基準にしたら、旦那嫁娘の三人家族が世界に一つあるかないかのレベル。
それどころか、貴族の家には“門番・執事・主人(依頼主)”
だけしかいない独身貴族がデフォルトで、三世代先までいる一家なんて、ほとんどのゲームで存在しない。
ー三を基準に纏めてみた!
ちな、村人どころか国王も右左移動するだけでのNPCだぞ。引きこもりばっかしかいないんじゃ、カシミヤどころか糸くずすら流通せんのだまから、それ以前に引きこもりで餓死になるわ。
バニーもメイドもおらんパフパフしかない世界に何の意味があるって考えてたら、コイツらだけパフパフ以上の事してきたのを思い出しちゃったよ。
ー嫉ましい。
流通ある設定なってんだろし、そこまで細かにやる必要ないだけだろ。
脳内補完しろと言いたいけれど、真一の中ではカシミヤで脳内補完したってだけの話でしかないからもう言わないと口を噤むと「ほんとだってば見てよこれ」“カシミヤ”の腹巻きを見せてきた。
ああ、確かに柄が“カシミヤ”か、それならカシミヤ以外の何物でもないけど、そんなん巻いてるの。
「インベントリにあったガチャの腹巻き」
「そか」
髪の毛の話だったのになんで無駄な事に頭回さなきゃならないのさ。
「はうぁぁぁ…」
…偶然と言うには不自然。気がつけば、一房くらいの髪の毛が真一の首を一周していた。
ガクガクと身を震わせているけど、人の毛を首に巻くとかないわー。冗談ならマシなネタ仕込もうよ。
「はぁ、なんかバカらしくなってきた」
「…ボクは、そろそろ影丞が恐ろしいものに見えてたよ」
髪のほどけた首を押さえながら真一が呟いていた。
落語に“饅頭怖い”っ話があったけど、オレのどのあたりが恐ろしいやら…。




