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ある冒険者の標

久しぶりに酒を飲んで寝過ごした男は小走りでまだ暗い道を進む。


男の名前は、サイモン。

若い時は、金があれば賭博と酒や女に走り、体格に恵まれ気に入らない奴が自分より弱そうなら喧嘩をふっかけ気絶した相手の懐から金袋を奪って歩いた事もあった。

40を過ぎて頭は薄くなり、筋肉が衰えが見えても、気性は落ち着かず、その粗暴さで依頼主と何度となくトラブルを起こした。

単体での戦闘能力は、ギルドの中核を担う、中堅冒険者に並んでも遜色ないが、誰より頭が悪く、中堅冒険者の一端を担う者として認めないギルドを逆恨みしている男がサイモンだ。


夜も明け切らぬ時間に関わらず、ギルドから怒号と罵声が聞こえると、男は何かを諦めゆっくり歩き出した。


「てめぇ、そりゃ俺が受ける依頼だっつってんだろうがっ!」

「ざけんな、てめぇはドブでも攫ってやがれ!」


「なんだと!?てめぇこの野郎!」


割のいい依頼があると、ギルドが言う中堅に満たない冒険者同士で羊皮紙がグシャグシャになるまで奪い合うなんてのは日常茶飯事で、いつもより遅い時間に目が覚め来たせいで、今日はまともな依頼を受けられそうもない。


溝浚いや便の回収などは最後まで残るだろうが、そんなものはスラムの住人がやることであって、金にとことん困らない限り受ける冒険者はいない。


受けるとしてもギルドの中に誰も居なくなる時間まで待ってから受ける。


「…どんだけ手が足りねぇんだよ」


回収系依頼が、採取系常駐依頼の中に紛れこませられているのに気付き男は悪態を付く。


しかも、糞便の採取と書き直され賃金はこちらのほう高いのは、冒険者ではなく一般の日銭稼ぎだからだろう。


「なんだ、ポポタン採取まであるじゃねえか。新しく入った奴でもいんのか…」


ポポタン採取の依頼を張り出す時は、新人が入って数日だけ張り出される。


普段は査定も厳しく人気のないポポタン採取もこの時ばかりは、買い取りの査定が甘くなる。ギルドが種を撒いている草原は冒険者の立ち入りが禁じられているが、こっそり忍び込んでそれ意外の場所のポポタンだと言い張れば小遣い稼ぎにはなるだろうかと考えた。

それに採取中に、新人が来てしまっても教えてやったなら名目もでき、男の採取した分も新人に渡しギルドに買い取らせて、平和的に指導料として巻き上げればいいんじゃないかと、路地裏のチンピラのような思考に至る。


過去に、何回か新人からこうした手段で金をせしめてきたが、何か不満を言い出しても、“優しく撫でて”やれば問題はなかった。


生意気にも未だに冒険者を続けてる奴が一人だけいるが、指導としてたかってきた連中は大概辞めた。


最近の王都に行きたがる若者のほとんどが餌食にあった者の縁者で、田舎で登録したがらないのは、うだつのあがらない連中が、新しい芽を摘み取りながら、生きていると知ってしまっているからだろう。


「なんだ、久しぶりに暇潰しが出来そうじゃねぇか」


サイモンは、若い奴らに押し付けてやるつもりで、溝浚いと糞便採取の依頼を受注し、喧騒の続くギルドを後にした。


「アイツまたなんか起こすつもりの顔してたぞ、俺ら依頼あるし誰かつけてけよ?」


「誰がいくんだよ」


「あ?しらねぇよ」


「無責任な事ほたえなや依頼よこしててめぇでやれゴラァ!」


「んだと、年寄りはいたわりやがれこのションベンガキがぁ!?」


「こないだも、ただ酒飲ましたろうがくそじじい?」


「はっ、あんな水っぽい酒飲んだうちにはいるか!」


「「…んだとゴラァ!」」


ギルドの中で、60になりそうなマッチョと、二十歳くらいの男の取っ組み合いが始まった。

カウンターで、寝不足の職員達がいびきを立て、受付嬢もまた静かな寝息をたていた。

いい感じの敵役ができただろうか?


パチュンで終わるかなぁ…。

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