物語紹介のSSー1
旧素材屋小説のコピぺではない。
それは黄昏より早く現れる。
禁忌と呼ばれた漆黒のローブをその身に纏い、なお漆黒よりなお深き黒の髪。
フードから覗くは、人肌であらざる白き面。
ツルリとした白無地の仮面で、自らより頭一つ二つ大きな行き交う群集から顔を隠し、足音一つ立たぬ歩みの下に伸びるは影法師。
夕刻に現れ浮き世ばなれしたその姿と、法師の纏うローブから人々に“影法師”と呼ばれていた。
「…あれ、素材屋さん一人だけですか?」
若い冒険者が話しかけると、ソレは静かに頷いた。
その後も、冒険者は幾つか話しかけ身振り手振りで、その身の丈からしたら大きな胸の膨らみを揺らしながら返事をする。
「若い女の子だけだと、危ないから気をつけて下さいよ」
「…(コクコク)…」
じゃあねー、とばかりに手を振り合って冒険者と別れる影法師。
その後も、往来に店を構える男達から話しかけられては、ジェスチャーで答えて歩く。
話しかける相手の視線が胸に偏りがちになるのも揺れ動くのだら致し方なし。
そもそも、大通りに店を構える人間は、彼女が白磁が如き白い肌の可愛らしい美少女と知っている。
だが、彼女は怪しい姿で一際目立つその容貌を隠し、暗くなる前に明るく安全な多い道を歩いて帰る若い少女のソレであった。
ーだが。
知らぬ者は我が目を疑い、すれ違った後、二度三度振り返る。
彼女を知らぬ者に聞けば謎のまま返され、知る者にははぐらかされる。
黄昏を歩む“謎深き影法師”の噂はこうして生まれ、彼女と言う存在は守られていく。
▼
「たっだいま~」
扉を開けた影法師は、幼なじみ達に帰宅を告げながら、帰り道の戦利品をテーブルに置いた。
それは、串焼きなどの屋台の店主から、お面外して味見してうかねぇかと渡され余った物である。
勿論、その場で頂いて最近では予想より旨い事も多く大変嬉しいと彼女は思っていた。
部屋の中には二人の男。
「お帰り、暑くなかった?」
「このローブのお陰で、不思議なくらい暑くないよ」
「僕らさっきまで暑い暑いいってたんだけどね」
「真一も着てみる?」
「破けても怒らないならね」
「渡せないかな…」
まだ昼間は暑い季節、中の二人は汗が浮いているにも関わらずローブを着込んでいた影丞の額には、汗一つ浮いていなかった。
「…せっかく仮面してるのに最近こうゆうの多いね」
置かれた戦利品を見た真一が、やれやれと言いながら溜め息をこぼす。
その横では、上半身裸で横になっていた健は寝たまま戦利品に手を伸ばしていた。
「おきゃーり、余ってんなら貰うぞ」
「汗臭っ!?」
「…全部くってやる」
ガサリと袋ごと床に下ろす。
「…床汚いんだから、横になるなら服くらい着ろよ」
「アチいんだよ」
「…汚いから着ろよ」
大気より板の方が冷たいのは影丞に解るが、裸足で歩く床に直に寝ている健にシャツを渡す。
「洗濯物増える…」
「床板が汗腐くなるよかマシだわ」
だらけたままの健に、怒ると言うより無表情になりかけながら影丞は言い放つ。
「わぁったよ、着りゃあいいんだろ着りゃあよ…」
健は、インベントリから濡れタオルを取り出した所で“ついでに身体ふいちまうか”と、全裸になって身体を拭きはじめた。
「…真一ヤツをどうにかしろ」
「ボクも、わざわざ振り向いて注意したくないよ」
言うなれば、ビッグ・ド・フトイ。
その危険性は、ひと半世紀前の戦争ならドイツのアハト・アハトで、現代なら長距離弾道ミサイルとでも表現しようか。
いや、影丞は別に兵器なんか有名所位以外はそんなにしらんけど。
影丞に視覚テロを引き起こした健は、シャツを着てからこう呟いた。
ー文明人になった気分だ。
なら服くらい着てろと、影丞は叫んだとか叫ばなかったとか…。
幾つか跳ばしましたが何か?